経済くりっぷ No.17 (2003年3月25日)

3月3日/住宅政策委員会企画部会(部会長 立花貞司氏)

都市生活者のための住宅・都市再生について

−都市基盤整備公団の青木次長と懇談


住宅政策委員会企画部会では、住宅政策に係る総合的な提言を取りまとめるべく、検討を行っている。その一環として、昨年「なぜ日本の街はちぐはぐなのか−都市生活者のための都市再生論」と題する著書を出版された、都市基盤整備公団居住環境整備部兼再開発部の青木仁次長を招き、21世紀の成熟化する日本社会に相応しい日本型都市・建築規制システムのあり方について説明をきくとともに、意見交換を行った。

I.青木次長説明要旨

1.わが国の都市計画・建築規制について

わが国の都市計画・建築規制は、高度成長に伴う都市の急激な拡大を抑制するため、1970年代に、容積率や日影斜線規制の導入など大幅な規制強化が行われ、基本的な枠組みが形成された。1980年代に入り、高度成長は終焉し、需要圧力が低下したにもかかわらず、都市計画・建築規制は強化され続けた。1990年代以降は、経済対策の観点から大型プロジェクトの規制は緩和されたが、基本的な規制の枠組みは変わらず、一般建築物は相当な制約を受けている。都市計画・建築規制は抜本的に見直す時期に来ている。
わが国の建築規制は、一律を標榜しているものの、現在では、その規制実態は分裂状態にある。具体的には、一戸建て住宅などの小規模建築行為に対しては、一般則が適用されているものの、違反行為があっても、周辺の建物所有者はそれに目くじらを立てず、通常不問に付されている。また、総合設計制度や再開発事業などの大規模建築行為に対しては、容積率のボーナスや斜線規制の緩和など、さまざまな特例措置を受けることが多い。しかしながら、中高層マンションなどの中規模建築行為に対しては、特例を受けるには小規模過ぎ、違反を見過ごされるには大規模過ぎるため、最も厳正に規制が遵守されているのが実態である。このような規制の実態が、ちぐはぐな街づくりを形成していると言える。

2.都市再生とは何か

都市再生とは、「都市生活者」一人一人のビジョンづくりとその実現に向けたアクションの集大成であるべきであり、道路などの都市「施設建設」ではなく、都市「環境改善」を行うことが求められる。また、都市再生は、個別事例ごとに最適規制の内容を決定できる即地解(ローカルルール)によって行われるべきであり、その際、公共の役割は、「規制緩和」と「公共ストックの開放・活用」であると考える。
都市再生の新たなアプローチとして、

  1. 既成の価値観やルールを覆す、
  2. お金でなく知恵を使う、
  3. 国に期待しないで自分でやる、
ことが重要である。たとえば、4m道路網の整備によって、本当に、都市の防災性能や住民の生活の質が向上するのか、疑ってみることが必要である。街並み形成や環境問題等から、車道よりも歩道の整備を優先すべきではないか。

3.実効ある規制緩和の実行を

わが国では、都市ビジョンが不在なため、個々の建築活動がどのような街並み形成に結実するかが明確ではないことから、できる限り近隣の建築物の大きさを抑制しようとする圧力が生じている。欧米諸国では、合意された都市ビジョンがあって、その下で個々の建築活動が行われている。
また、わが国では、街づくり協議を行っても、全国一律の法規制に阻まれて、地域合意をそのままの形で実現できず、結果的に、街づくりの意欲は喪失されてしまう。
このように、わが国の規制は、あまりに建築抑制的・硬直的であり、その結果、建築投資は抑制され、建築コストは増大し、生活空間は貧弱化している。そこで、各々の地域で、個性的で魅力的な街づくりを進めるため、実効ある規制緩和の実行が必要である。具体的には、全国一律の集権的制度から即地解を許容する分権的制度へ移行すべきであり、都市計画法や建築基準法等の条文に、「地方公共団体が全域またはエリアごとに別途のルールを定めた時は、法律の規定は適用しない」というスーパー分権条項を盛り込むべきである。
即地解や補償的特例制度による街づくりを可能にすれば、たとえば、隣接する建物所有者がお互いに同意するだけで、斜線規制や容積率制限などを緩和することができ、より望ましい建物が建築できる。さらに、都市全体としても、合理的な土地利用やスカイラインの統一などの実現が期待でき、街のちぐはぐ感は減少すると考える。

4.一人一人が始める街の再生

現状では、街づくりに係る合意形成は非常に難しく、時間もかかることから、自分なりの街並みのあり方を提案し、自分の家から始める「勝手連的街づくり」を薦めたい。わが国では、すでに大規模インフラや大規模施設整備の必要性は消失していること、また、個人の土地所有が定着していること等から、個別の更新努力によって都市再生を推し進めることができるはずである。
具体的には、大都市の40%を占める持家世帯の土地資源を有効活用するために、大胆な規制緩和を行うべきである。規制緩和によって更新が促進され、新たに生み出された床を市場に提供することができれば、都心居住の促進や高度な生活支援サービスの提供、SOHOなどのニュービジネスへの空間提供なども実現するのではないか。
自分の家づくりは巨額な投資であることから、自分の家をいかに自分の生活にとって安全・快適で、かつ財産価値の高いものにするかが、個々人にとって重要な関心事項である。さらに、居住環境を高めると同時に、地球環境保全に貢献することも大きな課題である。自分の生命・財産は、国や地方自治体ではなく、スポンサー自身が守るべきである。それを支援するのがデザイナーやデベロッパーなどのプロフェッショナルの役割である。

II.日本経団連側意見要旨

都市計画・建築規制制度の地方分権を進めるべきとの意見が出される一方で、現状では地方自治体の方が規制強化する傾向が強いこと、個々人が果たして合理的な行動を取れるのかといった指摘もあった。また、地方自治体における人材育成が重要であるとの意見も出された。

《担当:産業本部》

くりっぷ No.17 目次日本語のホームページ