1月30日/貿易投資委員会(委員長 槙原 稔氏)

企業活動にとっても影響の大きいWTO紛争処理


Introduction
貿易投資委員会は、総合政策部会で検討して取りまとめた、提言「外国政府の不公正通商措置等に対する調査開始申立制度の整備を求める(案)」の審議を行った。当日は、審議に先立ち、成蹊大学法学部客員教授で元WTO上級委員の松下満雄氏より、WTOにおける貿易紛争処理の現状と課題として、実際のWTO紛争処理案件に対する考え方等をきくとともに懇談した。

松下教授説明要旨

1.WTO紛争処理と米欧の法制

1995年のWTO発足以来、紛争処理案件は300件を超え、年間20〜30件程度で推移している。WTO紛争処理件数は、提訴側、被提訴側とも米国が1位、EU(欧州連合)が2位となっており、米欧紛争が多い。
この背景には、米国には1974年通商法、EUには貿易障害規則があり、国内産業が被害を受けた場合、政府に対してWTO紛争処理手続きの活用を含めた問題提起をする仕組みが整備されていることがあろう。
日本においても、こうした法制度を整備することは、透明性、安定性、予見可能性を高めることにつながるので望ましい。

2.実際の紛争処理案件

紛争処理案件が多い分野は、アンチダンピング(AD)、農業、補助金・相殺措置等となっている。AD、セーフガード(SG)は企業活動への影響が特に大きい。

(1) AD関連紛争処理案件

WTO協定上、ADは、ある企業がある製品を国内価格より安い価格で輸出し、輸出相手国の同種の製品を生産する国内産業に実質的な損害を与えており、さらに両者に因果関係がある場合にのみ発動できる。
米国は、こうした協定に違反して、三倍損害賠償や刑事罰の請求を認める1916年AD法、AD税の国内提訴企業への分配を認めるバード法という国内法を制定しており、日欧などがこれを問題視してWTOに訴えて勝訴した。しかし、米国政府は議会との関係からこうした法律を廃止できずにいる。日欧などは対抗措置を用意しているが、米国政府に対して廃止措置を強制することはできず、これがWTOの限界として指摘できる。

(2) SG関連紛争案件

米国は2002年3月に鉄鋼14品目についてSGを発動したが、この措置がWTO協定に違反するとして日欧など8ヵ国・地域が紛争処理に訴えて勝訴した。この問題は、ブッシュ大統領がSG措置を撤廃することで決着がついた。日欧中などの有力国が連携して対抗措置を発動する構えを見せたことが功を奏したのではないか。

3.WTO紛争処理の効果

WTO紛争処理は、米国議会から判断基準がおかしい等といった批判があるが、きわめて有効に機能してきたと言える。

《担当:国際経済本部》

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