10月28日/駐欧州各国大使との懇談会(司会 米倉弘昌ヨーロッパ地域委員会共同委員長)

欧州情勢について

−各国駐在大使よりきく


Introduction
外務省欧州大使会議に出席するため一時帰国中の欧州各国駐在の6大使を招き、奥田会長をはじめとする日本経団連会員との間で、欧州地域の最新の政治経済情勢、わが国との経済関係などをテーマに意見交換を行った。

各大使説明要旨

1.朝海和夫 駐EU日本政府代表部大使

日・EU首脳会談(本年5月)では、EU拡大が大きなテーマとなった。来年5月の拡大は、全体としては日本にとっても経済的にメリットがあるが、新メンバー国における関税率や投資優遇措置など個別分野ではEUとの協議が必要だ。また、現在、EUは日本にとって最大の投資先であり、双方向の投資の拡充も重要な課題である。
WTOカンクン閣僚会議の結果、欧州は自らイニシアティブをとって交渉を再開させる熱意を失っており、またそれを戦術として得策と見なしていない。引き続き欧州を投資の国際ルールづくりの場に引き込んでいく努力が必要だ。
EUは新たな化学品規制を課そうとしているが、広く産業界に影響を及ぼすものであり、域内の英仏独の首脳も懸念を表明している。日本経団連からも働きかけをいただいている。今後の動向を注視したい。

2.平林 博 駐フランス大使

フランスは来年選挙の季節を迎える。現在、与党は下院で安定多数を維持しているが、公務員改革、年金・医療改革、地方分権、国営企業の民営化など大きな課題を抱えており、来年の選挙結果が注目される。
フランス経済は苦境にある。財政状況が悪い(財政支出のGDPに占める比率は現在4%近い)。今年度、来年度の経済運営はこの状態で進めざるを得ず、EUの安定成長協定では縛りきれない。
外交面では、英国がユーロを導入しないため、フランスとドイツは今後もEU推進の役割を担っていくだろう。フランスは米国と異なり、多極的な世界観を有しており、欧州の農業政策、安全保障・防衛政策でも、欧州独自の路線を志向している。
日仏関係は現在、最良の時期を迎えている。今後は、国連改革、安全保障など幅広い分野での政策協調も増えてくるだろう。

3.高島有終 駐ドイツ大使

ドイツの将来を左右する労働市場改革、社会保障制度改革、税制改革の関連法案の国会審議について、上院の連邦参議院は与野党が逆転しているため、年末にかけて与野党間の話し合いが山場を迎える。
外交面では、イラクにおける軍事行動をめぐり米独関係は悪化しているが、最近首脳会談で関係改善の動きは出ている。他方、欧州、特にフランスとの協調もドイツの重要課題なので、バランスをとる必要がある。
ドイツ経済は、2001年からの3年間、低迷を続けている。本年はマイナス成長であったが、明るい兆しが出てきており、通年ではゼロ成長まで回復する見通しだ。政府や主要な経済研究所による来年の見通しは1.5〜2%成長としている。低迷の原因は、第1に、旧東独地域への経済支援である。年間700億ユーロの支援はほとんどが社会保障関連費であったため、経済効果がなかった。第2の原因は、労働コストの高さである。
日独関係については、ドイツでの首脳会談(本年4月、8月)により両国経済、特に双方向での投資活発化が重要課題と位置付けられている。ドイツの中規模企業との間のM&A形態での連携の可能性がありうる。日本からの進出企業の声をドイツ政府当局者に伝える定期協議の場も今夏設置された。

4.折田正樹 駐英国大使

7年目を迎えるブレア政権は、イラクに対する軍事行動も首相の強力な指導力で乗り切ったが、イラクの脅威に関する情報操作の疑いが論争に発展し、内閣支持率は30%まで低下した(当初60数%)。しかし、9月の労働党大会でもブレア首相は強気で、内政重視を打ち出し、2005年に予想される次期総裁選への出馬も表明している。一方、保守党は労働党混乱の機会を活かし党勢を伸ばすことができず、逆に、ダンカンスミス党首の指導力が問われる事態となった。
英国経済は、財政支出と消費に支えられ堅調に推移している(本年は1.7%、来年は2.6%の成長見通し)。しかし、中長期的に見た生産性の低さと住宅部門のバブルが懸念材料だ。
ユーロの導入については、現政権は導入すべきとの姿勢を堅持しているものの、まだ条件が満たされていないとの理由で実施を見合わせており、来春の予算編成の時期に見直すことになっている。ブレア首相の支持率が下がっていることから、ユーロ導入の是非を問う国民投票の実施は政治的なリスクを伴うだろう。
日英関係は、日本の対英投資が日本の対EU投資の4割を占めることなどから、現在非常に良好である。

5.橋本 宏 駐オーストリア大使

オーストリアは、冷戦時代は東西間のゲートウェイとしての役割を担っていたが、冷戦終焉後、西側企業は旧東欧諸国で直接事業を行うようになった。日本企業も、国内経済の低迷もあり、ウィーンの拠点をロンドンほかに移した。
ところが最近になって、EU拡大の関連で、米国企業のウィーン帰りが顕著である。金融機関をはじめとする企業の力(サービス、ノウハウ)や優秀な人材確保の面で、オーストリア企業と提携することのメリットが見直された結果である。また、オーストリア企業の旧ユーゴ諸国への進出は目覚しく、米国企業はその力を活用している。

6.高橋恒一 駐チェコ大使

チェコを含む中東欧は、東南アジアと並んで日本企業が現在最も活発に活動している地域である。特に2000年以降、チェコにおける日本企業の活動が目立つ(自動車、エレクトロニクスを中心に119社進出。投資総額20億米ドル)。ドイツ、オーストリアよりも大きな投資規模である(製造業の拠点数ではドイツを抜いて現在日本が第1位)。
チェコに進出する理由について現地日系企業は、
(1) 相対的に安価で良質な労働力、
(2) 高い産業技術の基盤、
(3) 地理的利点(東へ拡大する欧州の中央部)、
(4) 中央と地方で外資受け入れ体制に大きな違いがないこと、
の4点が指摘されている。

《担当:国際経済本部》

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