経済くりっぷ No.11 (2002年12月24日)

11月16日/第7回日中産業シンポジウム

中国企業の“誠信”の課題

−第7回日中産業シンポジウムにおける張彦寧 中国企業連合会理事長の講演


日本経団連は中国企業連合会と「誠信経営・持続可能な企業発展のために」をテーマに、中国蘇州市において第7回日中産業シンポジウムを開催した。“誠信”とは「嘘をつかず約束を守る」という意味であり、企業倫理の問題を取り上げた。日本経団連から奥田会長、森下副会長、柴田副会長、立石CBCC(海外事業活動関連協議会)会長が出席したほか、日中両国経営者約170名が参加し、活発な討論を行った。
今中国でも粉飾決算などが続発し、企業への信頼感が揺らいでいる。同シンポジウムでは、中国企業の“誠信”の状況、今後の取組み等について、張彦寧 中国企業連合会理事長の講演をきいた。

張理事長

○ 張理事長講演要旨

1.中国経済の現況と中日経済関係

中国経済は、改革・開放政策実施以来順調に発展を続けており、今年度のGDP成長率は8%前後が見込まれる。石炭、鉄鋼、セメント、化学肥料などの生産量は世界一になった。しかし、経済規模は未だ米国の1/10、日本の1/4であり、一人当たりのGDPは1,000ドルにも満たない。労働生産性、生産構造、技術水準、企業集積の度合いなども先進国から大きく後れをとっている。中国が先進国に追いつくにはまだまだ長い道のりが必要である。
中日間の経済・貿易関係は、相互補完型である。双方の経済構造は同じではなく、それぞれが持っている強みも異なっている。日本は依然として大きな優位性を持ち、両国がともに発展していく機会も分野も少なくない。中国の経済発展は、日本を始めアジア地域に対し脅威を与えるものではない。

2.中国企業の“誠信”の状況

米国では、詐欺と脱税のスキャンダルが続発している。米国は健全なコーポレートガバナンス、強制的なディスクロージャー、および独立した会計監査の3制度によって企業の運営秩序を保ち、会計基準も最も科学的であると言われていた。しかし実際は、米国の一部の企業が投資家を騙していたため、投資家は企業や社会全体に対して不信感を持つようになった。
中国でも、証券詐欺事件、会計情報の捏造事件などが立て続けに起こっている。また、偽物、劣等品が市場にれている現象はいまだに根治されていない。
市場経済は契約と合意の上に成り立っている。誠実と信用を大切にしなければ社会における取引のコストが増大するばかりでなく、多くの経済活動ができなくなる。現在のところ中国企業の信用状況は、中国市場経済が発展していく上で一つの弱点となっており、すでに企業の発展を制約する重大な要因となっている。

3.中国政府の“誠信”構築への取組み

1990年代以降、中国政府は誠実と信用の構築に向けて、さまざまな活動を展開している。
朱鎔基総理は今年の「政府業務報告」の中で「社会の信用を着実に構築し、誠実と信頼を基本とした、節操を重んじる好ましい気風を全社会に逐次形成していくべきである」と強調した。
中央政府では、すでに企業や個人の信用調査に関する立法と実施案の検討を始めており、地方政府も信用体系の構築に力を注いでいる。地方の取組みとして、上海ではすでに個人や企業の信用をデータベース化した信用調査システムを構築している。北京でも15の行政部門が連合して「企業信用情報システム」をつくり、重大な違法や不正行為に対する警告情報などを提供している。このように中国では、政府を主体とした信用情報の公開システムと収集体系が既に確立されつつあり、その機能が徐々に発揮されている。

4.“誠信”確立にあたり経営者がなすべきこと

誠実と信用の構築には、政府の施策とともに、企業経営者が以下の3点を実行していくことが重要である。
まず第1に、経営者は「信用は一つの社会的資源である」という理念を確立しなければならない。信用の浸透は、取引コストを低減させ、多くのビジネスチャンスを生み出す。経営者は信用に対する意識を高め、企業の信用に関するイメージを極力維持していく必要がある。これと同時に従業員に対する信用教育を強化し、企業内部において誠実で信用を重んじる雰囲気を創り上げなければならない。
第2に、経営者は誠実と信用を確立するための行動基準など、企業内の制度を構築していかなければならない。特に自己規制、内部管理を体系的にマニュアル化していくべきであり、主として内部管理強化の対象は「人」である。
第3に、経営者は国内外の信用管理経験の吸収に力を入れなければならない。中国の市場経済体制はまだ完全なものではなく、市場における秩序を整備していく必要がある。先進国では信用管理面で問題も存在しているものの、信用体系、法律環境、企業の内部管理などの面で豊富な経験を蓄積しているので、中国企業は真剣に学び取っていく必要がある。

5.“誠信”確立における中日の合作

誠実と信用の構築は全世界が抱えている大きな問題であり、各国の政府と企業とが協力していく必要がある。中日両国間の企業合作は日増しに深くなっている。誠実と信用構築の検討は、両国企業の交流を促進し、両国の経済発展を推進する上で、極めて重要な意義を持つものである。


シンポジウムに参加した日本人の経営者からは、「市場経済化とグローバル経済の進行の中で、中国社会においても企業の信用問題が大きな関心事となっていること、そしてその当事者である企業も、経営の根本的課題として、信用を高めることに大変努力していると感じた」との感想が聞かれた。

中国企業連合会とは
中国の企業、地域経営者団体、産業別経営者団体等、約436,000の会員から成る、
国家経済貿易委員会の下に位置付けられる中国の代表的な経営者団体。
《担当:国際労働政策本部》

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