経済くりっぷ No.27 (2003年9月9日)

8月7日/信託業法等改正に関する打合会

受託可能財産を拡大し、信託業を金融機関以外の株式会社に開放

−できる限り早期(早ければ今秋臨時国会)の法案提出に向けて作業


7月28日、政府金融審議会第二部会は「信託業のあり方に関する中間報告書」を取りまとめ、経済界における信託活用のニーズの高まりを踏まえ、できる限り早期の信託業法の改正法案の国会提出(早ければ今秋の臨時国会も視野)を行うことを発表した。日本経団連では信託業の一般事業会社への開放、信託会社の受託可能財産の拡大などを求めてきたが、本報告書はそうした方向を示すものとなっている。そこで標記会合では、金融庁の川嶋 真 信託法令準備室長を招き、本報告書の概要について説明をきいた。

I.報告書の概要−川嶋室長説明

1.受託可能財産の範囲の拡大

大正11年に制定された信託業法は、当時、経営基盤が弱く不健全な信託業者が存在していたとことから、免許制、受託可能財産の制限等により信託業の健全な発展を図る狙いがあった。しかし、知的財産権等の受託を可能にしてほしいといった今日的なニーズを踏まえ、また、今後の新たなニーズに柔軟・迅速に対応する観点から、報告書では、受託可能財産の制限を撤廃し、信託法1条に規定する財産権を受託可能財産とすることが適当とされた。

2.信託業の担い手の拡大と参入基準

現在、信託業は、信託兼営金融機関のみが行っているが、金融機関以外の者がそのノウハウを利用して多様な信託商品の提供を行いたいとのニーズも高まってきた。このような状況を踏まえ、金融機関以外の者が信託業を行い得るようにするとの方向で、必要な制度整備について提言されている。
まず、報告書では、信託業への参入基準については、信託会社の業務の内容・機能に応じた区分が適当であるとされ、具体的には、受託者の裁量性が限定されている業務に比べて、受託者の裁量性が高い業務には高度な資質や能力が求められる点に着目した区分が示されている。すなわち、

  1. 受託者が自らの裁量で信託財産の形を変えたり処分したりせずに、単に保存・維持・利用を行ったり、または委託者等の指図に従ってのみ処分を行う「維持管理型」、
  2. 資産の流動化を行うために受託する「流動化型」、
  3. 信託財産を運用、処分するなど受託者の裁量性が高い「運用管理型」、
といった区分を設け、参入基準の内容に適当な差を設けることが考えられるとされている。ただし、各区分のあり方や具体的な定義等については、さらに実態に即して検討する必要があるとの指摘も併せて行われている。
また、これらの類型とは別に、グループ内の企業のみが委託者、受託者および受益者となるなど、信託の当事者間に密接な関係がある場合(たとえば、知的財産権等をグループ内の一社が信託により一括管理する場合)には、グループ外の第三者は関与しないため、参入基準を含め必要最小限の規制で十分との意見があったが、他方で、そのような場合にも少数株主等の利益保護の観点から、情報開示の充実を求める意見もあったことが紹介されている。
元本補填契約付信託のような預金類似の商品を扱う場合には、預金取扱金融機関並みの規制とする必要があり、当面は当該商品は信託兼営金融機関のみが提供することが適当とされている。
受託会社の最低資本金については、信託には倒産隔離が認められること等に鑑み、銀行や保険会社並みの水準は必ずしも必要なく、証券会社、投資信託委託業者等の他の金融業態と同等程度の水準とすることが考えられるとの指摘をする一方で、維持管理型や流動化型にはより低い水準、運用管理型にはより高い水準を必要とするとの意見があったことが紹介されている。
人的構成については、信託会社が信託業務を適切に行い得る知識・経験等を有する人的構成になっているかを確認する必要があるとされている。参入資格は、審査基準を明確化した上で免許制を維持するが、維持管理型・流動化型の場合はより緩やかな資格とすることも考えられると指摘している。

3.信託会社の組織形態・業務範囲

組織形態としては、株式会社を基本とし、合名・合資会社等の参入についてはさらに検討することとされた。ただし、TLO(技術移転機関)については、事業の政策的役割等を踏まえ、株式会社以外の形態であっても積極的に検討する必要があるとしている。
信託業以外の他業については、受託者としての義務遂行に影響を及ぼさない範囲に制限することが適当とされている。また、他業制限の内容については、信託業務と他業との関連性、親近性に照らし個別に判断することが適当とされている。

4.信託会社の行為規制・情報開示等

信託会社の固有財産の健全性を継続的に確保するための一定の財産的規制、信託商品を販売・勧誘する際の説明義務、不当勧誘の禁止等のルール整備の必要性が指摘されている。また各種規制の実効性確保のため、報告徴求権、検査権、行政命令権といった監督規制も規定するのが適当としている。
その他、適切な主要株主ルールを規定することが考えられるとされた他、取締役の兼職制限・アームズレングスルール等については個別に検討する必要があるとされた。
信託受益権を証券取引法上の有価証券とするかどうか等については検討課題とされている。市場、取引の相手方へのディスクロージャーや受託者責任に関する一般的な義務規定も整備すべきとされている。セーフティネットについては、必要に応じ今後検討を行うことが適当とされた。
信託契約の取次ぎ(媒介)を行う者については、広く認める方向で検討を行うことが適当としている。自主規制のあり方については関係者で検討が深められることを期待するとされた。
最後に、将来予定されている信託法の改正を踏まえ、信託業法の更なる見直しの検討の必要性が指摘されている。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
外国で登録した知的財産権や出願中の特許などの取り扱いはどうなるか。
川嶋室長:
信託法1条の「財産権」の解釈の問題である。なお、信託業法の観点からは、財産権であっても、分別管理が可能かどうかがポイントとなる。

日本経団連側:
グループの範囲はどのような関係の会社まで含まれるのか。
川嶋室長:
金融審議会のワーキンググループでは出資比率50%超の会社をグループの範囲に含めるべきとの意見があったが、こういった意見も参考に現在検討中である。
《担当:経済本部》

くりっぷ No.27 目次日本語のホームページ