経済くりっぷ No.15 (2003年2月25日)

1月17日/通信産業の将来展望に関する懇談会

自由化と安定化とをバランスさせる競争政策は何か


米国では通信業界を代表する企業が破綻するなど、通信産業不況の深刻化が伝えられている。今般、コロンビア大学のノーム教授が来日されたのを機に標記会合を開催し、米国における通信の危機からの脱出方策、政策のあり方などについて説明をきいた。当日は、情報通信総合研究所の本間雅雄相談役、スタンフォード大学日本研究センター研究部門の中村伊知哉所長からもコメントがなされた。

I.ノーム教授説明要旨

  1. 米国の通信産業は、1996年の通信法改正以降、自由化、競争一辺倒の政策が進められる中で、今日では非常に厳しい状況にある。今回の不況から、いずれ好転するであろうが、通信業界でも過剰設備が残るといった不安定要因があることから、一時的な現象で終わるというわけではないと思う。いわば、通信産業も他の業界と同じように、今後とも周期的に景気が循環するようになると考えられる。

  2. このことを前提とすると、コストを削減し、価格を引き下げるという手段による対応は、利用者にとっては朗報であるが、通信産業が抱える問題の解決とはならない。実際、米国では、競合相手と合併や連携を行い、過剰設備の削減などで協調を組むなど、互いに競争をしない方向へと傾いている。市場集中のトレンドを見ると、そのレベルは低いものの、通信産業の集中率は上昇しているうえ、政府としても、雇用などの問題があることから、合従連衡や料金上昇を容認する方向にある。これは明らかに競争政策、自由化促進という従来の政策からの転換である。

  3. 政策の転換の結果、寡占状況が生まれることが予想され、市場支配力の濫用を是正するための規制は必要となろうが、依然として自由化は必要である。ただし、業界を若返らせる観点から、従来の自由化政策は再考する必要がある。その際重要なことは、イデオロギーではなく、客観的なデータに基づいて対応することである。

II.コメンテータからの意見

ノーム教授の説明に対し、本間相談役からは「日本はこれまで規制による『管理された競争』であったが、電気通信事業法改正が予定されており、競争が激化すると予想される。今後は、価格だけの競争から技術革新による競争へと移行するのが望ましい」、中村所長からは「米国の競争政策の見直しは大きな揺れ戻しだが、米国で政策の揺れ戻しがあっても、日本は競争促進を止め、安定化政策に止まることのないようにすべきである。インターネットの普及等により状況が激変する中で、日本では規制緩和による対応も限界にある。制度・政策を抜本的に見直す時期にきている」とのコメントがあった。

《担当:産業本部》

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