経済くりっぷ No.16 (2003年3月11日)

2月14日〜15日/経団連ゲストハウス社会貢献フォーラム

社会貢献の視点から新しい時代の企業のあり方を探る


12回目を迎える社会貢献フォーラムは、「いま、あらためて社会貢献を問う」をテーマに、社会から信頼と共感を得て存立していく企業のあり方について、社会貢献部署が果たすべき役割を再考しながら議論を深めた。企業の社会貢献担当者だけでなく、広報・IR・倫理等の担当者を交えて40名余が参加した。以下は同フォーラムにおける基調講演および問題提起の概要である。

I.基調講演「企業の社会的責任と社会貢献」
  藤田和芳 大地を守る会会長

1.NPOと株式会社を車の両輪として運営

1975年に運動体としてのNPOを立ち上げ、その2年後に株式会社大地を設立した。NPOとしては、有機農業運動を推進し、食の問題や環境問題について積極的な発言をしてきている。株式会社は、運動体としての理念を実現するためにあり、有機農産物を生産してもらい、東京を中心とする消費者の玄関先まで宅配している。NPOの会員は2,500の農家と63,000世帯の消費者であり、株式会社は3億5,000万円の資本金と26,000人の株主を持つ。株主には利益配当のためでなく、日本の農業や自然環境を守る、命を守るという理念に投資してもらっている。

2.運動と事業のバランスを保つ

大地を守る会は、社会の矛盾に対して新しい動きをつくるために、政策提言という運動手法ではなく、小さくとも問題解決の雛型を提案する道を選んだ。1本の無農薬だいこんを生産し、都市に運び、消費者に届けて食べてもらうには、これまでとは異なる論理やシステムが必要となる。株式会社を選択したのは、資本主義社会の中で経済システムとして成立しなければ、人々を説得することはできないと考えたからである。

3.社会的責任ある企業とは

多くのステークホルダーに配慮すればコストはかかるが、たくさんの人々から信頼を得ることが企業にとって重要になっている。社員が誇りを持ち、自己実現を目指して働けるかどうかも問われる。大地のように食料品を扱う企業であれば、消費者の健康、生産過程の環境問題、将来の食の安全保障も考える必要がある。むろん、企業が本来負担すべき社会的コストを行政や市民に押しつけることによって利益を出すことは許されない。企業は、いかなる哲学を持って存在するのかを宣言する必要があり、その宣言が実際の企業行動と一致しなければ信頼を失う。消費者は企業の宣言や行動を、自らの価値観に照らして判断して企業を選ぶ時代に入っている。

4.運動と事業を総点検する経営改革

大地は無借金経営で安定していたが、21世紀も生き残れるよう、1998年から組織改革を行った。第1段階では、市民運動の延長線上でつくられてきた組織に、企業の経営管理手法を取り入るとともに、12の企業を5つに統合・再編した。第2段階では、設立時から続くNPOとしてのDNAを再点検し、引き継ぐべきもの、限界がきているものを整理した。さらに第3段階では、社員全員参加の合宿も実施し、NPOとしてのビジョンを株式会社の企業理念に統合して、自らの存在意義の明確化、適正な企業規模、運動と事業の融合、生産性や効率性よりも優先する価値などを表現した。商品開発時に、理念を具体化した商品の取扱基準とも照らし合わせて常に議論していることが、企業理念の浸透につながっている。

II.問題提起「社会が見る企業とは」

1.消費者問題から見えてくるもの
  角田真理子 国民生活センター相談部室長

2001年度に国民生活センターおよび全国の消費者生活センター等の相談窓口が受付けた消費生活相談は、約88万件と過去最高だった。従来は、相談者の中心は主婦だったが、近年、60代以上の男性が増えている。新しいタイプの相談者は、社会意識も高く、トラブルをきっかけに、正義のための調査をしようという姿勢を持っており、詳細に調べて問題提起的な相談の持ち込み方をする。消費者は何らかの苦情を持ち込む際に、企業に、公平・公正な対応、対等な関係できちんと聞き説明する姿勢を求める。消費者窓口は、消費者の率直な生の声を聞く数少ない機会である。その担当者の対応を通して、消費者は企業を厳しく評価している。

2.評価機関への対応から見えてくるもの
  岸本幸子 パブリックリソースセンター(PRC)事務局長

市民社会を目指す調査研究機関のPRCが、社会的責任投資のための企業評価に取り組んだのは、市民の社会参加の新しい手法としての投資に注目したからである。市民の思う企業像を企業に伝えつつ、企業の社会性の向上を応援していきたい。PRCが求めるグットカンパニー像は社会と共生する企業であり、社会の存続のために課題を引き受ける姿勢を持っているかどうかを全ての経営プロセスで見ていきたい。企業評価のためのアンケートはアピールの場だが、国際的にみると、防衛的な情報公開という姿勢を日本企業から感じることが多い。たとえば、取引先における児童労働の禁止など、収集・開示が求められる情報の範囲は国内と海外で異なり、日本企業が思ってもみなかった尺度への対応ができていない。情報公開は、社会貢献、環境で進んでいるが、ガバナンス、雇用、マーケットについては回答を得ることが難しい。社内横断的な取組みは始まったばかりであり、社会との幅広い接点を持つ社会貢献担当部局は体制整備の鍵を握っている。また、地域貢献によってしか改善できない社会的課題もある。今後、社会的責任の取組みの一部が、新しい社会貢献の事業にもなるだろう。

3.地域ニーズから見えてくるもの
  針生英一 ハリウコミュニケーションズ代表取締役

仙台市を拠点とする印刷会社として、市民や市民活動の地域情報化を支援しながら、ビジネスを構築している。たとえば、高齢者による高齢者のためのパソコン教室を主催している仙台シニアネットとの連携は、高齢者のためのマニュアルやカリキュラムづくりへと繋がっていった。今では、他企業とのネットワークも生まれており、高齢者や障害者を対象にした地域情報化の話があれば、必ず声がかかる。利益追求だけでは限界がある。地域の課題をみつけて、NPOや行政と連携しながら解決していくことで、結果的にビジネスにつながる循環をつくっていきたい。

《担当:社会本部》

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