経済くりっぷ No.11 (2002年12月24日)

11月28日、12月6日/東亜経済人会議日本委員会(委員長 香西昭夫氏)

第30回東亜経済人会議に向けて

−事前打合会、結団式を開催


東亜経済人会議日本委員会では、第30回東亜経済人会議(12月9日、10日)に向けて、11月28日に事前打合会、12月6日に結団式を開催した。事前打合会では、東洋学園大学の朱建栄教授から「北東アジアの政治経済情勢と中国・台湾の通商戦略」について説明を聞くとともに、第30回東亜経済人会議に提出する、「日台FTAに関する検討報告(案)」が原案通り承認された。
また、結団式では、慶應義塾大学の国分良成教授から「最近の台湾をめぐる国際関係」について、また、経済産業省通商政策局の成宮治大臣官房審議官から「東アジアの経済連携をめぐる動向」について、それぞれ説明をきいた。

I.朱教授説明要旨

  1. 中国共産党第16回全国代表大会には、3つの重要な意義がある。第1は、人事の大幅な若返りである。政治局常務委員の7人のうち、第3世代が6人も退くなど、新指導部は60歳代からなる第4世代に移行している。第2は、「三つの代表」論が明確に打ち出され、党が生産力、文化とともに大多数の国民利益を代表するとした点である。これにより、労働者や農民を基盤とした従来の共産党から、私営企業家を含めた国民政党への道が開かれた。今後、共産党は一種の社会民主政党へと進んで行くだろう。第3は経済政策の変化である。例えば経済成長に関しては、均衡のとれた発展を掲げており、従来の沿岸部を中心とした「先富論」から内陸重視へのシフトが窺える。また、環境に配慮した持続可能な成長を遂げるべきことも主張している。

  2. 中国の通商戦略については、ASEANとのFTA交渉に注目する必要がある。中国がこれを推進するのは、第1に、東アジアの地域経済協力を進め、そのメンバーとなることで、米国からのプレッシャーをかわすという政治的な理由がある。第2は、経済的な理由である。1997年のアジア通貨危機以降、中国は、自国経済の発展には地域協力が必要であるとの観点から、WTOにおける多国間交渉と並行して、地域経済連携を推進している。第3は、東南アジアにおける対中脅威論の除去である。もともと中国の発展とASEANの発展との間にはゼロサム的な部分があることから、FTA締結を提案することで、中国はASEANとともに発展することを目指しており、決して脅威ではない、というメッセージを送っている。

  3. 台湾は日本に対してFTAの締結を提案しているが、そこには過度の経済的対中依存を回避しようという政治的な思惑がある。一方、中国は日台FTAに対し断固反対の姿勢を示している。
    日本としては、台湾や中国からのアプローチに対して、冷静に対処すべきである。これからの北東アジアの国際関係は、北朝鮮問題についても言えるように、バイの観点ではなく、多国間の観点からとらえる必要がある。台湾とのFTAについても、それが日台中の全体の利益となるように調整していくべきである。

II.国分教授説明要旨

  1. 中国共産党第16回全国代表大会では、中国における台湾問題の重要性があらためて示された。党大会で発表されたいわゆる「江沢民報告」では、台湾について普段よりも多く言及されており、「祖国の完全統一」や「台湾問題の早期解決」といった言葉がくり返されている。また、三通(両岸の直接の通信・通商・通航)が中台にとって共通利益であること、外国勢力や台湾独立派に対して警戒心を表していることなども、同報告の特徴となっている。

  2. 昨年9月11日のテロ以降、米国の関心は中東・中央アジアに移り、東アジアをカバーする余裕がなくなってきた。こうしたなか、米国は、中台問題が顕在化することで東アジアにおける安定が損なわれることを危惧している。本年10月に江沢民国家主席が米国を訪問した際、ブッシュ大統領は台湾の独立を支持しないと語ったとされるが、そうした発言は現在の米国の立場を表明したものと言えるだろう。このように、米中関係は、9月11日以降、一見友好的なものに変化している。

  3. しかし一方で、NATOの東方拡大とロシアの準加盟、米国とインドの共同軍事演習、ミャンマー政権の米国への接近、中央アジアへの米軍の駐留などといった米国のテロ対策は、中国にとっては対中封じ込めと映っている。このような状況にあって、対米関係を最重視する中国としては、台湾問題の解決を優先することで米国との友好関係を確保しようと試みている。

  4. 現在、中国とASEANのFTAが推進されているが、中国としては、AS EANという安定市場を確保することのほかに、経済統合から台湾を除外する可能性を示すことで、台湾を経済的に取り込む、ということも狙っているのではないか。現在、すでに台湾と中国の経済的な統合は進んでいるが、今後一段と進展するかもしれない。

  5. 台湾とのFTAについては、日本は米国、ASEANとも相談しながら推進すべきである。その際、台湾のFTA締結に反対している中国に対しては、経済的な論理のもとに納得させるべく、外交努力を行う必要がある。日台関係は国交こそないものの経済的に重要であり、日中関係の犠牲にしてはならない。

III.成宮審議官説明要旨

  1. わが国は、WTOへの取組みに加え、ビジネスの実体を踏まえて、経済的な結びつきの深い国・地域との経済連携を進めている。また、こうした取組みの中でも、東アジアを特に重視している。

  2. 東アジア諸国・地域との経済連携の進捗状況については、日・シンガポール新時代経済連携協定が11月30日に正式発効したほか、11月の日・ASEAN首脳会議では、ASEANとの間でFTAの要素を含めた経済連携を10年以内のできるだけ早い時期に実現することが合意された。また、タイ、フィリピンとの間では経済連携に向けた作業部会が設置されており、韓国とも産官学による共同研究会でFTAに関する検討が行われている。一方、日中韓FTAは、中長期的な視点から検討すべき課題と考えている。今後もわが国経済を活性化させるべく、東アジアの経済連携を推進したい。

《担当:国際協力本部》

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