経済くりっぷ No.16 (2003年3月11日)

2月13日/住宅政策委員会企画部会(部会長 立花貞司氏)

諸外国とわが国の住宅政策について

−国土交通省住宅局の石井住宅政策課長と懇談


今後の住宅政策のあり方について具体的に検討を行うにあたっては、国際比較の観点から、諸外国の住宅政策を参考にすることは意義が大きい。そこで、住宅政策委員会企画部会では、国土交通省住宅局の石井喜三郎住宅政策課長を招き、諸外国とわが国の住宅政策について説明をきくとともに、意見交換を行った。

I.石井課長説明要旨

1.今後のわが国の住宅政策の論点

  1. 諸外国とわが国の住宅政策について国際比較を行う場合、各国における住宅政策の国家的位置付けや国民の住宅に対する意識、住宅政策の歴史的背景の理解が必要である。これらの点を踏まえ、わが国の住宅政策のあり方について検討する必要がある。具体的には、住宅整備に対してどの程度行政が関与すべきか、あるいは重点的に支援すべき対象をどこに設定し、税制・金融等の政策をどのように組み合わせていくのか、といった点について議論を深める必要がある。

  2. わが国と欧米主要国との住宅諸データを比べると、わが国の一戸あたり床面積は、持家については122.7m2と欧米主要国と遜色ないものの、借家は44.5m2とかなり狭い。優良な借家整備は一つの課題であろう。また、住宅投資の対GDP比は約4%と、欧米と遜色がないが、住宅投資に占める増改築の割合が約9%と、欧米に比べて極端に低い。増改築・リフォーム市場の整備も課題の一つである。さらに、住宅関係の予算総額や減税総額は、経済規模や予算規模に比して日本は欧米諸国より低い。

2.日本と欧米主要国の住宅政策

  1. わが国における戦後の住宅政策は、住宅の絶対的不足を背景に、

    1. 低所得者向けの公営住宅の供給、
    2. 中所得者向けの公団賃貸住宅の供給、
    3. 公庫融資による持家促進策、
    が中心であり、現在もこの体系は維持されている。わが国では、持家がストックの約60%、民間借家が30%、残りが公営・公団住宅であり、持家の割合が非常に高い。
    借家政策の中心は、公営・公団住宅の供給であったが、現在では、新規建設よりむしろ、公営・公団等は既存ストックの建替え・改修事業に重点が移ってきている。
    持家取得支援策は、住宅金融公庫融資(国費約3,600億円)と住宅ローン減税(減税規模約6,000億円)等の減税措置による支援が中心である。なお、特殊法人改革の一環として、住宅金融公庫は、今後、証券化支援業務による、長期・固定の民間住宅ローン供給支援の役割を担う予定である。

  2. アメリカでは、政治の安定と経済活性化を背景に、伝統的に持家政策が重視されてきており、持家がストックの70%を占め、なかでも40歳以下の持家率は50%を超える。
    持家政策の柱は、住宅ローン利子所得控除(減税規模約8兆円)をはじめとした減税措置である。その他、住宅取得資金の供給支援として、政府・政府支援機関等によって住宅ローン証券化支援が行われている。
    連邦の公営住宅の供給は1970年代から縮小され、現在は原則として新規供給はない。住宅困窮者対策の中心は家賃補助(総世帯数の2.8%の世帯に対し年間平均支給額70.6万円、総額約2兆円を給付)である。ただし、これは義務的給付ではなく、予算状況に応じて裁量的に給付される。

  3. イギリスでは、戦後、公営住宅の建設を大量に進めてきたが、サッチャリズムの下、180万戸の公営住宅の割引払下げを行い、持家取得を促進した。現在では、持家がストックの70%を占める。持家率上昇等により、住宅ローン利子補給制度は2000年4月に廃止された。
    現在の政策の柱は、住宅手当とVAT(付加価値税)減税である。減税措置は米国に比べると小規模である。一方、住宅手当は米国に比べて薄く広く支給されている(総世帯数の約16%の世帯、借家の2軒に1軒に対して年間平均支給額57.5万円、総額約2兆円規模を支給)。イギリスでは、住宅手当が権利として保証されているため、財政支出の拡大が懸案事項となっている。

  4. フランスでは、戦後民間住宅の供給促進のため、家賃統制を緩和し、その補完として住宅手当を導入するとともに、第三セクター的な会社・公社によって「社会住宅」を大量に供給してきた。現在、社会住宅はストックの約14%を占める。その後70年代に、政策を住宅手当に大幅にシフトし、借家層に対して広く住宅手当が支給されている(総世帯数の約26%に対して年間平均支給額24.5万円、総額約1.5兆円を支給)。
    持家はストックの約54%であり、持家支援策としては、無利子融資のほか住宅貯蓄融資と貯蓄奨励金等がある。また、リフォームへの支援策も充実している。

  5. ドイツでは、戦後、「社会住宅」を約900万戸整備するとともに、家賃統制の緩和とその補完として住宅手当を導入した。「社会住宅」は、一定期間は低所得者等に貸すことを条件に、民間オーナーに対して政府が低利融資や補助金を支給するものである。一定期間後は入居者等に関する制約のない民間住宅となる。このようにドイツの社会住宅の整備は民間資金の活用が中心で、政府による直接整備および管理は行っていない。
    住宅手当は社会住宅や民間借家に対して支給されているものの、アメリカ・イギリス・フランスに比べて薄い(総世帯数の約7%に対して、年間平均支給額15.6万円、総支給額4,400億円程度)。
    現在の政策の柱は、住宅手当のほか、税額控除に代わる制度として1999年に導入した住宅取得補助金(総支給額約1兆円)の持家促進策である。

II.日本経団連側発言要旨

  1. 住宅税制は、景気対策だけではなく、住宅整備の重要性の観点から議論されるべきである。

  2. 少子・高齢化の進展により、将来的に親の財産を引き継ぐ子供が増え、それまでの間、借家を選択する層が増加するのではないか。また、現在の資産デフレにより、持家より借家を選択する層も増加しており、今後、借家政策を充実させていく必要があると考える。

《担当:産業本部》

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