経済くりっぷ No.27 (2003年9月9日)

7月30日/社会貢献推進委員会(委員長 池田守男氏)

経済価値と社会価値を等しいものとして求める社会的責任経営を!

−企業の社会的責任の変化と欧米の動向


企業の社会的責任への関心の高まりにより、社会貢献という視点をいかに企業活動の中に盛り込んでいくか、社会的責任ある経営との整合性をいかにとっていくかという課題が生じている。そこで、麗澤大学国際経済学部のスコット・デイヴィス教授から企業の社会的責任の変化と欧米の動向について説明をきいた。その後、「社会的責任経営部会」を企業行動委員会と合同で設置する旨を報告し、今後の社会貢献活動の課題について懇談した。

○ デイヴィス教授説明要旨

  1. 企業の社会的責任(以下、CSR)とは、一般的に「開示性と透明性の高いビジネス・プラクティスであり、企業の倫理観に基づき従業員や地域社会、環境の尊重を自ら実践することである」と定義されよう。従来は「経済価値 or 社会価値」という二者択一の考え方であり、最近では「経済価値 and 社会価値」との考え方をする人が多いが、どちらも間違いである。「経済価値 is 社会価値」として、同時に創っていくもので、CSRは経営戦略の一環として変化するダイナミックな概念である。利益よりも付加価値を目指す伝統が強い日本企業には、この発想は理解しやすいはずである。会社の資源を活用し社会からの信頼を得て、環境を保護しつつ、経済価値と社会価値を高めていくことが、ステークホルダー価値の向上へと繋がっていく。

  2. 企業がCSRを求める理由の1つは、企業ブランドの構築やエコ経営による優位性の確保などのビジネスニーズである。2つ目は、優秀な人材の確保、従業員のモラルや価値観の多様化などの企業内部の課題である。3つ目は、グローバル化、消費者の期待、経営責任の要求、政府との折り合いなどの外部の動きである。
    特に、ワールドコムやエンロンなどの企業不祥事は、企業に対する不信感を高め、米国ではサーベンス・オクスリー法の制定につながった。同法は企業責任について強化された基準と、企業の不正行為についての罰則を定めているが、誰がどのように運用するかなど、多くの問題を含んでいる。これらの新しい規制は、米国で事業を行う日本企業や欧州企業にも適用される。

  3. EUでは、政府ならびに企業の役割はどうあるべきかについて、多様性と標準化、規制と促進という相反する言葉を組み合わせた2つのテーマから、数年間にわたって議論を進めてきている。欧州では、各企業がCSRを実現するために、独創性溢れる多様な取り組みを行ってきている。その一方で、企業評価が難しくなることを懸念して、標準化を図るべきとの議論が生まれている。さらには、CSRを促進すべきか、規制すべきか、あるいは政府がどれだけ関与すべきかということも議論が分かれる点である。CSRの定義についてはEU独自の考え方がある。それは、CSRを、持続可能な成功をもたらす、企業の競争力の1つととらえている点である。EUでは、CSRは企業独自の自主的で、持続性ある、統合的な活動としてとらえられ始めており、地域によって求められるCSRは異なり、画一的な基準を適用することはできないと考えられている。また、CSRに取り組むことによって、グローバルな展開ができ、企業の競争力が増してこなければならない。さらに、標準化された測定可能な方法が求められている。そのため、CSR実践の手段として、

    1. 行動規範、
    2. 会計・報告・監査、
    3. ソーシャルラベリング、
    4. 社会的責任投資(SRI)、
    5. マネジメント規格、
    などの枠組みづくりが進められている。

  4. CSRは基本的にコミュニケーションである。社内で何を目指してどのような理由で何をしているか、ということが外部の人にわからなければならない。外部の人が理解できないCSRはCSRではない。各企業が自分のニーズにあわせて自分なりのCSRをつくっていくべきだと考えるが、その時に透明性を意識する必要がある。透明性とイノベーションをあわせ持つCSRを求めていくべきである。
    ステークホルダーズとして、ILOなどの国際機関やグリーンピース、Oxfam、アムネスティなどのNGOが台頭してきている。これらのステークホルダーズへの対応という姿勢をとると、CSRは受身になってしまう。経営戦略の一環としてのCSRであるならば、企業が自ら定義すべきものである。ステークホルダーズを中心としたCSRを考える企業が多いが、大きな間違いである。相手にすべきステークホルダーズも、企業自らが定義すべきである。

  5. 最近、4つの“B”という概念が欧州の企業の間で出てきている(図参照)。現在、企業のガバナンスの課題としては、(1)バランスシートが重要であり、市場に対しては(2)ブランド構築が求められている。将来に向けてガバナンスの課題として挙がってくるのは(3)ボードのあり方、市場の課題として挙がってくるのは(4)ビジネスモデルである。CSRの課題と照らして考えると、(1)バランスシートは透明性の高いビジネスになるということを意味し、(2)ブランドという信頼を築いていくということである。(3)ボードのあり方はCSRの社内の仕組みを構築することにつながり、(4)ビジネスモデルを通じて各社が考える付加価値を定義する。これらを基本として自社のCSR構想を考え始める企業が欧州では出てきている。日本企業にも、日本に合う各社に合う対策を考えてほしい。

4つの“B”
将来ボードのあり方ビジネスモデル
現在バランスシートブランド
カバナンス市場
《担当:社会本部》

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