経済くりっぷ No.9 (2002年11月26日)

10月31日/経済法規委員会コーポレート・ガバナンス部会(部会長 村山 敦氏)

米国企業改革法にどう対応していくか

−わが国企業にとっての課題と米国SECに求めるべき事項


コーポレート・ガバナンス部会では、諸外国の情勢を踏まえたコーポレート・ガバナンスのあり方について検討している。10月31日には、太田洋弁護士・ニューヨーク州弁護士を招き、米国企業改革法の概要と日本企業にとっての問題点について説明をきくとともに、意見交換した。

I.太田弁護士説明要旨

1.米国企業改革法の特徴等

米国企業改革法(Sabanes-Oxley Act)は、大恐慌後の1933年証券法、1934年証券取引所法制定以来最大規模の証券関係法制改革といわれる。同法は34年法に従い様式20-FをSECに提出する会社(米国上場の外国企業等)に適用される。ただし様式10-Kを提出する会社(在米子会社や米国会社と同等とみなされる外国会社)にも適用があり、留意が必要である。なお、米国政府は今後、G7やOECD等で同法の規制をわが国会社・証券法制に導入するよう求めてくる可能性がある。
米国では1940年にSECが監査委員会の設置を提言した。その後、ロッキード事件などにより、1977年にニューヨーク証券取引所(NYSE)がメンバーの過半数を社外とする監査委員会の設置を全上場企業に義務付けた。最近では、1999年にNYSEは諮問機関(ブルー・リボン委員会)の報告書を受けて、3名以上の独立取締役からなる監査委員会の設置を強制している。2001年12月のエンロン破綻後の事件の取組みは、これまでの監査委員会の独立性強化をさらに推し進めるものであった。
企業改革法の特徴として、

  1. これまで州法や証券取引所規則が規定してきたコーポレート・ガバナンスに関するルールを初めて連邦レベルでの実体法的規制に定めたこと、
  2. 決算の正確性宣誓制度とそれに反した場合の禁錮20年という厳罰化に見られるように、重罰による不正行為抑止の制度を創設したこと、
  3. 従来のマーケットと事後規制に委ねる制度が事前予防規制へ揺り戻したこと、
が挙げられる。

2.NYSE・NASDAQ新上場基準案の要点

企業改革法の制定と前後してNYSEとNASDAQでは、新上場基準案を策定した。その要点は、

  1. 指名/企業統治委員会、報酬委員会の原則設置強制、
  2. 監査委員会メンバーの独立性強化、
  3. 取締役会全体の過半数を「独立(independent)」取締役とすることの義務付け、
  4. 従来のマーケットと事後規制に委ねる制度が事前予防規制へ揺り戻したこと、
である。
独立取締役の要件は、日本の社外取締役に比べ、取引関係者や家族関係者を認めない点で厳しい。一方、日本の社外取締役は「過去その会社・子会社の業務を執行する取締役・支配人・その他の使用人となったことがない者」であり、米国の「過去5年間雇用関係等がない者」よりも厳しい。米国で上場する日本企業は両方の基準を満たすことが求められることから供給源が限られている問題もあって対応が難しいことになる。

3.301条への対応

日本企業にとって特に問題となるのが日本の法制度にはない監査委員会の設置(メンバー全員を独立取締役とし、会計監査人の任命・報酬・監督について直接的な責任を負うものとする)に関する301条である。301条は、SECに対し、この規制に反する会社の上場を禁止するよう証券取引所・証券業協会に指示することを義務付けている。そのSEC規則は来年1月にパブリックコメントを経て、法定施行期限ぎりぎりの4月後半(期限26日)に施行されると思われる。ピット委員長のロンドンでの講演によればSECは外国会社への適用除外を認めない方針にあり、米国のローファームの中には個別ケースごとの条件闘争を勧める所もあるが、私は301条を包括的に日本企業に対して免除するよう要請すべきだと考える。
その際、適用除外の理由として

  1. 監査委員会が会計監査人の選任や報酬を決定するという要請について、わが国の監査役(会)には業務執行権限がなく対応できないこと、また、新しく導入される委員会等設置会社の監査委員会の権限も限定されていること、
  2. 来年から導入される選択制の一方の制度だけに適用除外を認めることのないよう、選択の自由がわが国商法の趣旨であること、
  3. 商法改正のときの社外取締役と社外監査役の要件は米国の独立取締役要件よりも厳格なこと、
  4. 経営の専門家(MBA取得者等)が少ないなどの社外取締役の供給源が限定されているというわが国固有の事情があること、
  5. 市場不信は、米国企業の不祥事によるものであることから外国企業には適用しない趣旨が上院の審議で明らかとなっていること、
  6. 外国企業に米国のコーポレート・ガバナンスのスタンダードを押し付けないことが、SECの伝統であること、
等を説明してはどうか。

4.その他の条項

その他わが国企業に影響のあるものとして、役員に対する会社の直接、間接の貸付が禁止されること(402条)、また、内部告発手続の整備義務が課されること等(301条、806条、1107条)がある。これらは日本の国内法との抵触はなく、むしろ日本でも、米国の量刑ガイドラインなどを参考に内部告発制度の整備が検討されている状況にある。さらに商法施行規則の改正で内部統制に関する規制が導入の見込みである。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
NYSEが検討している新基準は外国企業に適用されるのか。
太田弁護士:
従前通り、原案では、外国企業は適用除外とされている。

日本経団連側:
役員に対する貸付の禁止規制は具体的にどのように適用されるのか。
太田弁護士:
本年7月30日の施行前の貸付は対象とならない。貸付の範囲が不明確なのでニューヨークの大手ローファームが合同で、解釈指針を示している。例えば創業家から役員が登用されている会社が、その者が役員を務める創業家の資産管理会社に貸付けるような場合は規制の対象となる可能性がある。また、ストック・オプションに関わる融資や、コーポレート・カードの私的利用の容認も対象となると思われる。

日本経団連側:
301条に反し上場廃止となった企業の開示義務はどうなるか。
太田弁護士:
一定の株主が存在している場合は、上場廃止後も継続開示義務が課せられる。なお、上場廃止を免れる努力を怠ると、上場廃止で損害を受けたとして株主から訴訟を提起される可能性がある。

《担当:経済本部》

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