経済くりっぷ No.11 (2002年12月24日)

11月27日/中国委員会(共同委員長 森下洋一氏、 千速 晃氏)

WTO加盟後の中国が抱える問題は、国有企業と農業部門である


11月27日、中国委員会を開催し、拓殖大学国際開発学部の渡辺利夫学部長から、「21世紀の中国経済の発展戦略と課題」について説明をきくとともに、委員会の最近の活動および今後の活動について懇談した。当日は、森下、千速両共同委員長、大國植林協力部会長をはじめ、約90名が出席した。

I.渡辺教授説明要旨

  1. 11月8日から開催された中国共産党第16回全国代表大会では、初日に江沢民総書記が報告を行った。この中で注目すべき点の第1は、所得格差や失業、党幹部の汚職・腐敗をこれまでになく強く糾弾したことである。裏を返せば、これは党の末端の幹部、現場の幹部の汚職・腐敗がいかに激しいかを物語るものだと言えよう。第2の点は、農村における土地使用権の有償譲渡を大幅に認めたことである。ジャーナリズムではあまり大きく取りあげられなかったが、この措置は中国が自ら社会主義国家を標榜する論拠を失うことにつながると思われる。そして第3の点は、よく言われる通り、中国共産党が私営企業家の入党を認め、それにより党勢拡大を図る方向に転換したことである。

  2. 中国経済の発展ぶりから、最近とみに「明るい中国」というイメージで一面的に捉えられがちである。しかし内部から見ると、中国は実にさまざまな課題を抱えている。最大の課題は、WTO加盟に伴う一連の規制緩和が本当に中国の経済発展に利するかという点である。長期的には確かに利するのであろうが、今後中国がグローバルな競争に巻き込まれていく中で、中国経済の最も競争力が弱い部門、すなわち国有企業と農業部門は淘汰されていくことになろう。経済学の理論では、非効率的な部門が淘汰されれば、そこで用いられていた生産要素はより効率的な部門にシフトして、全体としての生産性が向上する。しかし、これはあくまで長期的な話であり、それが実現する前に起こりうる問題は多くある。そのマネジメントを誤ると大変なことになるとの危機感を中国共産党は持っている。

  3. 中国経済における国有企業のプレゼンスは依然として大きく、国有企業改革が成功しなければ中国経済の更なる浮揚はない。さらに、中国は巨額の財政赤字を抱えており、4大国有銀行の不良債権比率も日本のそれより高いが、これらの問題を解決するカギは国有企業改革の成否にかかっている。WTO加盟によって中国は国有企業改革を加速せざるを得ないが、この点において中国政府はもはや切るべきカードを切り尽くしている。残る最後のカードは株式制の導入であるが、これは社会主義の根幹に関わる重大な問題であり、中国のアイデンティティ・クライシスにつながるリスクをはらんでいる。また、国有企業改革を進展させれば、失業者が増大し、社会不安が増す。国有企業が多い東北部では、すでに失業者による政治的な抵抗運動が激しくなっているとの話もきく。改革を進めることによる利益と、改革が進むことで生じるリスクを正しく秤量することは難しい。

  4. 農業部門も中国においては競争力が弱い。中国の国土のうち、耕地として利用できる面積の比率は11.4%であるが、実際に耕地として利用されている面積の比率はそれよりもさらに低い。そうした中で13億人の人口を養うためには、生産性の向上が必要である。

  5. しかし、中国の農業は小規模であり、一人あたりの耕地面積は東南アジア諸国の水準よりも低く、生産性も低い。また、WTO加盟により、中国の農業は輸入割当や輸入許可制、農業補助金、輸出補助金などを廃止して国際競争にさらされることになったが、競争力においては圧倒的に劣る。このため中国の農村の労働力は、潜在的失業者と考えられる。WTO加盟に伴う自由化で農民が雇用機会を失い、失業が顕在化すれば、都市と農村の間の所得格差は絶望的なまでに拡大することになる。

  6. 内陸の農村から沿海の都市への流動人口は、最大で8,000万人、最小でも5,000万人と言われる。都市ではこうした農村からの流入人口に加えて、国有企業改革により生じる失業者や一時帰休者も加わり、巨大な労働供給圧力がかかる。この圧力に中国がどれだけ耐えられるかが、中国政府にとってここ数年の最大の課題となるだろう。

II.環境植林協力について
  (大國植林協力部会長報告要旨)

1998年の長江流域での大規模洪水を契機に、環境植林の重要性が再認識されたことから、日本経団連では、重慶において2001年〜2005年の5年間に、570haを目標に環境植林協力事業を行うこととした。すでに約86万本、190haの植林が完了している。
このプロジェクトでは、持続可能な発展と地元との共生を両立させる「モデル植林」事業を目指すとともに、将来、日本企業が中国で植林事業に取り組む際の参考になることを目標としている。プロジェクト実施にあたっては、会員企業から5年間で約1億円を募金し、うち8,000万円を苗木購入などの植林直接経費に、約2,000万円を事務局経費など間接経費に充てる予定である。すでに目標の約7割が募金されているが、あらためて会員各位の協力をお願いしたい。

III.今後の中国委員会の活動について

  1. 企画部会では、本年3月に「WTO加盟後の中国経済に対するわが国経済界の見方」と題する報告を取りまとめた。これを受けて、同部会のもとに「対中国通商問題ワーキング・グループ」(座長:篠原巖 日本電気常任顧問)を設置して、今後の中国との通商問題やビジネス上の諸問題について検討することになった。

  2. なお、日本経団連として中国の新しい指導部との意見交換を行うため、2003年5月を目途に奥田会長を団長とする訪中ミッションを派遣すべく、準備を進めることになった。また、北京―上海間の高速鉄道プロジェクトについても、懇談会を設置して、経済界としての対応を検討することになった。

《担当:国際協力本部》

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