経済くりっぷ No.17 (2003年3月25日)

3月4日/アジア・大洋州地域大使との懇談会

アジア・大洋州各国の最新の情勢


日本経団連では、日本商工会議所とともに、アジア・大洋州地域12ヵ国の大使を招いて懇談会を開催した。当日は、外務省アジア大洋州局の薮中三十二局長より、3月3日、4日両日に開催された外務省アジア・大洋州大使会議の模様について話をきいた後、韓国、中国、タイ、インドネシア、インドそれぞれの大使より、各国の政治経済情勢について説明をきいた。また、経済界を代表して、山口日商会頭が開会挨拶、森下副会長が閉会挨拶を行った。

I.薮中局長説明要旨

アジア・大洋州大使会議では、中国の台頭がアジアに及ぼす影響を中心に議論した。中国経済が発展する中、ASEAN諸国の日本に対する期待は大きい。
わが国は現在、タイやフィリピン、韓国などアジア・大洋州諸国との経済連携の作業を進めつつあるが、中国やインドなどの動向も踏まえ、わが国として戦略的にどう対応すべきか議論している。

II.各大使説明要旨

1.高野 紀元 駐韓国大使

本年2月25日に誕生した盧武鉉政権の閣僚人事は、若手、女性を起用し独自性を打ち出す反面、経済財政部門などには官僚出身者を配置するなど手堅さを見せている。今後、国会運営や北朝鮮問題といった難しい課題にどう対処するか注目されている。
日韓関係については大変良好であり、今年も各分野でさまざまな交流が予定されている。
経済については、韓国の対中輸出が対日輸出を超えるなど、中韓経済関係が緊密化しており、韓国が日中韓FTAを提唱する背景となっている。日韓FTAを推進する際には、韓国の懸念事項の除去が重要な課題となる。

2.阿南 惟茂 駐中国大使

胡錦濤総書記が率いる新指導部は、若々しい顔ぶれで構成され、明日への希望を感じさせる。地方レベルでも若返りが進んでいる。
経済政策については基本方針に変わりはないが、従来の高度成長戦略に加えて貧困層救済、地域格差是正にも注力するようになっている。
中国は2020年までにGDPを2000年の4倍増にする目標を掲げており、昨年は8%成長を遂げた。本年はWTO加盟の影響が現れ始めるほか、輸出・直接投資流入の減少も予想されるが、それでも財政支出等により7%台の成長を維持するだろう。

3.時野谷 敦 駐タイ大使

タイの政治は安定している。タクシン首相は圧倒的なリーダーシップを発揮しており、財政刺激策を含む景気対策等で経済が危機前の水準に戻りつつあることもあり、政権運営に自信を深めている。
外交面では、インドシナの中核、アジアのハブ、中国へのゲートウェイとなるべく積極的な政策を展開している。アジア協力対話(ACD)の提唱や日タイ経済連携、中国、インドとのFTAに向けた動きもその一環である。地域協力を足がかりに、中国を取り込んでともに成長しようというのがタイの戦略であり、日本もこの波に乗ることが重要である。
日タイ経済連携の早期実現に向けて、経済界の協力に期待している。

4.飯村 豊 駐インドネシア大使

インドネシアは1997年の危機からの克服がまだ済んでおらず、ASEAN5の中で最も苦しんでいる。今後の注目点を三点に絞り説明する。
国内政治については、2004年に初の直接選挙による大統領選挙が行われる。今ならメガワティ大統領が圧勝するだろうが、選挙は来年であり、さまざまな不安定要素がある。国内の物価高騰、IMFや外資企業に対する反発の高まりに加え、対イラク戦争がメガワティ政権の足元を揺さぶるだろう。
インドネシアの経済運営はそれなりに成果が出てきており、国際的にも評価されていて、いつIMFを卒業できるかが注目されている。メガワティ大統領も、国内で反IMFの声が高まっていることもあり、早期に卒業したいと考えている。時期的には、今年末には卒業が期待できると思う。
日本企業の撤退もあり、インドネシア側も投資環境整備の必要性に対する認識が次第に高まってきた。われわれや世銀、米国などの提言を受け、近々、インドネシア政府の中に、投資環境整備のための中期計画を立てる閣僚チームを設置する予定ときいている。

5.林 暘 駐インド大使

インドは、国としての重要性が再評価された典型例である。冷戦の終了や1990年代からの経済の自由化政策、9.11事件などを受け、(1)対米関係が抜本的に改善し、南アジアの安定勢力として評価されているほか、(2)自由化政策により、経済的な潜在力が顕在化するきっかけができ、中国に対抗する勢力として評価されてきている。
日印関係は、インドの核実験などもあり、若干停滞した時期もあったが、両国首相の相互訪問や本年1月の川口外相の訪印などもあり、今後の進展が期待される。
両国経済関係は、国の規模に比べてまだ不十分であり、さらに発展する余地がある。日本企業の投資に期待している。

III.意見交換要旨

経済界側:
日・ASEAN包括的経済連携構想の枠組構築を早期に進めてもらいたい。
薮中局長:
ASEAN諸国には、日本との二国間の経済連携に対する期待も強く、ASEAN全体との経済連携を並行して進める必要がある。

経済界側:
最近のミャンマー情勢をどう考えるか。
宮本駐ミャンマー大使:
軍政、スー・チー女史とも、今のままでいることのマイナスが少ないので、動けないでいる。外からの圧力が必要である。経済制裁の効果には限界が見えてきており、わが国がミャンマーを支援することで、ASEANのメンバーとして発展するシナリオを書くことが必要な状況となっている。
《担当:国際協力本部》

くりっぷ No.17 目次日本語のホームページ