経済くりっぷ No.11 (2002年12月24日)

11月13日/資源・エネルギー対策委員会、環境安全委員会合同委員会(委員長 秋元勇巳氏、共同委員長 山本一元氏)

新エネルギー政策による都市と経済の再生


「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」が2002 年5月30日に可決、2003年度から運用が開始される。資源・エネルギー対策委員会と環境安全委員会は、合同委員会を開催し、RPS制度策定の中心的役割を担った東京農工大学大学院の柏木孝夫教授(総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長)を招いて、制度の概要やわが国の省エネルギー・新エネルギー政策について説明をきいた。

I.柏木教授説明要旨

1.新エネルギー政策

新エネの定義は「CO2排出量が小さく、経済性が石油と比べ商用段階に至っていないもの」で、わが国独自の定義である。2001年6月に策定された需給見通しでは、新エネの導入目標を2010年に1,910万kl相当、一次エネルギー総供給の3%とした。
新エネの弱点は稼動率の低さとコストである。例えば風力発電の稼働率は20〜25%で、2010年に300万kWの導入目標を達成しても、電力量は原発1/3基分にしかならない。一方で新エネには化石燃料の延命や環境適合性などの利点があり、これらの点をどのように評価するかが課題である。
新エネの利用法には熱利用と電力利用がある。熱利用には太陽熱、廃棄物、バイオマス、雪氷が含まれる。新エネによる発電は風や日射によって不安定だが、熱利用であればより使いやすい。太陽熱利用は石油危機後に進んだものの、その後停滞しており、積極的な施策が必要である。
電力利用には風力、太陽光、廃棄物、バイオマス、ダムのない1,000kW以下の中小水力、地熱がある。電力利用を促進する方策として、例えばドイツでは電力会社に風力発電の買い取り義務が課されている。しかしこれでは導入量は成り行きになる。それよりも、導入目標を定めて、その中で市場メカニズムを活用すべきというのが新エネ部会の考え方であった。

2.RPS制度

RPS制度では、電気事業者は一定量のクレジットの保有が義務付けられる。例えば電気事業者のA電力があり、A電力の管内には新エネによって8円/kWhで発電している発電事業者Xと、12円で発電しているYがあるとする。第3者機関がXとYの新エネ発電量を認定してクレジットを与える。XとYが発電した電気はA電力が火力発電の燃料相当料、約4円で買い取る。XとYはそのままでは赤字だが、保有するクレジットをA電力へ、Xは4円以上、Yは8円以上で売れれば儲けが出る。こうして市場メカニズムが働き、電気事業に新エネ電力が組み入れられる。
コスト競争力のある新エネが他を駆逐する可能性もある。しかし、各種の新エネがそれぞれ一定の割合を得ることが適切な運用につながると考えられるので、最初はハンディキャップをつける。
問題となった廃プラスチックの扱いは、経済性が高い反面、CO2排出量は石炭火力に匹敵する。これを勘案し、最初の政令では、石油起源廃棄物は対象としないこととしている。
新エネ電力の導入目標は12月6日公布の政令や省令により定められるが、2010年度でわが国の全発電量の1.35%、122億kWhとなる見込みである。一般電気事業者、特定規模電気事業者(PPS)、特定電気事業者がクレジット保有を義務づけられる。現状ではPPSなど新エネ電力がゼロに近いところがあるので、現状に応じて最初は伸びを小さくし、2010年度には全ての電気事業者に同じ値(発電量の1.35%)が課される。
市場規模は、クレジット価格を10円とすれば2010年度に1,220億円となる。クレジットは投機筋が売買することもあるだろう。そこに一つのビジネスが生まれる。また、PPSと新エネ事業者が連携するなどして、電力自由化とも一体に進んでいくだろう。

3.省エネルギー政策

これまでの省エネ法では、大規模工場にのみエネルギー使用量の報告義務を課していた。今回の改正により、オフィスビル、病院、ホテル等も対象となった。ビルにはエネルギー管理の専門家がいないこともある。特に、省エネによる投資回収が2〜3年の設備は導入が進んでいるが、より長期の設備はなかなか導入しづらい。導入促進にエネルギーサービスカンパニー(ESCO)の役割が期待される。
例えば、年間1億円(10年間で10億円)のエネルギー経費を払っているビルがあるとする。ESCO事業者はコージェネレーション蓄熱機器など省エネ設備の導入を提案する。設備の価格は2億円、省エネ効果は年間3,000万円とする。ESCO事業者は他のビルも含め10件契約する。メーカーは10台一括の発注であれば8億円(1台8,000万円)で受注するだろう。これをESCO事業者はビルに納入し、10年契約で年間2,000万円のESCO料を受け取る。すると、ESCO事業者は1件のビルに対し8,000万円の投資で10年間で2億円の収入、ビルは1億円(省エネコストとESCO料の差額の10年分)のエネルギー経費節減になる。メーカーはこれまでなかなか売れなかった設備が10台まとめて売れる。
このようなビジネスが成立するためには、金融機関が、ESCO事業者に対しプロジェクト・ファイナンスでの融資を行うことが重要になる。

4.バイオマス

日本には3,200の自治体があり、どこでも農林水産業が存在する。バイオマス系残渣だけで2,000万〜3,000万トンと推定され、一次エネルギー供給量の4〜5%にのぼる。
今日、多くの人に受け入れられやすい公共事業はエネルギー・環境分野であろう。RPS法の後押しのもとに、地域にメタノールプラントやバイオマス発電プラントを整備することにより、1次産業と金融、サービス産業が併設された新しい産業を創造できる。各自治体で10億円のプラントとすれば3兆円の公共事業となる。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
新エネの費用負担の問題がようやく明確になりつつある。

柏木教授:
新エネの費用負担には3つの柱がある。第1はRPS制度をはじめとする制度の充実で、そのコストは電力料金を通じてユーザーが負担する。第2は助成金であるが、公的支援もある程度続けるべきだろう。第3はボランタリーな負担である。この分野の取組みは日本では不十分である。
《担当:環境・技術本部》

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