9月22日/訪中東欧ミッション結団式兼勉強会

EU加盟でビジネス環境は変わるのか?

−EU加盟を目指す中東欧諸国の現状・展望について、政府関係者よりきく


Introduction
米倉弘昌 ヨーロッパ地域委員会共同委員長を団長とするミッション(9月28日〜10月5日、ハンガリー、スロヴァキア、クロアチアの3ヵ国を訪問し、政府、経済界の代表と、EU拡大の影響等のテーマをめぐり会談)の出発に先立ち、訪問国の駐日大使、臨時代理大使、ならびに外務省欧州局の今村朗 中・東欧課長から説明をきき、意見交換を行った。以下は説明要旨である。

I.フルデアーク駐日ハンガリー臨時代理大使

EU拡大は欧州にとって最も重要なチャンスであり、同時にチャレンジである。拡大により、EUは面積が34%増え、人口も1億500万人増加する。域外国にとってもメリットは大きい。貿易ルールや関税率、行政手続きの一本化により、欧州域内での事業活動がより円滑になる。
ハンガリーは、構造改革によりダイナミックな経済に転換しており、中東欧地域で最も競争力のある国の1つである。外国直接投資が経済成長のエンジンとなっている。EUへの加盟準備は着実に進んでおり、ユーロの参加についても、遅くとも2008年までに実現したい。
近隣諸国との競争に打ち勝つために、外資誘致の支援体制を強化する。多国籍企業の代表も参加する競争力協議会(Council of Competitiveness)を設置した。来年から、外資に対する窓口をITDH(ハンガリー投資貿易促進公社)に一本化する。法人税も18%から16%に引き下げる予定だ。
日・ハンガリー間の貿易総額は20億米ドルにのぼり、日本はハンガリーにとって第11位の貿易相手国(東アジアでは第1位)である。すでに100社を超える日本企業がハンガリーに進出しており、直接投資の総額は13億米ドルに達している。

II.ハウザー駐日スロヴァキア大使

スロヴァキアは、主として、電気機器、自動車・自動車部品、情報設備、金融サービス等の分野の外資誘致を進めている。
来年5月のEU加盟により、外資の投資先として、わが国に対する信頼は一層増すであろう。主要格付け機関による格付けはすでに上がっている。
計画経済から市場経済への困難な移行を完了した。主要産業の民営化も実現した。失業率は、2000年の17.9%から2003年には14.3%に下がった。2002年のスロヴァキアの成長率は4.4%、2003年は4.1%の成長見通しだ。
2002年のスロヴァキアの輸出は対前年同期比で21.4%増である。1999年に20億米ドルであった外国直接投資が、2002年末には95億米ドルにまで伸びた。

III.ブヴァチュ駐日クロアチア大使

現在、クロアチア経済は好調である。成長率は5%、インフレ率は2%で安定している。通貨も安定しており、財政赤字はコントロールできるレベルだ。対外債務も深刻な額にはなっていない。
昨年2月、正式にEU加盟を申請した。現在、EUの法体系への国内法のハーモナイゼーションを急ピッチで進めているところだ。
経済発展は順調だ。国民の購買力が高く、一人あたり9,000米ドルの実力がある。現政権の支持率は80%近くあり、経済政策を全政党が支持している。
旧国有企業は、電力、インフラ関連、ホテル等観光施設など、一部の例外を除いて民営化が完了している。外資は主として、銀行や通信といった分野に進出している。わが国は観光資源も豊富である。

IV.今村課長

来年5月にEU加盟を予定している国々は、マルタ、キプロスを除くと、すべて旧共産主義諸国であり、EU拡大は、分断されていた東西欧州の再統一を意味する。欧州の安定に寄与するだろう。
中東欧諸国は、民主化、市場経済化を進めてきたが、EU加盟はその総仕上げと位置付けられる。これら諸国の民主化、市場経済化を一貫して支援してきたわが国は、この動きを歓迎している。
拡大によりEUは、従来よりもメンバー国間の経済格差が大きい統合体になる。新規加盟国には、EU内部の財政支援をテコに自国のインフラを整備し、外資を呼び込みたいとの思惑もあるようだ。
EU拡大により、日本企業のビジネス・チャンスは増大する。中東欧諸国は政治的、経済的に比較的安定しており、魅力的な市場だ。労働力は安価で、教育水準、規律の高さという利点もある。一定水準のインフラも整備されている。将来的にはロシア市場への足がかりにもなりうる。各国とも、わが国との間に大きな政治問題はない。
ユーロ導入については、ハンガリーとポーランドは2006年から2008年くらいに実現するだろうとの見方もある。チェコは2009年から2010年くらいの導入とも言われている。スロヴァキアはこれより遅いだろう。
ハンガリー、スロヴァキアのEU加盟について、経済的な懸念が3つある。
第1は、関税率の変化だ。EU加盟後、ハンガリーとスロヴァキアでは、日本の輸出品の関税率は平均では下がるが、チタン酸化物のように43%ものシェアを占めている製品の関税率が5.5%上昇するというケースもある。GATT規定によると、こうした場合、補償措置を求める交渉ができる。経済産業省と協力し、EUとの交渉を続けていきたい。
第2は、EUによる日本製品へのアンチ・ダンピング課税がハンガリー、スロヴァキアにも拡大適用されるのではないかという懸念だ。EU全体として見れば、不公正競争に相当すると解釈できるかもしれないが、日本政府は、新規加盟国への輸出品に自動的に適用するのはどうかとの考え方に立っている。
第3は、新規加盟国が現在行っている税制等の投資優遇措置が、EU共通政策に取って換わられるのではないかという懸念だ。ハンガリー、スロヴァキア両国では、すでにEU基準を考慮した投資優遇措置に段階的に切り替えるなど、移行措置を講じている。わが国政府は、移行措置を実施するにあたっては、企業の声をよくきき、激変緩和措置の実施などにより現行の投資優遇措置がEU加盟によって後退しないよう、ハイレベルの政府間交渉で訴え続けている。

《担当:国際経済本部》

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