経済くりっぷ No.28 (2003年9月23日)

7月23日/東亜経済人会議日本委員会2003年度総会(委員長 香西昭夫氏)

米中の協調演出により安定を見せる台湾海峡


東亜経済人会議日本委員会では、2003年度定時総会を開催し、2002年度の事業報告・収支決算、役員改選、2003年度の事業計画・収支予算を原案通り承認した。また、議案審議に先立ち、慶應義塾大学の添谷芳秀教授から「日台関係と北東アジアの安全保障」について説明をきいた。

○ 添谷教授説明要旨

  1. 中国は、自国の経済発展を主眼とする経済中心主義戦略を遂行するため、1997〜98年頃にかけて、台湾海峡危機(1995〜96年)を契機に最悪の状態にあった米国との関係修復に動き始めた。一方、ブッシュ政権も、成立当初は中国を戦略的競争相手とみなしていたが、9.11テロ以降、外交政策のプライオリティーを対テロ戦争に移したことから、中国との協調関係を演出するようになった。現在、米中は、ともに戦略上お互いを必要としていることから、本質的な協調関係が形成されているわけではないが、対立を極力回避している。

  2. こうした米中関係の枠組みの中にあって、米国は、民主主義といった普遍的価値の側面から台湾に同情的であり、中国の台湾に対する武力行使を認めないという姿勢は堅持しつつ、台湾問題を顕在化させないよう努めている。一方、中国も台湾問題を顕在化させず、むしろ経済中心主義戦略に基づき、両岸直行便を認めるなど、台湾との経済関係を緊密化させている。

  3. こうしたことから、台湾海峡をめぐる軍事的な緊張は一見沈静化しているように見えるが、実際は中国が台湾海峡への短・中距離ミサイルの配備を増強するなど、中台の軍事バランスは崩れつつある。また、今のところ中国では経済成長に伴い軍の近代化が順調に進められてはいるが、軍内部には米国、台湾への中国政府の対応に対して不満がないわけではない。われわれは、表面上の平穏を保つ中台関係をさまざまな視点から注視し続ける必要がある。

  4. 具体的には、日本は以下のような姿勢で中台関係に臨むべきであると考えている。第1に、安全保障面では、台湾問題については、米中対立の局面では米国側につくことになろう。最悪のシナリオにおける自らの立場を明確にするのは、安全保障の根幹である。第2に、経済面では、中国の経済中心主義戦略に則って、中国との経済的相互依存関係を制度化する必要がある。地域経済連携については、日本−ASEANのFTA(自由貿易協定)の中に、中国−ASEANのFTAを取り込んで行くべきである。第3に、社会面では、市民社会の観点から、多元化が進む中国社会との関係を緊密化させる必要がある。緊密化した日中のネットワークを台湾にまで拡大できれば、長期的には中国にとって最終的な手段である台湾への軍事力の行使は困難になる。

《担当:国際経済本部》

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