3月2日/訪バルト三国ミッション結団式兼勉強会

EU加盟(2004年5月)を目前に控えたバルト三国


Introduction
3月14日〜20日にかけて、佐々木元 ヨーロッパ地域委員会共同委員長を団長とするミッションがエストニア、ラトヴィア、リトアニアのバルト三国を訪問し、政府、経済界の代表と、各国の経済情勢、投資環境、EU拡大の経済的影響等について意見交換する。ミッションの出発に先立ち、アルゴ・カングロ駐日エストニア臨時代理大使、アルギルダス・クジス駐日リトアニア大使、ならびに外務省の谷崎泰明 欧州局審議官、市川とみ子 西欧第ニ課長ほかから説明をきき、意見交換を行った。

I.カングロ臨時代理大使説明要旨

エストニアの国土面積は九州とほぼ同じで、人口140万人、その6割が英語を話す。GDP(国内総生産)成長率はEU加盟国の2倍で貿易自由化が進んでおり、GDPの6割が輸出によるものだ。昨年のインフレ率は1.3%で、外国直接投資のGDP比は11%である。2006年にはユーロを導入したい。
エストニアは地理的に有利な位置にあり、周辺に5千万人以上の消費者を抱えている。通貨の安定と財政均衡を重視しており、民営化を急速に進めてきた結果、エネルギー部門を除き、ほぼ終了している。
税制はフラットで簡素だ。法人税は原則無税である。投資インセンティブについては外資への特別な措置はなく、内外無差別である。外国人による土地の購入・所有は認められており、本国送金も自由である。
2000年8月に電子政府の取り組みを開始した。税務申告が電子化されており、デジタル署名に関する法案も国会を通過した。電子選挙の実施も間近である。
EU加盟が不利に働くのは、EU共通関税の適用により、関税率が引き上げられる品目が出てくることであろう。
日本との貿易はエストニアの大幅な入超であるが、規模は小さい。最大の輸出品目は木材関係であり、日本からの主な輸入品目はエレクトロニクスと自動車となっている。
外国投資については、地理的な要因もあり、北欧諸国とドイツが多く、セクターでは、金融部門が最多である。
エストニアは、北欧諸国、ロシア向け輸出の製造拠点として魅力的であり、研究開発のポテンシャルも高い。サービス拠点としても注目されており、最近、北欧諸国がコールセンターを設置する動きが目立つ。

II.クジス大使説明要旨

EU加盟後、リトアニアはEUの中で最も日本に近い国になる。日本に対する親密度も随一で、杉原千畝副領事による「命のビザ」はわが国でもよく知られており、「スギハラ」の名を冠する通りや公園も多い。
リトアニアの人口は370万人であるが、周辺に1億1千万人の人口がある。ウラル山脈からポルトガル、北欧からギリシャまでが欧州であるが、バルト三国はその中心にある。飛行機で2、3時間かければ、欧州の主要都市に行けるのでポテンシャル・マーケットは広い。リトアニアは、ロシアや旧共産圏諸国とも良好な関係がある。リトアニア人は3、4ヵ国語は楽に話せる。
1990年の独立回復直後は、旧ソ連軍の撤退やインフラの復旧に時間がかかり、急成長ができなかった。1990年代半ばに経済は回復したものの、1998年のロシア通貨・経済危機の影響を受けた。再び回復に向かい、現在、GDP成長率は欧州でトップクラスだ。失業率も低下傾向にある。一人当たりのGDPは、1999年以降の5年間で倍増している。
リトアニアは欧州における戦略的な事業提携者になりうる。EU各国、CIS諸国に比べて、オペレーション・コスト、生活費が低く人件費は安い。首都ヴィリニュスのオフィス・レンタル費は、欧州の他の都市よりも低い。税負担も低く、利益税15%、配当税15%、付加価値税18%である。
日本との貿易は、わが国の入超であり、日本への輸出品は5割以上が船舶である。日本からの輸入品は自動車が圧倒的に多く、エレクトロニクス、化学品がそれに次ぐ。しかし、ここ数年輸出入とも伸び悩んでいるので、日本との貿易拡大を望んでいる。
リトアニアはEU加盟後の7年間で、67億ユーロの外資を見込んでおり、輸出は2倍になると予測されている。EU加盟により貿易がさらに自由化され、好影響が期待できる。ただし、EU共通関税の適用により、自動車、自動車タイヤ、オーディオ・ビジュアル製品等一部品目の関税率が上昇し、タバコ、燃料の物品税も引き上げられるであろう。

第二次世界大戦中、ナチスの迫害によりリトアニアに逃れてきたユダヤ人に対して、自らの判断で日本通過ビザを発給し、約6,000名の命を救ったとされる。

III.外務省側説明要旨

1.谷崎審議官

バルト三国と一括りに呼ばれるが、宗教的、民族的、風土的に異なる国々だ。3ヵ国に共通することは、ソ連解体後、ロシアへの経済的な依存度を下げる努力を続けた結果、現在では、北欧諸国やポーランド、ドイツ、英国をはじめとする周辺国との関係が強くなっている。
わが国にとってバルト三国は、もちろん二国間の関係でも大事であるが、ロシアとの関係という面でも重要な存在だ。
3ヵ国とも、日本からの投資拡大を望んでいる。ロシアへの地理的な近さ、整ったインフラ、質の高い労働力、EU構造調整基金を活用したインフラ整備プロジェクトなどを魅力として挙げている。

2.市川西欧第ニ課長

エストニアはIT分野を政策的に強化している。地理的、歴史的、経済的にはフィンランドに近い。
ラトヴィアは、スウェーデンとの結びつきが比較的強いが、フィンランドとエストニアとの関係ほどではない。中継貿易を主体としていて、ロシア、CIS諸国からの資源輸出ルートがリトアニア国内を通る。
リトアニアは、経済的にはデンマーク、スウェーデンと結びつきが強く、貿易面では、英国との関係も非常に強く、農業、林業が盛んで、バルト三国の中では、最も第1次産業への依存度が高い。

3.佐藤国際経済第一課主席事務官

バルト三国を含む10ヵ国のEU加盟が今年5月に実現するが、日本として、(1)EU共通関税の適用による一部品目の関税率の上昇、(2)外資への投資優遇措置が失われる影響、(3)EUによる日本製品に対するアンチダンピング課税の新メンバー国での適用、の3つの懸念がある。EU拡大の経済的影響について、EU側と協議を行っており、被害を被るようなことがあれば、連絡していただきたい。

《担当:国際経済本部》

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