経済くりっぷ No.9 (2002年11月26日)

10月24日/防衛生産委員会(司会 前沢淳一 総合部会長)

米国同時多発テロ以降変化する国際戦略

−エイスブールIISS理事長よりきく


防衛生産委員会では、安全保障に関する研究活動、および「ミリタリー・バランス」等の出版活動等で世界的に高い評価を受けている英国国際戦略研究所(IISS)のフランソワ・エイスブール理事長より、米国同時多発テロ以降の国際情勢と戦略の変化について説明をきくとともに懇談した。

エイスブール理事長

○ エイスブール理事長説明要旨

1.同時多発テロ後の各国の戦略の変化

米国では、ユニラテラリズム(一方的行動主義)が強まる一方、国際的な連携・協力の必要性は一層増大している。米国は軍事面では、世界で圧倒的優位な立場に立ったが、軍事的力のみによって、脅威に対処する戦略には限界がある。
ロシアでは、安全保障や国防問題は二義的な問題となり、西側諸国寄りの動きをとる機会が多くなった。しかし、米国との間で、同盟関係を構築したり、敵対的な行動を起こすわけではない。
中国は、テロ後、中央アジアや南アジアにおける優位性を米国に奪われつつある。米国にとっては、現在も、将来的にも、対中国の位置付けは極めて高い。
日本については、10年前とは対照的に、現在、世界から過小評価されている。また、EUは内向的な動きを強めている。

2.同盟関係の変化

米国との同盟を基軸としながら日本では、中国や北朝鮮など近隣諸国との前向きな関係を構築する動きがある。中国や北朝鮮も米欧への接近政策をとりつつある。また、エネルギー面では、中国やインドも近い将来輸入国となり、中東の不安要素が大きな影響を与えるおそれがある。
さらに、北朝鮮に見られる通り、核兵器の拡散が現実のものとなっている。従来、想定されていた恒久的な同盟関係の構造が大きく変化しつつある。

3.危機の顕在化

独裁下での経済的・社会的な地域内部での対立の高まり、国家としてのアイデンティティの低さ等を背景として、中東、インド亜大陸、北東アジアをつなぐ「危機の弧」の問題が顕著となっている。近い将来、「危機の弧」に対する安全保障上の問題が顕在化してくるだろう。

4.国際統治の危機

大量破壊という手段を通じ、新たに、テロリストが国家に代わって大きな影響力を行使するプレイヤーとして、台頭してきた。
一方で、戦後、アジア、欧米で構築された同盟体制や、安全保障理事会を中心とする国連の権威は、危機的状況に直面しつつある。


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《担当:環境・技術本部》

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