経済くりっぷ No.12 (2003年1月14日)

12月9日/ヨーロッパ地域委員会企画部会(部会長 紿田英哉氏)

大きく転換したEUの労働・社会政策


ヨーロッパ地域委員会企画部会では、衆議院調査局厚生労働調査室の濱口桂一郎次席調査員より、EUの労働・社会政策について説明をきくとともに、意見交換した。

○ 濱口次席調査員説明要旨

1.EUの労働・社会政策の転換

EUの労働・社会政策が大きく転換したのは1990年代前半である。それまでEUの企業内部では労働者保護を拡充し、社会全体では福祉を手厚くしていくことが目指されていた。しかし、1980年代に英米で新自由主義に基づく政策が実行されて一定の成果を上げる一方、欧州大陸諸国では構造的失業が増大していくという状況の中で、当時のドロール委員長は新たな労働・社会政策思想を打ち出した。そして、1997年からはこの考え方に基づき、欧州雇用戦略という政策プロセスが進行している。
その基本的な哲学は、仕事を単に所得を得るための手段としてではなく、仕事を通じて社会に参加する機会を与えるべきだという考えである。それゆえ、雇用政策の目標としても、失業率ではなく就業率を掲げる。これは、人的資源をフルに活用するというだけでなく、社会の成員をフルに統合するという考え方である。

2.欧州雇用戦略の4つの柱

欧州雇用戦略の第1の柱は「エンプロイアビリティ」である。特に若年失業者や長期失業者に対して、職業訓練や職場実習などの措置を講じるとともに、失業給付や福祉給付を厳格化し、就業第一主義の労働市場改革が行われている。
第2の柱は「起業家精神」である。EU独自の政策として、社会的経済といわれる非営利分野による雇用創出への支援策がある。これは、地域の雇用創出を大型の地域開発プロジェクトに頼らず、ローカルなニーズにローカルなサービスで対応するものである。
第3の柱は「アダプタビリティ」である。これは、雇用が安定してこそ、労働組織の柔軟性が出て来るという認識に立ち、企業ができる限り労働者を解雇せずに労働力を調整し、配置転換、仕事の再編成、労働時間の弾力化、能力給の導入などを進め、企業内で労使が協議していくことを求めている。
第4の柱は「機会均等」である。男女均等待遇だけでなく、人種・民族、宗教・信条、障害、年齢、性的志向といった広範な分野における差別禁止に拡大されてきている。

3.その後の動き

欧州雇用戦略に続き、2000年からは社会的排除と戦う戦略、2001年からは年金戦略が始動し、社会保障分野でもEUレベルの政策戦略が動き出している。
総じて、ヨーロッパ社会はいま、所得の分配に基づく連帯から、仕事を通じて社会に参加する機会の分配に基づく連帯に、大きく舵を切ろうとしている。その方向性は、ある意味で日本社会が無意識的に形成してきた社会のあり方に近い面もある。

《担当:国際経済本部》

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