2月25日/中南米地域委員会(委員長 佐々木幹夫氏)

資源豊富な中南米諸国との関係を再構築する

−中南米地域駐在大使と懇談


Introduction
日本経団連では、外務省の中南米大使会議の開催に合わせて、同地域駐在の25大使と島内憲 中南米局長を招き懇談会を開催した。当日は中南米大使会議(2月24日〜25日開催)の模様、経済連携や主要国情勢等につき説明をきくとともに、意見交換を行った。

I.島内局長説明要旨

中南米大使会議の模様

1.経済改革と日本の協力

中南米諸国は開放経済政策をとり、経済改革を推進した結果、相当な成果をあげた。ハイパーインフレは沈静化し、ブラジル、メキシコなどの大国が出現している。一方で、貧富の格差の拡大や治安の悪化などが社会問題化している。日本は、改革のプラス面をさらに伸ばすために、輸出振興、投資促進、中小企業支援、ITなどの分野で協力を進める。また、改革の歪を緩和するために、人材育成面での支援に取り組む。

2.経済連携への対応

米州自由貿易地域(FTAA)は、2003年11月のマイアミ閣僚会議において参加国間で最小限の枠組み(FTAAライト)が提示された。2004年末の交渉期限までに合意できるかについては、米国の大統領選挙もあって流動的である。一方、中南米と域外の間で、さまざまな自由貿易協定(FTA)の動きがある。特に、2003年9月のWTOカンクン会議以降、こうした流れが加速しており、日本企業がメキシコで被った不利益が、他国にも波及する可能性がある。また、中国は中南米に対して積極的な資源外交を展開しており、日本としても資源の宝庫としての中南米を再認識し、外交を展開すべきことを確認した。

3.中小規模国との関係

どうしてもブラジル、メキシコ、アルゼンチンなどの大国が注目を集めるが、中南米の3分の2以上が、中小規模国である。こうした国々は非常に親日的であり、国連などの国際社会の場で、日本にとって頼りがいのある応援団になってくれており、良好な関係を維持するためには、きめ細かい外交努力が必要である。地域問題に関する政策対話なども行っていきたい。

II.大使説明要旨

1.池田 維 駐ブラジル大使

ルーラ大統領は、非常に堅実かつ現実的な政策をとっている。年金改革や税制改革などを通じて、貧富の格差などの社会的な不公平を是正するための構造改革に取り組んでいる。また、IMFとの合意事項を忠実に実施することで、経済面で内外の信認が回復し、カントリーリスクは改善し、通貨は安定した。2003年の経済成長率は、緊縮財政の結果0.3%であったが、2004年は一次産品市況の改善や、海外からの直接投資の増加で3〜4%を予想している。他方、貧困撲滅や治安の改善は、課題として残る。
外交面では実利を重視しており、農業問題では途上国のリーダーとして行動している。日本は、メキシコとFTAを締結していないことで不利益を被っているが、そうしたことがブラジルでも生じないように、通商交渉の行方を注視していく。日本側からタイミングをみて、FTAについて何らかの働きかけをする必要があるだろう。
鉄鉱石や大豆の輸入で中国の存在感が高まっているが、これらの資源の開発には歴史的に日本企業が大きく関わってきた経緯がある。引き続き、この地域の資源外交における重要性を想起すべきである。

2.小川 元 駐チリ大使

チリは独自の経済政策を展開し、発展を遂げた。社会党政権下でも、経済開放政策に変化はない。2002年の経済成長率は3.2%、インフレ率は2%台前半であった。2004年の経済成長率は4.5〜5%と予想されている。
日智間の最大の懸案事項はFTAである。すでに民間ベースの調査を終え、日本企業からの強い要望もあり、何らかの進展を期待している。チリの経済規模は小さいが、中南米で最も政治経済的に安定しており、ビジネスモラルも高い。ブラジルやメキシコなどの市場を包含する南米の拠点として、チリをとらえる必要がある。また、チリは世界有数の銅生産国であるが、資源面での南米の重要性を改めて見直す時がきている。

3.西村 六善 駐メキシコ大使

日墨経済連携協定(EPA)交渉は、最終段階にある。ただし、メキシコは難しい国であり、予断を許さない。
メキシコは中国への対抗意識が強く、国際競争力の強化や経済改革に取り組んでいる。しかし、政府は資金不足に直面しており、順調ではない。フォックス大統領が就任してからわずか3年であり、時間を要するだろうが、何らかの方向性を見出すのではないかと期待している。

4.伊藤 昌輝 駐ベネズエラ大使

チャベス大統領はますます権力基盤を強化している。政変や全国ストなどの危機を、ことごとくチャンスに変えてきた。国営石油会社を押え、司法、立法に加えて経済権力も手中にした。
現在、経済・社会不安が高まっている。景気は悪化し、企業倒産、失業が増え、インフレが進んでいる。治安などの社会問題も顕在化している。ただし、外貨準備は為替管理政策により、220億ドルと潤沢であるものの、この政策で輸入財の調達に支障が出ており、為替の二重相場制と相まって、日本企業がやりにくい状況が続くのではないか。
今後の政局の焦点は、チャベス大統領罷免国民投票である。2003年末、実施するための署名運動が行われたが、有効性について確認作業が行われている。政権側はさまざまな策を弄しており、結局チャベス大統領は、2006年までの任期を全うしそうである。

5.永井 愼也 駐アルゼンチン大使

政権基盤が脆弱なキルチネル大統領の経済運営は、好調な一次産品市況もあり、現在のところ成功している。2003年の経済成長率は8.6%と4年ぶりにプラスを記録した。また、公共料金の値上げを一切認めないことからインフレ率は、2002年の41%から2003年の3.7%に低下した。キルチネル大統領はナショナリズムを高揚し、一国主義、鎖国主義をとろうとしている。しかし、最近では現実を見据えて、IMFとの関係改善に取り組んでいる。IMFや欧州との債務問題は大分整理されてきたので、残る問題はサムライ債である。早ければここ数ヵ月で何らかの結論が出るかもしれない。

《担当:国際経済本部》

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