経済くりっぷ No.11 (2002年12月24日)

11月28日/新入会員代表者との懇談会(司会 和田事務総長)

新入会員代表者より日本経団連に対する率直な意見・要望をきく


今年5月および6月に入会した会員代表者7名および奥田会長、和田事務総長ほか事務局役員4名の出席のもと、標記懇談会を開催し、率直な意見交換を行った。以下はその概要である。

I.宇宙通信会長 江名輝彦氏

当社は1985年の情報通信の規制緩和を受けて設立された衛星通信会社である。初期の衛星通信はインテルサット(国際電気通信衛星機構)に代表される国際電話サービスが主流であったが、近年デジタル化を含むIT技術の進展と光ケーブルの急速な普及により衛星通信サービスの内容も大きく変化しており、大陸間を結ぶグローバルサービスから、多チャンネル衛星放送をはじめとする、いわゆるリージョナルサービスにシフトしつつある。
衛星通信事業はリスクも大きく、当社でも創業間もない時期に、2機の通信衛星を事故で失い多額の累積損失を抱えるという厳しい状況に陥った。2年前にようやく累損を解消したが、経営が安定するまで多くの時間を要した。
当社は衛星およびロケットのユーザーの立場にあるので、その点から日本の宇宙開発について一言述べたい。
最近、宇宙3機関統合に関する議論の場を含め、宇宙開発の産業化・商業化の必要性が広く論じられ、それに向けた施策も打ち出されつつある。しかし、ロケットについていえば、H−IIAの前身であるH−IIは外国技術を排し完全国産を目標に開発されたもので、国際市場での競争力といった経済合理性の視点は初めから欠けていた。H−IIAで大幅なコストダウンがはかられ販売体制も改善されたが、国際市場への進出はユーザーの目から見てまだ相当厳しいと言わざるを得ない。
日本の宇宙開発の規模を拡大し、さらに発展させるためには、従来の国家予算だけに依存する体質を脱し、海外需要も取り込む努力が必要である。日本経団連においても、その方向を目指し積極的に取り組んでもらいたい。

II.吉本興業社長 林 裕章氏

当社の創業は1912年で、戦前・戦後を通して「お笑い」を事業の基盤にしてきた。戦前は、東京・名古屋・京都・大阪・神戸などで約40軒の寄席を経営していたが、戦禍によりその大半を失った。戦後は、演芸をあきらめ、洋画の上映を主体にした劇場経営を再開したが、民放誕生と同時に、演芸も復活させ現在に至っている。
当社は、コンテンツ製作会社であり、「お笑い」を最も得意とする。その基盤となるのがタレントのマネージメントであり、これを基にコンテンツを制作し、配信・配給するのが当社のビジネスモデルである。
業界の直面する課題としては、コンテンツビジネスを取り巻く経営環境の未整備があげられる。例えば、ドイツなどでは、これらの事業に取り組む企業に対しては税制上の優遇措置を与えており、アメリカでは政府支援によるコンテンツ育成ファンド、銀行融資などの産業政策が展開されている。
このように諸外国がコンテンツ産業の育成に積極的に取り組んでいる中で、わが国の対応は非常に遅れている。日本経団連においても、コンテンツビジネス育成のための環境整備に取り組んでほしい。

III.アクセンチュア社長 森 正勝氏

当社は、経営コンサルティングを主要事業にしている。以前は、パートナーシップ制度を採用していたため個人経営色が強かったが、日本においては、1995年に株式会社に転換した。アクセンチュアは世界47ヵ国に進出しているが、日本での事業規模は比較的小さい。海外の企業に比べて、日本企業は社内で問題を解決することが多く、あまりコンサルティングを受けることを好まないことにその理由があろう。
先般、米国本部の経営会議に出席したが、席上、ある社外取締役から「日本経済は崩壊している」と言われた。確かに、日本経済はデフレと不良債権処理で苦しんでいるが、日本は世界一の債権国であり、家計には約1,400兆円の金融資産があるなど、経済のファンダメンタルズは非常に高い。
したがって、現在の不況を克服するためには、需給ギャップを解消し、低迷する消費を立て直すことを第一に考えるべきである。米国の貯蓄率は4%、日本は13%であり、いかに消費に向かわないかがわかる。国民の間に蔓延する将来に対する不安感が、消費を抑制し、貯蓄に走らせている。政府はこのような不安感を払拭するとともに、国民のニーズを汲み取って、国民が気兼ねなく消費できるような経済社会を早急につくるべきである。

IV.ホリプロ副会長 堀 一貴氏

当社では、タレントの育成・マネージメントのみならず、キャラクター商品の開発、ブロードバンド向けコンテンツの企画・配信なども手がけており、いわゆる総合エンターテインメント企業を目指している。
業界が直面する問題は、不正コピー問題をはじめとする著作権の侵害問題である。政府においても知的財産権の保護を打ち出しているが、特許権や工業所有権ばかりに議論が集中してしまい、音楽・映像・ゲームなどのエンターテインメント業界が切望する著作権保護には光があたらない。ソフトが頻繁に不正コピーされるような状況では、良い作品をつくろうという創作意欲が喪失し、ひいては日本文化の崩壊にもつながる。アニメ、ゲームをはじめとする日本のエンターテインメント産業は有力な輸出産業として期待されている。日本経団連においても、ぜひ、支援をお願いしたい。

V.ボーイング ジャパン社長 ロバート M. オァー, Jr. 氏

ボーイング社は、1916年に米国で誕生した航空宇宙企業であり、世界最大の民間機および軍用機メーカーである。日本では「ボーイング747」がジャンボ機の愛称でよく知られている。
日本は、ボーイング社にとって海外で一番大きいマーケットであるとともに、大切なパートナーでもある。また、有力なサプライヤーも多く、例えば「ボーイング767」の40%は日本でつくられている。
ボーイング社は、民間航空機メーカーから統合航空宇宙企業へと変わりつつあり、F-15イーグルなどの戦闘機開発や、宇宙関連事業にも積極的に取り組んでいる。スペースシャトルのメインエンジンは当社が担当している。
また、航行中の航空機の中からのブロードバンド通信サービスも展開しており、今後、数年内に、飛行機の中からインターネット、Eメールへのアクセスをオフィスと同じ環境で行うことが可能になろう。さらに、航空交通管理システムなどのエア・トラフィック・マネジメントや金融業務にも参入するなど、多角的に事業を展開している。
2003年は、ボーイングジャパン設立50周年という記念すべき年であり、さまざまな記念行事を予定している。次の50年も日本と密接な関係が築けるよう努力していきたい。

VI.日神不動産社長 神山和郎氏

当社は、首都圏を中心に「日神パレステージ」名のマンション開発・分譲を行っており、多くの顧客から好評を得ている。
日本経団連に入会した目的は、大学卒業後、すぐに不動産会社に就職したため、不動産業界以外のことは不案内な面があり、異業種交流を通じて知見を高めるとともに、活動の場を広げたかったからである。
現在、日本住宅建設産業協会の理事長を務めているが、直接、業界から政府に政策提言を行っても、業界エゴとみなされてしまう場合があり、憂慮している。住宅への投資は、経済への波及効果も大きい。日本経団連においては、固定資産税などの土地・建物保有課税や不動産流通課税の改廃、ローン減税等について、われわれと一緒になって政府に働きかけてほしい。

VII.シンシア社長 中西雄三氏

当社は、資源循環を主要事業にしており、ビルメンテナンス事業も併営し、廃棄物の排出から処理、再生までを一貫して行っている。一昨年、バーゼル条約に違反してフィリピンにゴミを輸出した事件があり、政府の委託で、戻ってきたゴミの処理にあたったのは民間企業唯一、当社である。最近では、BSEによる肉骨粉等の処理も行った。
当社では東京都品川区に、日量130トンの焼却炉と溶融炉(焼却灰を溶融し、スラグにする)のあるR・C(Resources Cycle)センターを運営している。また、不用となったパソコン等IT機器の解体・再生を行うリサイクルセンターも運営している。R・Cセンターの再資源化率は99%、リサイクルセンターは94%であり、いわゆるどうにもならないゴミはわずかである。
一般にこうしたビジネスは静脈産業といわれているが、常に再生、再活用という視点で事業展開しており、現場ではこの言い方はピンとこない。
日本経団連に入会したのは、環境ビジネスに対する認知度を高めたいこと、また、多くの人に環境ビジネスの現場を理解してほしいことにある。容器包装・家電・OA機器などのリサイクルが法律によって義務づけられ、来年には自動車リサイクルも法制化されるが、現場を知る人間からみれば、ゆゆしき問題であり、大変な事態になったと言わざるを得ない。
法律や理念ばかりが先行して、実際に解体・再生を行う現場が追いついていけない状況にある。このままやみくもにあらゆる物のリサイクルが義務化されると、不法投棄が横行するようになる。
リサイクルという言葉がひとり歩きしているが、本来はそのモノの適正処理はどうあるべきか、を先に確立しなければならない。廃棄物・リサイクル問題に対する日本経団連の考え方は、よく承知しているが、ぜひ、現場の声を汲んだ上で、政策提言をしてほしい。

《担当:総務本部》

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