経済くりっぷ No.29 (2003年10月14日)

9月1日/経済法規委員会企画部会コメント

「総合的なADRの制度基盤の整備についての意見募集について」に対するコメントを公表


ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、仲裁や裁定、調停・斡旋、さらには相談手続など、さまざまな「裁判外の紛争処理手続」の総称であるが、かねてよりADRの制度整備について検討を重ねてきた政府の司法制度改革推進本部は、2003年7月、「総合的なADRの制度基盤の整備について」と題する41項目からなる論点整理を公表し、一般への意見募集に付した。
日本経団連としても、ADRの拡充は、様々な紛争の迅速かつ柔軟、簡便な解決に資することから、昨年来、同本部のADR検討会の議論に積極的に参加してきたが、今回の意見募集に際しては、経済法規委員会企画部会(部会長:西川元啓氏)において検討を行い、標記コメントを提出した。以下はその概要である。


「総合的なADRの制度基盤の整備についての意見募集について」に対するコメント

2003年9月1日
(社)日本経済団体連合会
経済法規委員会企画部会

1.基本的考え方

わが国経済社会の複雑化、高度化に応じて紛争の多様化が進むものと予想され、ADRを活用してこれらの紛争に対し迅速かつ柔軟な解決が図られることに期待が寄せられている。そこで、ADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、ADRに関する基本法(以下、基本法)の立法化も含めて、ADRの総合的な制度基盤の整備が図られることを、経済界としても歓迎するものである。
その際、多様な紛争解決ニーズに対応し、迅速かつ低コストで柔軟な対応が可能となるよう、法規制を行なうとしても最小限とすることで制度設計についての自由度を高め、多様なADR機関の存在が可能となることで、利用者の自由な選択の幅が広がることが望ましい。
また、既存の民間業界支援型の各種ADR団体は、これまで、様々な紛争解決に積極的な役割を果たし、消費者から一定の支持・評価を得てきていることを踏まえ、基本法の立法化がこれらの活動を阻害することなく、むしろ、その活動が活発に行なわれうるようにすることが必要である。

2.個別論点に関する考え方(概要)

【国・地方公共団体の責務(論点6、7)について】
国・地方行政機関が、ADR機関の自主的活動を阻害しない範囲で支援・監督等の施策を講じたり、反社会的勢力のADR制度への関わりの排除を図ったりする必要がある。

【公正な手続運営の確保義務等(論点10、14)について】
ADR機関の主宰者について、「公正な手続運営が確保されるように努めなければならない」とすることが妥当と考える。なお、主宰者の有する事実の開示義務について「独立性」の要件は不要である。

【ADR機関に関する一般情報の提供義務(論点11)について】
国民のADR制度の利用を促すためには、ADR機関及び相談機関自らも積極的に情報提供を行なうことが求められ、努力義務を課すことについて賛成する。

【サービス提供に関する重要事項の説明義務(論点13)について】
相談手続に説明義務を課する場合は、実務上の混乱を招かないようにすべきである。

【調整型手続の過程で得られた情報の利用制限等(論点16〜18)について】
迅速かつ柔軟な紛争解決というADR本来の趣旨に鑑みれば、情報の利用制限を例外として、現時点で一般的なルールを設けることは適当でない。

【ADRを利用した紛争解決における時効の中断(論点19、20)について】
時効の中断に関する特例に関しては、当面は、論点20−(2)「ADRの申立をした者が、ADR終了前又は終了後、一定期間内(例えば、30日以内)にADRの目的となった請求について訴えを提起したこと」とする案が優れているように思う。

【ADRにおける和解に対する執行力の付与(論点21)について】
ADR和解に執行力を付与することに反対ではないが、ニーズは限定的かと思われる。

【ADRの手続開始による訴訟手続の中止(論点24、25)について】
特例は不要と考える。

【裁判所によるADRを利用した和解交渉の勧奨等(論点26、27)について】
裁判所の利用者は、裁判所による裁断を求めて訴訟を行なっている場合が多いという実態を鑑みれば、裁判所によるADRを利用した和解勧奨ができる旨の明確化は不要と考える。

【民事法律扶助の対象化等(論点28)について】
ADRにおいても扶助を行なっても良いのではないか。

【弁護士法第72条の特例(論点29〜33)について】
ADR主宰者に関し、反社会勢力と関係する者を排除する一方で、弁護士以外の実績のある専門職が活動できるようにする措置がとられることが望ましい。

【特例的事項の適用におけるADRの適格性の確認方法(論点35〜40)について】
「ADRの適格性に関する要件」及びその確認方法については、ADRの特長であり、また、国民にとっての利点である迅速かつ柔軟な紛争解決の促進を阻害しないよう最大限配慮すべきである。
以上

《担当:経済本部》

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