経済くりっぷ No.18 (2003年4月8日)

3月11日/住宅政策委員会企画部会(部会長 立花貞司氏)

これからの東京の住宅政策


住宅政策委員会企画部会では、住宅政策に係る提言取りまとめに向けて検討を行っている。その一環として、今回は、住宅問題は主に大都市において課題が多いとの認識から、東京都知事本部企画調整部の中島高志調整担当課長と同本部政策部政策課の関雅広副参事を招き、「東京都における住宅政策の現状と展望」について説明をきくとともに、意見交換を行った。

I.東京都説明要旨

1.「東京都住宅マスタープラン」について

  1. 東京都は、2002年2月に、第3次の「東京都住宅マスタープラン」を策定し、2015年を目標とした住宅政策の中長期的な方向性と取り組むべき施策を示した。

  2. 東京都の住宅事情について、1973年に、数の上では一世帯一住宅が達成され、その後、現在まで量的には充足しているものの、質的には良好とは言い難い。例えば、一戸あたりの広さは約60m2と全国平均の3分の2であり、最低居住水準に満たない世帯の割合は1割にのぼる。他方、高齢者のみで持家に居住する世帯の約4割が100m2以上の住宅に住んでいるなど、世帯規模と住宅規模のミスマッチが生じている。
    そのほか、収入の2割を超える高い住居費、1時間以上が当たり前である通勤時間、現在4万戸ある築30年以上のマンションや23区内に約6,000haもある木造住宅密集地域の存在など、多くの問題を抱えている。これらの問題にどのような施策を講ずるべきかを示したものがマスタープランである。

  3. これからの東京居住の将来像として、

    1. 活力が生まれる居住、
    2. ニーズに応じた選択ができる居住、
    3. 誰もが安心して暮らせる居住、
    4. 豊かでいきいきとした居住を支える住宅市街地、
    の4点を掲げている。今後、これらの実現に向けて、これまでの都営住宅を中心とした既成制度を徹底的に見直すとともに、これまで十分でなかった民間住宅施策の改革に切り込み、市場を活用した施策体系を構築していく。これらの改革を「住宅政策のビックバン」と名付け、行政と民間、都と区市町村など、それぞれの役割分担と連携を再構築する。
    「住宅政策のビックバン」の柱は、
    1. 住宅ストックの9割を占める民間住宅に係る施策の新たな形成と展開(市場の欠陥是正等)、
    2. 都営住宅制度の抜本的改革(期限付き入居制度の導入や使用継承のあり方の見直し等)、
    3. 都営住宅制度の抜本的改革と民間住宅施策との連携(都営住宅に係るストックの有効活用等)、
    である。

  4. 東京居住の将来像実現に向けた重点施策としては、

    1. 都心居住の推進(民間活力との連携による職住が複合したプロジェクトの推進)、
    2. リフォームの推進(インターネットの活用による情報提供)、
    3. 分譲マンション対策の推進(管理アドバイザー制度の充実等)、
    4. 中小住宅生産事業者等の経営力・技術力の向上(住宅性能表示制度の普及等)、
    5. 中古住宅市場の活性化(中古住宅流通促進フォーラムの設立・運営等)、
    6. 高齢者住宅対策の推進(高齢者の入居を拒まない賃貸住宅の登録実施等)、
    7. 環境に配慮した住まいづくりの促進、
    8. 木造住宅密集地域の整備促進、
    などを掲げている。

  5. 今後15年間に必要な住宅建設戸数を167万戸と見通し、うち2005年度までの見通しとして、第八期の東京都住宅建設5箇年計画をまとめた。住宅建設戸数は国の1割にあたる64万戸と見通している。また、さまざまな政策指標を定めており、2010年までに最低居住水準に満たない世帯をほぼ解消することなどを目標に掲げている。目標実現のため、民間の協力が不可欠である。

2.今後の住宅政策の課題

  1. 東京都の住宅政策は、戦後から現在まで5期に分けることができる。第1期(1940〜50年代)は都営住宅政策の確立、第2期(1960〜73年)は都営住宅の大量供給による量的確保、第3期(1974〜85年)は量から質への転換、第4期(1986〜90年)は地価高騰による政策転換などが政策の柱であった。第5期(1991年〜現在)は、都営住宅行政からの脱却、民間住宅政策との連携が主要な政策課題であり、本課題に積極的に取り組む。

  2. 民間事業者に期待することとしては、

    1. 画一的な間取りではない、都心居住・木造住宅密集地域・郊外住宅といった、ライフスタイルの見本となる新たな住宅モデルの提案、
    2. 定期借家権の活用などによる民間賃貸住宅供給の充実、
    3. 住宅価格の透明性の向上、
    4. 敷地単位だけでなく周辺地域を含めた開発、
    5. 地域の特色を活かし、周辺との調和を考慮した住宅建築、
    などがある。行政は、規制緩和など、制度や仕組みの見直しによって民間を支援していきたい。

3.都政の構造改革を目指す重要施策

終身雇用や中央集権的な官僚主義など、日本の成長を支えてきたシステムが崩壊しているなかで、都道府県が行政の枠組みにとらわれていては問題が解決できない。東京都が果たすべき役割は、国に先駆けて改革を進め、その結果、国を動かし、わが国全体の再生を実現することである。
そのような問題意識にたって東京都では、構造改革を推進するための戦略指針として、「重要施策および平成15年度重点事業」を2002年11月に策定した。「重点施策」では、「7つの戦略的取組み」を行うこととし、その取組みの一つとして、「住み・働く場としての東京の再生」を挙げ、そのなかで、「先行まちづくりプロジェクト」を平成15年度の重点事業に掲げている。本プロジェクトは、実施地区を指定し、規制緩和を行うなど、都が積極的に関わりながら、大規模な公有地スペースを活用した民間プロジェクトを推進するものである。その他、容積ボーナス制度や定期借地権制度の活用、住宅流通の透明性確保、オフィススペースの住宅転用など、今日的な課題に対応する都市型住宅供給モデルを検討することとしている。

II.日本経団連側意見要旨

  1. 民間の力を活用して、まちづくりを進めるためには、民間事業者にもっと具体的なインセンティブを与える必要があるのではないか。

  2. 実効性ある施策とするためには、区市町村にもインセンティブを与える必要がある。例えば、固定資産税の配分を見直すべきではないか。

《担当:産業本部》

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