2月20日/ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス改革に関する懇談会(司会 小林正夫経済法規委員会共同委員長)

企業は株主のみならずすべてのステークホルダーに配慮しなければならない

−クロンメ 独コーポレート・ガバナンス政府委員会委員長と意見交換


Introduction
ドイツでは2002年2月にコーポレート・ガバナンス規範を制定し、企業に対して規範の遵守を求めるとともに、同規範に基づく関係法制の整備などを行っている。
日本経団連では、同規範を策定した独コーポレート・ガバナンス政府委員会のゲルハルト・クロンメ委員長(ティッセン・クルップ社会長/欧州産業ラウンドテーブル会長)の来日を機に、ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス改革の考え方について説明をきくとともに、両国のコーポレート・ガバナンスをめぐる課題について意見交換を行った。

I.クロンメ委員長説明要旨

1.規範策定の経緯

ドイツでコーポレート・ガバナンス規範が策定された背景には、金融市場のグローバル化がある。ドイツでは日本と同様、企業の資金調達は銀行による融資が中心であり、企業の目は債権者や従業員に向けられていた。しかし企業がより有利な資金を求めて直接金融の市場に出ていくようになり、銀行の信用収縮などとも相まって、株主の地位は相対的に高まった。特に世界最強の金融市場を擁する米国市場の投資家の意向が色濃く反映されるようになり、従来以上の株主保護策や投資家への説明が求められるようになった。
そこでドイツでは2000年にコーポレート・ガバナンス改革に関する委員会を設置し、幅広くドイツ会社制度の見直しを行った結果を2001年に報告書にまとめ、これを受けてコーポレート・ガバナンス規範を策定することとなった。私を委員長とする委員会には大企業・中小企業の経営者のほか、労働界代表や2つの年金基金、証券取引所、経済学や法学の学者も入っていた。

2.規範のポイントは透明性と柔軟性

規範のポイントは透明性と柔軟性である。同規範は62項目の原則からなるが、大部分が従前から認められてきた企業と各機関の権利と責任を取りまとめたものである。特徴は、この原則を遵守するか、さもなくば従わない理由を説明するという構造をとることにより原則の実効性を高めていることにある。大半の項目についてほとんどの企業が遵守することを表明しているが、(1)役員報酬の個別開示、(2)D&O(役員賠償責任)保険の会社免責条項の締結、(3)執行役員報酬を固定給と変動給で構成することの3項目については、多くの企業は受け入れていない。

3.欧州委員会もBoardの選択制を提言

欧州の他の諸国においてもコーポレート・ガバナンス改革をめぐる状況は同様である。欧州委員会で加盟各国のコーポレート・ガバナンス規範を比較検討したところ、相当程度が収斂していた。このため欧州委員会は統一の規範は策定せず、大原則を示すこととした。
日本では会社機関の選択制が法定されているが、2003年に欧州委員会が取りまとめた「会社法改革のための行動計画」でもBoardの構成を一層制と二層制の選択制とすることを提言している。いずれの仕組みにも長所があり、欠点も改善されてきた。肝心なことは適切な運営の確保である。
二層制のドイツでは監督と執行の責任が明確に分離されていることが特徴だが、以前は執行役会から監査役会に示される情報は不十分なもので、役員会の直前に議題が回ってくる程度であった。現在では十分な検討期間を置いて詳細な情報が示されるようになった。
一方、一層制を採用する米国では役員が皆同じ責任を共有する特長があるが、大部分の会社で最高執行責任者(CEO)と取締役会議長とが兼任されており、一人に権限が集中し過ぎている。エンロンその他の不祥事の反省を踏まえ、取締役会議長とCEOとを分離すべきだと考える。

4.株主を一括りにはできない

欧州も日本も会社が資金の出し手である株主を尊重すべきことは当然である。そして他の投資先との比較をしながら株式を保有をする株主の立場も尊重したい。しかし、年金基金のように、次の四半期の業績にしか関心を持たず会社の長期的な発展に興味を示さない株主の意向ばかりを尊重することはできない。すべてのステークホルダーに目配りをし、長期的な発展を成し遂げることが経営者の責任である。ティッセン・クルップ社はクルップ財団が2割の株式を保有しているが、彼らは株価ではなく配当を重視して長い目で会社の発展を評価してくれている。株主は一括りにすることはできず、たとえばフランスのように長期保有株主については議決権を加重するような仕組みを検討すべきだと考える。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
ドイツでは従業員代表が役員会構成員となる共同決定方式を採用しているが、国際的な企業間提携などの障害とならないか。
クロンメ委員長:
日本も労使のコンセンサスを重視すると承知しているが、ドイツに限らずどの国でも従業員に影響の大きい工場の閉鎖などの決定について経営者が一方的に決める時代ではない。共同決定方式をとっているからドイツで産業構造の改革が遅れるということはない。
しかし欧州全体のルールの共通化や産業再編の動きなどの中で、より柔軟な方式に変化せざるを得ないと感じる。

日本経団連側:
コーポレート・ガバナンス規範では、企業の特徴に応じて監査役会内部に委員会を設置することを提言しているが、どの程度定着しているのか。
クロンメ委員長:
会計・リスク管理、会計監査人への監査委託等を決定する監査委員会、指名・報酬に関する委員会、投資・資金調達に関する委員会の3つについては多くの企業で設けられている。

日本経団連側:
ドイツの株主代表訴訟は日本よりも原告への制約が厳しいが、株主権限拡大の動きもある。評価はどうか。
クロンメ委員長:
ドイツでは株主代表訴訟を提起するには一定数の株式の保有が要件とされていたが、より提訴を容易にする方向で検討が進んでいる。ドイツでは株主からの質問に回答するために、株主総会が12時間かかるような場合もあり、すでに十分株主を重視していると考える。一般論として株主権の拡大はよいが、代表訴訟制度の要件緩和については、制度の誤用・濫用が懸念されている。
《担当:経済本部》

くりっぷ No.39 目次日本語のホームページ