経済くりっぷ No.18 (2003年4月8日)

3月12日/ヨーロッパ地域委員会企画部会(部会長 紿田英哉氏)

EU拡大は、日本にとっても大きなメリットに


ヨーロッパ地域委員会企画部会では、欧州委員会のフェアホイゲン拡大担当委員の官房長であるペーター・テンペル氏の来日を機に、同氏を招き、EU拡大の経緯ならびに企業活動への影響について説明をきくとともに、意見交換した。

I.テンペル官房長説明要旨

1.EU拡大の経緯

EUは、2004年に10ヵ国の新規加盟が見込まれている。今後、各候補国において批准プロセスが踏まれるが、すでにマルタでは国民投票が実施され、可決されている。
今回の拡大は、1989年のソ連崩壊が起点となった。ソ連の傘下にあった国々が新たに加盟する今回の拡大は、第二次大戦後に分断された欧州の再統合として、政治的に極めて意義がある。さらには、欧州経済の安定化、域内市場の拡大という意味も大きい。

2.新規加盟国の現状

この約10年における新規加盟国の改革は、目を見張るものがある。これらの国々は、法に基づく近代的な民主主義をまさにゼロからつくり上げた。
新規加盟国には、EUの法的枠組みを全ての分野において適用させるだけでなく、それを実施、執行するための仕組みづくりが要求されている。たとえば、日本や現EU加盟国では普通とされている食品規格や電気製品の基準などを全くゼロから確立しつつある。また、EUで適用されている市場ルールについてもゼロから受け入れた。これらの改革は、EU加盟を目標として加速された面もある。ただし、国民は、改革に伴う社会的な対価を払っている。失業率や物価の上昇、リストラの断行なども、発展のための代償として受け入れる覚悟で臨んだ。
現在でも、新規加盟国の改革のプロセスは継続しており、現加盟国は、今後もサポートしていく用意がある。
ご承知の通り、交渉のプロセスは複雑であった。しかし、公平でバランスの取れた結果となった。スペインなどの加盟当時は、長い間、実質的な市場統合が先延ばしされたが、今回は拡大当初から市場は統合される。ただし、環境基準の適用や労働市場へのアクセスについては移行期が与えられている。
なお、ルーマニア、ブルガリアは、2007年の加盟実現に向けて、交渉を継続している。トルコについては、交渉はまだ始まっていない。まずは、人権問題も含めて民主的な制度の確立が必要である。2004年末に、トルコが交渉を始めるための基準を満たしているかの判断が下される。

3.EU拡大が与える影響

2004年には、7,000万人の人口が新たにEUに加わる。他方、GDPの増加はわずか5%に過ぎない。10ヵ国のGDPを足してもオランダと同程度である。
現加盟国と新規加盟国間の富の格差の是正は重要な課題であるが、新規加盟国は高い経済成長を維持しており、今後10年は4〜6%の成長率を維持するであろうと見込まれている。
EU拡大の制度的な枠組みの構築は、1989年当時からすでに始まっている。投資協定も1990年代に結ばれており、中東欧諸国の輸出入の約6割は対EUによるものである。また、同地域への対内直接投資も、3分の2がEUからの投資である。

4.日本企業への影響

日本企業には、中東欧諸国との間でのさらなる経済交流を期待する。現状の日本との貿易関係は、中東欧諸国の輸出の1%、輸入の4%にすぎない。
すでにEUは世界最大の単一市場であり、加盟国間でさまざまな規制が調和され、モノや人が自由に移動しているが、今回の拡大により、規模がさらに大きくなる。これは、EU域外国にとっても、経済的なメリットが大きくなることを意味する。
今回の拡大により、貿易・投資面において次のような変化も生じる。まず、新規加盟国がそれぞれ締結していた二国間協定などは、全てEU内のルールと調和される。関税も、EUの共通関税率と合わせるが、これにより中東欧諸国の関税は全体的に下がるだろう。特定製品においては関税が上がるものもあるだろうが、その場合はWTOルールに基づいて検討が行われることになる。また、EUがアンチダンピング税を課している場合は、自動的に新規加盟国への輸出も対象となる。
新規加盟国の中では、投資優遇措置を長期間設定している国もあるが、これらはEUの競争政策に抵触する場合がある。これが加盟交渉時の主要な問題の一つとなったが、結果として極めて良い結論が導かれた。すなわち、現状設定されている優遇策は、一定の条件のもと継続されるものが多いということである。国によって対応はそれぞれであるが、進出時期や規模等の条件によって、事前に定められた最高水準まで認められる場合もあれば、一定水準に達した時点で終了となる場合などさまざまである。

II.意見交換要旨

日本経団連側:
トルコの加盟について、イスラム国であることのインパクトをどう考えるか。
テンペル氏:
トルコとの交渉開始は、民主的な制度の確立と人権問題が改善されるかによるが、すでに候補国であることは明確な事実である。宗教上の価値観の違いは決定的な要素ではなく、トルコがイスラム教国であるからといってEUに受け入れられないことにはならない。トルコは政治的にも重要な国だと認識しており、今後も関係強化を図っていく。

日本経団連側:
中国と中東欧諸国の投資誘致合戦は今後激しくなるであろうが、中国をどう意識しているか。
テンペル氏:
われわれも中国のポテンシャルに注目している。ただし、企業はそれぞれの価値基準で投資先を判断するだろう。今、われわれは、どこまでをEUとみなすか、また、EUに加盟せずとも統一市場としてロシアや近隣諸国を加えるべきか、などを議論している。よって、現時点では、どの国ともビジネスを拡大できることが重要である。
《担当:国際経済本部》

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