経済くりっぷ No.10 (2002年12月10日)

11月22日/貿易投資委員会(司会 團野廣一 総合政策部会長)

WTO新ラウンドの現状とカンクン閣僚会議に向けた課題


11月14、15日にシドニーにおいて25ヵ国が集まりWTO非公式閣僚会議が開催され、途上国問題を中心にWTO新ラウンドの重要課題について議論が行われた。そこで、外務省経済局の鈴木庸一参事官より、交渉の進捗状況と来年9月に開催されるカンクン閣僚会議までの交渉課題について説明をきいた。

○ 鈴木参事官説明要旨

1.主な交渉項目の進捗状況

(1) 農業:
来年3月にモダリティ(自由化の方式)を合意し、カンクン閣僚会議の際に譲許表を提出する。シドニー非公式閣僚会議では、途上国は来年3月に農業分野において具体的成果があがることが他の分野への交渉参加の前提条件になると主張した。日本とEUは、すべての交渉項目を同時並行的に進めていくことが必要である旨反論した。2003年3月は、新ラウンドの大きな節目となろう。

(2) サービス:
シドニー非公式閣僚会議では、先進国が途上国に一刻も早くリクエスト・オファー交渉に参加するよう求めた。これに対して途上国は、「人の移動」でどれだけ先進国が市場を開放するかどうかを見極めるのが先であると主張した。

(3) 非農産品市場アクセス:
来年3月末までにモダリティの骨格を、5月末までにモダリティを合意することになっている。11月はじめに交渉委員会が開催され、日本とEUが提案を提出したところである。

(4) ルール交渉:
カンクン閣僚会合までに交渉対象を絞り込む。日本は、アンチダンピングの交渉項目を絞り込むことを避けたいが、米国はできるだけ交渉を絞り込んでいこうとしており、駆け引きが続いている。

(5) TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面):
地理的表示の保護推進のための多国間通報・登録制度の設立について交渉を行っている。EUは、履行義務を課す厳格な規律にすることを望んでいるが、日本、米国、豪州は任意ベースの緩やかな規律を望んでいる。

(6) 投資ルールの策定:
カンクン閣僚会議でコンセンサスを得て交渉に入るかどうかが決まる。米国は投資の定義にポートフォリオを含めるよう要求しているが、途上国は反対しており難しい状況だ。

2.カンクン閣僚会議に向けた課題

今次ラウンドで最も大きな問題は途上国問題である。シドニー非公式閣僚会議では、12月までに解決しなければならない案件(医療品のアクセス問題、途上国への特別な配慮(S&D)、実施問題)に焦点を絞って議論した。
医薬品のアクセスについては、HIVエイズ治療薬、マラリア等の感染症治療薬を途上国が入手できるようにTRIPSの改正もしくは例外扱いを認めること、2003年1月から法的効果を持たせることで合意した。今後は、対象となる途上国の範囲、コピー医薬品の製造が認められる企業の範囲、感染症の範囲等について議論を行っていかなければならない。

《担当:国際経済本部》

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