10月8日/常任理事会

国立大学の法人化と産学連携

−東京大学 佐々木総長よりきく


Introduction
わが国産業の競争力強化は、ここ数年来の喫緊の課題となっており、そのため中でも産学連携の推進が急がれる。来年度から、この産学連携の一翼を担う国立大学が法人化することにより、これまで以上に産学連携が進むことが強く期待されることから、東京大学の佐々木毅総長から、国立大学の法人化と産学連携について説明をきいた。

佐々木総長説明要旨

1.法人化と人事制度

国立大学でも、従前から産学連携は可能であり、産学が非常に密接につながっているようにみえた部分もあったが、国立大学が法人化した際には、実際問題として、産学をいかにしてつなげるかということが重要な課題となる。
産学連携を進めていく上で、まず人事制度の問題がある。国立大学が法人化され、教職員が非公務員化すると、これまでとは異なった人事制度へ変わることになる。現在、東京大学には、約3,000人の研究者と多数の事務職員、病院関係者等が従事しており、来年4月の法人化の段階で、職員全員の勤務形態を一斉に変えることは難しく、勤務条件の見直しは段階的に進めなければならない課題である。
特に、教授・助教授等の教員の勤務条件については現在検討中であるが、今後は実質的には裁量労働制になるため、その詳細な条件を決めていく必要がある。たとえば、共同研究等を進める上で、年間数十日は相手先の外部研究機関で時間を使うことも考慮しなければならず、一種の契約条項を設定しなければならない。また、大学の社会的な貢献として、どの程度まで産業界との協力関係を受け入れるのかというガイドラインを含めた人事制度を構築していく必要がある。欧米の大学では、教授等に対し、ある一定期間、大学で授業することを免除するというサバティカル制度を設けており、東京大学でも同制度の導入を決めた。その詳細は今後詰めなければならないが、本制度が導入されると、国内企業等で1年程度、研究開発に従事することが可能になる。このようなルールを守る形で、産学の人的な関わりをつくることは、非公務員型で可能になるだろう。新しい人事制度は、年内一杯に成案ができるよう現在努力しているところであるが、企業からも人材が来ることを鑑み、内容的に意欲的なものとし、結果として産学連携がスムーズに進むようにしたい。
大学教員の兼業については、ここ数年の間に兼業手続きが簡素化される等、環境整備が進んだ。今後は、産業界との接点を拡大する意味からも、日常的なレベルを含め兼業が進むようにしていきたい。

2.法人化と財務

国から国立大学に手当てされる資金の大部分は光熱費となり、純粋な意味での研究資金はほとんど残らない。実質的な研究資金は、科学研究費補助金、奨学寄付金、民間等との共同研究および受託研究によって賄われている。これらの研究資金は、広い意味で競争的に獲得した外部資金である。ちなみに、東京大学では、ライフサイエンス、情報、環境、ナノテクノロジーといった領域を中心に、産業界との共同研究等がここ数年増えており、これに伴い、東京大学には民間企業等から約350名の人材が来て研究活動に従事している。
国立大学法人の将来的な財務の姿は、これから折衝していかなければならない課題であるが、先に述べた外部からの研究資金を受け入れることなしには、大学経営は成り立たなくなっているのが現状である。今後、研究活動等を継続していくためには、コスト面での見直しを行いつつ、主に理系を中心に競争的研究資金を引き続き獲得していかなければならない。
国立大学はそもそもストックを持たない組織であるため、法人化する際には、初期投資に関する財務上の問題がある。たとえば、今後、特許等の知的財産権は機関(大学)が所有することになるが、それらの維持・管理等のための初期費用や機関所有にすべき特許等の数について、その判断が難しく、重い課題として残っている。

3.産学連携の現状と課題

東京大学では、この2年半の間に産学連携推進のため、さまざまな関連組織を設ける等、体制整備に努めた結果、学内の雰囲気も随分変わった。現在、総長の下には、産学連携のための全学的な組織(産学連携推進室)があるが、そこには民間企業から製造業、金融機関、監査法人等、約40人の参加を得ている。またこの部署から学内のさまざまな部局や研究施設等を一括して案内できるようにし、産学連携の窓口として一本化も図る予定である。
今後、産学連携を進めていく上で解決を要する案件は多数あるが、先に述べた知的財産権の管理のあり方が問題となっていることから、東京大学では知的財産本部を設置することを決めた。民間企業等との共同研究や受託研究等、従来の産学連携のあり方が十分な成果指向型であったかどうかは疑問が残るものの、今後は、知的財産権の管理の観点から、産業界との共同研究等のあり方を見直していくべきと考える。この点を曖昧にしたままでは、十分な成果は期待できないだろう。研究成果の事業化についても、学内で関心が高まっており、効果的かつ効率的な産学連携のあり方について、現在、議論を深めている。
また国立大学法人の経営には、学長を中心とした「役員会」制を採用し、民間的発想のマネジメント手法を導入することになるが、産業界から就任された役員には産学連携の中心となってもらうことになろう。
なお、東京大学でも来年春にロースクールが立ち上がるが、定員の3分の1は法学部を卒業していない人を対象としており、こうした試みは、産学連携の中でビジネスに関する人材を育成するという点からも、画期的なことと考える。
産業界との共同研究等については、反省すべき点は反省し、産学双方にとって良いものにしていきたい。地方大学は当該地方の産業界との関係を大切にしているが、全国レベルで産学連携を進める観点から、東京大学としても地方大学との協力体制の充実、ネットワーク化等に取り組んでまいりたい。

《担当:総務本部》

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