11月13日/中東地域大使との懇談会(司会 渡 文明中東・北アフリカ地域委員長)

中東諸国の経済、社会開発に多様な形で協力していきたい


Introduction
外務省中東大使会議の開催に合わせて一時帰国中の同地域駐在大使21名と堂道秀明中東アフリカ局長を招き懇談会を開催した。イラク復興や主要国情勢などについて説明をきき、意見交換を行った。

I.堂道局長説明要旨

中東大使会議の模様

1.イラク情勢

イラクの平和と安定には、周辺諸国の協力が必要である。エジプトとの医療協力など、日アラブ諸国協力やイラクのシーア派に影響力をもつイランとの協力を進める。イラク復興支援国マドリッド会議は成功し、日本は議論をリードした。15億ドルの無償資金供与は、イラクの治安情勢を見極めつつ、当面、2004年を中心に実施していく。また、イラクに派遣する自衛隊は、武力を行使せず、人道復興支援に専念することを、イラクと周辺各国に正しく伝えていく必要がある。

2.イランの核開発問題

IAEA理事会での議論を踏まえ、国際的な核不拡散の枠組みの中で見極める必要がある。米イラン関係を睨みながら、日イラン関係の長い歴史に基づき、イランが地域の平和に寄与する安定勢力になるよう、働きかけていく。

3.アフガニスタン情勢

来年6月の選挙を控えて、政治プロセス、復興支援ともに正念場にある。パキスタン国境などでタリバンが再結集する動きがある中、現在、日本主導で、軍閥兵士の武装解除、動員解除、社会復帰を進めている。関心は薄れがちだが、日本の貢献は政府と国際社会から高く評価されており、引き続き支援していく。

4.中東和平

ロードマップは危機的状況にあり、当面、事態打開の見通しは立ちにくい。パレスチナ自治政府のクレイ内閣は、暴力停止を呼びかけ、日本などの友好国との協力強化を表明した。問題解決のためには米国の関与が重要だが、日本もパレスチナとイスラエルの信頼醸成のために、政治プロセスに積極的に関与していく。

5.中東諸国の経済社会開発への貢献

湾岸諸国の経済成長への貢献を、石油の安定供給への見返りとしてとらえるのではなく、経済成長による中東地域の安定を通じて、エネルギーの安定確保を図りたい。中国が石油供給の中東依存度を上げる中、日本のエネルギー戦略の策定を急ぐ必要がある。高い人口増加に直面する湾岸諸国の国づくり、人づくりを支援するため、技術協力と投資を進めることが必要である。同時に、最貧国の社会開発分野への協力を継続する。

II.各大使説明要旨

1.大木正充 イラク担当大使

イラク人の生活は徐々に向上している。一般犯罪はイラク人警察の配備により減少し、電力は送電時間が停電時間を超えた。また、店舗、病院、学校が再開した。他方、スンニ・トライアングルを中心にテロが続き、一部は巧妙化している。治安の回復は、政治プロセス(イラク人への権限委譲)と、経済復興(失業対策)と密接に関連する。雇用促進では、建設業や農業が有望であり、セメント工場や肥料工場のリハビリが待たれる。国営企業の民営化のための法整備が進み、日本への期待も大きいが、生産設備の復旧と職員の再教育が急務である。

2.今井 正 駐イスラエル大使

中東和平ロードマップは危機的状況にある。イラク戦争後、一時和平へのモメンタムが昂進し、停戦合意ができた。しかし、和平は夏の終わりに崩れ、今が底にある。パレスチナ自治政府では、クレイ内閣が正式に発足した。イスラエルには強攻策が却ってパレスチナ側を硬化させたとの反省がある。テロの殲滅が先決だが、シャロン首相は、クレイ首相に適切に対応するだろう。

3.河村武和 駐イラン大使

IAEA理事会で、イランの核開発問題が議論される。国際社会はイランの核疑惑払拭のために、建設的な圧力をかけ続けることが重要である。イランでは、人口の70%を占める若者の間で閉塞感が大きいが、指導部は、国内の不満をうまくききながら体制の維持を図っており、来年2月の国会議員選挙までは、こうした状況が続くだろう。イラン経済は、堅調な原油・天然ガス価格を背景に安定している。最近、エネルギー分野で中国企業の進出が目立つ。

4.齋藤泰雄 駐サウジアラビア大使

サウジ政府は、テロ分子絶滅作戦に真剣に取り組んでいるが、道のりは遠い。アブドッラー皇太子は民主化、近代化の必要性を自覚しており、この1年で教育改革、女性の役割の改善、WTO加盟に向けた国内法整備等を実施した。また、選挙制度の導入を発表したが、詳細は不明な部分が多い。米サ関係について、政府間関係は良好だが、国民感情は嫌米を超えて反米になっており、注意を要する。日サ関係では、水、発電、天然ガスなどの分野で、技術協力や投資への期待にいかに応えていくかが課題である。

5.阿部知之 駐トルコ大使

トルコでは、昨年の総選挙で公正発展党が圧勝し、エルドアン首相の下で安定的な政権運営が行われている。外交面ではEU加盟と対米関係の2つの大きなテーマがある。EU加盟は、回教国であることや労働力の移動の問題がある。最近のEUの審査では、キプロス問題を除いて概ね評価された。対米関係では、クルド人問題などからイラク派兵を取り止めた。経済面では、年率7%の経済成長や20%まで低下したインフレ率などIMFの評価も高い。しかし、国家予算の大半が過去の利払いと人件費に使われるなど、改善すべき点は多い。2003年は日本におけるトルコ年であり、12月中旬にはギュル副首相兼外相が訪日する。

6.浦辺 彬 駐アルジェルア大使

5月のアルジェリア地震では、インフラが大きな損害を受けた。政府の推計では被害額は20〜50億ドルにのぼる。住宅問題などは未解決であり、対策が急務である。日本は、学校や病院の復旧に円借款で協力する。原油価格の高止まりで、2003年の経済成長率は6.5%に達する見込みであり、外貨準備高も300億ドルを突破した。また、テロ件数、犠牲者数とも減少し、欧州からの民間航空便も増えている。来年4月に大統領選挙が予定されており、現職のブーテフリカ大統領とアルジェリア民族解放戦線のベンフリス党首(前首相)の一騎打ちになるだろう。

《担当:国際経済本部》

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