経済くりっぷ No.23 (2003年6月24日)

6月5日/日本経団連・WBCSDセミナー

エネルギーと気候変動 〜産業界の役割〜


日本経団連は、グローバルに事業展開している160を超える企業のトップからなるWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議 http://www.wbcsd.org/ )と1月に協力文書を取り交わしたのを契機に共同でセミナーを開催した。平沼赴夫経済産業大臣の来賓挨拶、フィリップ・ワッツWBCSD会長(ロイヤル・ダッチ/シェルグループ最高幹部役員会会長)の基調講演ののち、「実効ある地球温暖化防止に向けた産業界の役割」をテーマにパネル・ディスカッションを実施、温暖化防止に果たしうる産業界の役割について活発な議論を交わした。

I.豊田名誉会長(WBCSD副会長)開会挨拶要旨

日本経団連とWBCSDは、環境問題、企業の社会貢献に対する考え方に共通点が多く、両団体が正式な協力関係を結んだ今、本日のように情報共有の場、意見交換の機会を積極的につくっていくべきと考える。
エネルギー需要の増大に応えつつCO2排出を押さえ、気候変動問題を解決することは産業界にとっても大きなチャレンジであり、2013年以降の議論においては、産業界からも世界中が一つとなり、現実的で実効性のある提案をしていきたい。

II.平沼大臣挨拶要旨

地球温暖化問題については1992年の国連気候変動枠組条約と1997年の京都議定書に一つの完結をみているが、それは第一歩である。
将来の枠組みの構築に向けた視点と行動について、産業構造審議会の地球環境小委員会から重要な二つの提言を受けた。一つは、政府のみならず、産業界、NGO、個人がそれぞれに実効性のある国際的な取組みを進めることが必要であり、そしてそれには研究開発、技術革新を伴って成果をあげるべきということ、また二つ目は主要排出国が参画する枠組みでなければならない。そのアプローチには環境担当閣僚のみならず、私のような経済・エネルギー担当閣僚も参加する必要があるということである。この提言をしっかりと受けとめ地球温暖化対策副本部長として努力したい。

III.ワッツ会長基調講演(要旨)

企業にとって、環境に対する責任と会社発展の目的の間には矛盾はない。私が会長を務めるシェルでは2002年に1990年比で温室効果ガスを10%削減する目標を、ビジネスの拡大と同時に達成することができた。企業はこのような成功例、あるいは失敗例から学ぶことができる。
日本の企業は高いエネルギー効率の実現、革新的な技術開発により世界をリードしている。また「日本経団連環境自主行動計画」により成果を収めていることは賞賛に値する。しかし今は、さらなる努力を求められている。
地球温暖化問題は人類が直面した最大の課題と言えるが、必ず解決策は見出せる。産業界がその中で重要な役割を果たし、先頭に立つことを確信している。

IV.パネル・ディスカッション(要旨)

1.マイクルバスト WBCSD理事

50年間の温暖化は明らかに人間の活動によるものであり、また今後の社会の進歩のためにはエネルギー消費は増えざるを得ない。今何らかの行動を起こすことが必要である。
企業にはまだポテンシャルがあり、積極的取組みは発展のチャンスにもつながる。その取組みは生産性の向上であり、また技術革新であるからである。また新技術と新概念を組み合わせることにより、新しいビジネスモデルが生まれる可能性がある。

2.秋元 資源・エネルギー対策委員長

エネルギーの基本政策の中で、最も重要な安定供給を考えた時、エネルギー資源の少ない日本にとって安定供給のトップバッターは、温室効果ガスを排出しない原子力である。プルサーマルや高速増殖炉の利用を通した「核燃料サイクル」の推進、また長期的には、人類の恒久的エネルギーである「核融合」の開発が重要である。
また今後の温暖化対策には、京都議定書の反省点を踏まえ、全ての国が参加できる公平で、経済、社会の発展と共存できる枠組みが必要である。その枠組みの構築には政治交渉に任せるだけではなく、産業界、NGO、個人それぞれの連携による「複層的アプローチ」が必要であるが、WBCSDの取組みはその有効なアプローチの一つである。

3.桝本 地球環境部会長

日本は石油危機への対応の結果として、エネルギー利用効率について非常に高いパフォーマンスを発揮しているが、これは産業界が環境に貢献する上でヒントになる。これからの地球環境問題への取組みでは、エネルギー需給両面における利用効率向上に向けての技術開発促進が鍵であり、その技術を開発し、社会に根付かせ、利用の体系を築くのは企業の役割である。
また問題への対応として排出量管理を極端に進めることは、一種の管理経済につながる危うさを持つ。推進の中心的主体は企業とし、政府の役割は推進のための条件整備あるいは奨励をする点に重点をおくべきであり、企業のやる気を削いではならない。

4.ニコルソン BP上級顧問

WBCSDでは市場で競争している企業同士が、温暖化問題に関しては協力して取り組んでいる。エネルギー・気候変動ワーキンググループにおいて、また自動車など4つの部門別研究において、企業がより持続可能であるための方策を模索している。
また温暖化問題は充分な知見が未だなされていないことをふまえ、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)等への産業界の貢献も重要である。

議論の中で、日本が高いエネルギー効率を実現する上で政府の果した役割について「国としての方針を示し産業界に目標を提示し流れを誘導する役割を果した」ことが秋元、桝本両氏により紹介された。
また会場からの「産業界にとってはどのような枠組みが最適なのか」という問いに対し、ニコルソン氏は目標の必要性を認めた後「その目標が単に政治的な枠組みの中で成立するのでなく、何が必要かを考慮した上で確立しなければいけない」と述べた。
最後にマイクルバスト氏は「企業自らが、そして国際的に協力しながら行動を進める必要がある。今日の議論は一つの模範となった」とまとめた。

《担当:環境・技術本部》

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