経済くりっぷ No.12 (2003年1月14日)

12月4日/常任理事会

科学技術の振興を支える人材の育成


厳しい経済情勢を打開し、魅力と活力あふれる豊かな日本をつくりあげる上で、科学技術の活用は不可欠であり、その振興を支えるにふさわしい人材を育てることは喫緊の課題となっている。そこで、有馬朗人参議院議員(元文部大臣、元理化学研究所理事長、元東大総長、現 (財)日本科学技術振興財団会長)から科学技術の振興を支える人材育成について説明をきいた。

○ 有馬参議院議員説明要旨

1.

マスコミ等において日本の子どもの学力低下が叫ばれて久しいが、終戦直後の教育現場は現在よりもはるかに荒廃していた。そのような中、日本経済は見事に復興し、現在の地位を築き上げた。このことからも、日本人は教育や科学技術力にもっと自信を持つべきである。

2.日本の科学技術の実力

  1. 日本の科学技術の実力は、自然科学分野における論文の国際比較により垣間見ることができる。日本は10年程前から論文数が増えてきており、米国に次いで世界第2位を占めるまでになった(1997年度科学技術白書)。一方論文の質は1論文当たりに引用される回数で測ることができるが、米国が1.32に対し、日本は0.70と主要先進国7か国中最下位である。ただし、論文は英語で書かなければ読んでもらえないため、日本人には語学のハンデキャップがあることを考えると、どんどん急速に伸びてきていて心強い。

  2. スイスにあるIMD(国際経営開発研究所)の報告でも、日本の科学技術の論文数は世界2位である(1997年)。また特許出願数も日本は79.2万件(1998年)と独、英、仏を上回っており、日本人は独創性を持っている。ただし、特許出願の国内外の割合を日米で比較すると、日本は国内出願が多いのに反し、米国は国内出願が横ばいである一方、国外出願の伸びが著しい。特にアジアへの出願数の増加は顕著である。日本も留学生等を通じ、海外への特許出願、中でもアジアへの特許出願を増やすべきである。

3.日本の大学の実力

日本の大学は、自然科学分野における論文数では世界一流の大学と肩を並べているが被引用回数はやや少なく、論文の質の問題が残る。今後は論文の質を高めていかなければならないが、10年後には必ず世界の最上位となりうるだけの実力は有している。
また日本の大学が出願した特許の数は、米国に比べて圧倒的に少ない。その背景には、近年まで国立大学による特許取得のための予算はごくわずかしか手当てされなかったため、大学は本当に必要な特許のみしか維持できなかったことがある。近年ようやく大学に対する特許取得・維持のための予算が増えてきたが、依然として予算が不足していることには変わりはなく、今後はもっと増やす必要がある。

4.日本の大学の科学技術研究費

東大総長当時、私は日本の大学のあまりに貧素な研究・教育環境に強い危機感を抱き、先頭に立って大学施設・設備の拡充を関係方面に働きかけた結果、ようやく政府・与党も理解を示し、1995年に科学技術基本法が施行され、翌年科学技術基本計画が決定された。同計画に基づき5年間で17兆円の予算がつき実行されたが、2001年からの第2期基本計画においても5年間で24兆円の予算が手当てされる予定である。このような中、科学研究費補助金も大幅に伸び、制度面では、博士課程で研究中および博士を得た若手研究者を支援するポスドク等1万人計画が実施されるとともに、研究費の使い勝手も改善された。なお、産業界に対しては、このポスドク出身者や博士取得者の積極的な採用をお願いしたい。

5.日本の産業界への希望

  1. 日本の民間企業の研究費支出先別の推移を見ると、日本の大学に対する支出よりも海外の研究機関に対する支出の方が大きく、その差は拡大している。また、今年のIMDの報告では、日本の大学教育に対する評価は最低であったが、この背景には日本のビジネスマンの大学に対する見方がある。客観的な評価は高いにもかかわらず、アンケートに基づく評価は日本人の特徴によるものか、どうしても低いものになる。日本企業の将来を考えるならば、もっと日本の大学を大切にしていただきたい。

  2. 国内総生産(GDP)に対する教育費の比率を国際比較してみると、日本の高等教育費への公財政支出は少なすぎ先進国中最低であるし、初等中等教育でも同様の傾向にある。予算も付けずに、教育をよくできるとは到底思えない。日本の教育に対する公財政支出の割合を高めるべきである。

6.日本の子どもたちの理数力は高い

国際学力到達度評価学会のテスト結果によれば、日本の子どもは数学・理科ともに点数は高いものの、「大好き」「好き」と答える子どもが少ない。これをもって、日本のマスコミ等は「数学・理科嫌い」が深刻であると騒ぎ立てるが、点数と「好き」と答える割合の間にはかなりの反相関があると考える。日本の教育は公式や定義を教えすぎるので点数は良いが、子ども自身が自ら表現する能力が低い。台湾、韓国、日本に共通する問題である。全国的な学力調査は1995年前後を最後に実施されておらず、学力低下云々を言う前にきっちりした調査が必要である。今年1月に行われた調査の結果は12月に発表される予定である。それに基づき必要な手を打つべきである。

7.大学生の学力平均値は下がるのが当然

日本では、大学への進学率は2001年度で約4割に達している。現在18歳人口は150万人程度であるが、今後は120万人程度に急激に減少することとなる。にもかかわらず大学の学部入学員数は、現時点で国公立・私立合わせて230万人程度である。
本来であれば大学の入学定員を18歳人口の推移に併せて、減らすべきであったにもかかわらず、国公立・私立大学ともに定員を減少させなかったところに、現在の大学生の学力低下の大きな理由がある。今後は大学生の学力向上の観点から、日本の大学の数を減らし、定員も大幅に減らすべきである。そうしないのであれば教育の改善が必要である。

8.科学技術館について

北の丸にある科学技術館は日本の産業界が1964年に設立したものであり、以来、科学技術の振興・理科教育の推進のためにさまざまな活動を展開している。
科学技術館には外国人も多数来館しており、いわば日本の産業のショーウィンドウの役割を果たしてきた。今後も、日本の産業技術の粋を集めて、実力を示す宣伝の場として活用していただきたい。

《担当:総務本部》

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