12月24日/社会的責任経営部会(部会長 池田守男氏)

日本企業に求められるCSRとは


Introduction
企業の社会的責任(CSR)については、近年、内外で急速に関心が高まっており、ISO(国際標準化機構)でも規格化の是非について検討している。日本では経済産業省が日本規格協会の中にCSR標準委員会を設置してISOへの対応を検討している。しかし、CSRは企業が自主的に取り組むものであり、規格化することには欧米産業界でも反対意見が強い。日本企業としてのCSRのあり方ならびに規格化の動きへの対応を検討するにあたり、CSR標準委員会ワーキンググループ座長を務めている麗澤大学の高巖教授から説明をきき、意見交換を行った。

I.高教授説明要旨

1.CSRとは

CSRで取り組むべきことは、正義と博愛を横軸、基礎的と主体的というコミットメントのレベルを縦軸とするマトリックスから4つの領域が見えてくる。CSRはこれら全ての領域にまたがる問題を扱うことである。正義・基礎的な領域の法令遵守と倫理実践の領域は社会に与えるネガティブなインパクトをできるだけ減らす取り組みであり、博愛・主体的な領域の社会貢献は積極的に社会に良い影響を与えていく取り組みである。CSRへの取り組みを社会に公表する際、社会貢献に関わることは良い結果を報告することなので抵抗はないだろう。一方、法令遵守と倫理実践については問題の発生を防ぐために、どのような取り組みを行っているかというプロセスを報告することが合理的であろう。

2.何をCSRの指標とするか

CSRには、さまざまな立場の個人や組織が独自の指標を持ち込む。欧米の評価機関等の指標やガイドラインでは、日本企業は欧米企業より劣って見えてしまう。しかし、トップと一般社員の所得格差、労働災害件数、欠勤率、職場における喧嘩、薬物使用者、食堂やトイレ使用上の差別、職場における情報の共有化などの指標を入れれば、欧米企業の方が日本企業より劣って見えるはずである。
最近、日本企業でも成果主義賃金体系への移行という議論があるが、これを実践していけば欧米と同様に所得格差が拡大し、治安が悪化し、地域社会が疲弊していく。欧米の企業は問題を社内で抱えずに外に出し、地域社会の荒廃を解決するために寄付している。一方、日本企業は問題を内部に抱えながら、社会の課題にも取り組んできた。成果主義賃金体系に移行するならば、日本でも新たなタイプの社会貢献、労働の流動性を高めるための措置が必要になる。

3.法令遵守と倫理実践で期待されること

日本では、企業性善説を前提に良質な企業に基準をあわせて制度がつくられている。その考え方を尊重し、善を具体的に担保する仕組みをつくるのは日本企業が率先してやるべきであろう。米国のモトローラでは過去に起こった25の不祥事を事例研究した『妥協しない誠実』を出版し、社内外での倫理研修に使われている。
最近では、サプライチェーン・マネジメントなど、拡大生産者責任、拡大小売業者責任ともいえるようなことが要請されるようになってきた。海外では、児童労働や強制労働、労働の安全衛生などをチェックしていくことが求められている。

4.社会貢献で期待されること

寄付やボランティア活動だけでなく、すべての関係者がよしとするものを目指す取り組みが求められている。無駄になっている商品、施設、スキルの発見から出発し、無駄を無駄としない仕組みを構想してはどうか。たとえば、5分経ったら商品価値がないと捨てているフライドポテトを、10分前に揚げた品、5分前の品、今揚げたての品の中から消費者に選んでもらう。5分前、10分前の品の売れた金額をポイントとして貯め、ホームレス支援に寄付することもできる。企業の思い込み、消費者の思い込みを変える仕組みを導入し、実施を通して社会の意識も変えていくことが大切なのではないか。こうした取り組みが、会社にはコストの削減、評判の改善、社員の意識向上などの効果をもたらし、NPO等の活動支援となり、社会の安定や発展、治安の改善などにもつながるだろう。

5.日本でCSRをいかに促していくか

欧州では社会的結合の問題を解決するため、産業界の理解と支援を得てCSRヨーロッパを設立した。日本でCSRを推進していくために、産業界として何をすべきかということも議論していただきたい。消費者問題を解決するために支援の仕組みをつくるのも一案だろう。
CSRに関する規格をつくるのかということも考える必要がある。ISO規格の作成には時間がかかり得る。そうなると、さまざまな規格関係の団体が各々規格をつくり始めるだろう。法令遵守と倫理実践については、マネジメント・システム規格がいいのではないか。その理由は、規範的目的の詳細は各組織が決定できることにある。
第三者による検証については、ISO審査登録機構の場合、認証を取得する企業が費用負担しなければならない。SRI(社会的責任投資)評価機関の場合、SRI商品を購入する投資家が費用負担するため、合理的ではないか。ただし、検証は必要ないかもしれない。法令遵守と倫理実践はやらざるを得ないことであり、社会貢献はステークホルダーを関与させれば可能かもしれない。その際には、ステークホルダーが「Win-Win 関係志向」であることを前提条件として導入すべきである。

II.日本経団連側発言要旨

  1. 米欧企業はCEOのコミットメントのもとに体系的・戦略的にCSRを推進しているが、規格化についてはいずれの産業界も反対していることがわかった。これまで行政府が規格化に前向きに取り組んでいると伝えられていた欧州でも、産業界、労働組合、NGOなどでマルチステークホルダーの対話が始まったばかりである。

  2. 日本国内でもCSRが企業経営において重要であると認識されているが、産業界には規格とすることはいかがなものかとの意見が強い。CSRは企業が自主的に推進すべきものであることを強く主張していく必要がある。

  3. 要はいかにして企業が自主的に取り組み、CSRの実をあげるかであり、企業行動憲章の枠組みの中で、今後のCSRへの取り組みを検討していく必要があるのではないか。

《担当:社会本部》

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