3月9日/社会貢献担当者懇談会(座長 長谷川公彦氏)

社員の理解・社会参加の促進の新たな道を探る

−HSBCの「社員環境教育フェローシップ」を参考に


Introduction
1990年代以降、企業の社会貢献活動において「社員の理解・社会参加の促進」は大きなテーマとなった。会社に対する誇りが社員の仕事への意欲等を高めることから、最近では企業価値の向上やCSR推進上の重要な課題としても認識されている。そこで、「社員環境教育フェローシップ」を実行している、HSBCグループの山田晴信チーフ・エグゼクティブと、そのパートナーNGOアースウォッチ・ジャパンの難波菊次郎理事長、鷹取澄シニア部会長より説明をきき、社員の社会参加支援の今後のあり方について考える機会を持った。

I.山田チーフ・エグゼクティブ説明要旨

香港上海銀行を母体とするHSBCグループは、世界79ヵ国・地域に9,500以上の拠点と21万8,000人の従業員を擁する世界最大の英国の金融機関の一つである。HSBCでは、社会貢献活動を経営の主要課題の一つととらえ、「環境」「教育」に重点を置いて社会貢献活動を展開している。2003年度は50億円を超える支出をしているが、資金的支援のみならず人的支援も必要不可欠であると考え、従業員の積極的な社会参加を促している。
環境分野では、2002年度に3つの環境保護団体に対して5,000万USドル(約55億円)を投じる、5ヵ年のパートナーシップ事業「Investing in Nature(自然への投資)」を開始した。その一環として、国際環境NGOアースウォッチと連携し「社員環境教育フェローシップ」を実施している。
フェローシップでは、世界各地で実施されるアースウォッチの野外調査プロジェクトに、5年間で2,000名の従業員を派遣する。参加者は世界中の従業員から募集して書類選考する。約2週間の参加期間は勤務扱いとなり、参加費用と渡航費を会社が負担する。プロジェクト参加者は、帰国後に会社で社員に報告することが求められる。さらに、自分が属するコミュニティでの活動も期待されており、そのための費用(上限550米ドル)も会社が支援している。
私自身は、2002年11月に、地中海のイルカ観測プロジェクトに参加した。同プロジェクトは、マドリッド大学の研究団体Alnitakが年8回実施しており、各回約2週間を費し、イルカや鯨を追いかけて生態環境と成育状況を科学的に調査するものである。また、気象、海流、水温、魚群の存否や種類、海底地形の状況等を10年以上も調査してきている。
このプロジェクトは、単なる学術研究にとどまらず、地中海沿岸のEU諸国の合意による「海洋保護地域」の設定に貢献するため、地元漁業関係者、メディア、政治家、各国の政府関係機関とも密接に連携しながら活動している。継続的な環境保全活動を地道に進め、科学的な知見をもって政策決定者に影響を与えていくことを大きな目標にしている。主任研究者は「グローバルに通用する唯一の解決策などはない。地元に固有の事情を踏まえたローカルな解決策を目指さなければならない」と言っていた。
HSBCは「ワールズ・ローカル・バンク(地域に根づいたグローバルな金融グループ)」をミッションとしているため、このプロジェクトに対し共通点を感じた。

イルカ観測プロジェクト イルカ観測プロジェクトでは、約100年前に建造された漁業用帆船を改装した全木製のクルーザーで研究者と世界各地から参加したボランティアが2週間を共に過ごした。

II.アースウォッチ・ジャパン説明要旨

1.難波理事長

アースウォッチは、1971年ボストンで生まれた団体であり、アメリカ、イギリス、オーストラリア、日本を拠点とし、世界各地で行われている科学者・研究者の地道な野外調査を、資金と人手の両面で支援している。外部の専門家による厳しい審査を経て認定された、年間100を超えるプロジェクトを支援しており、4,000人以上のボランティアを調査現場に派遣している。

2.鷹取シニア部会長

企業を4年前に定年退職し、アースウォッチ・ジャパンには会員として関わり、野外調査現場でも何度か活動している。
日本企業の地球環境との関わりについては、これまでは、マイナスの影響を喰い止める活動が中心だった。しかし、今、社会は企業に対して、マイナスだけでなくポジティブな効果を生み出すために役割を果たすことも期待している。ここに、地球環境保護や生物多様性の保護との新たな接点が出てくる。
事実を脇において思想から入る環境保護団体は多いが、特定の思想に引きずられると企業としては支援が難しい面がある。しかし、ある仮説をたてて事実を追いかけている科学者を資金的、人的にバックアップするアースウォッチは、企業が連携しやすい団体であろう。
HSBCの社員にインタビューした際、地球のために活動する会社、会社の費用で社員を現場に派遣してくれる会社に誇りを持つという発言がきかれた。社員と会社の関係が大きく変わっており、これからは、自分が誇れる会社に、自分が持てる能力をコミットしていくという愛社心が生まれてくるのではないか。
私は、企業で人事、社員教育に長年携ったが、HSBCのフェローシップは社員教育そのものではないかと思う。社員が野外調査の現場に入って、世界中の人と一緒に苦労し、経験して何かを得る。その社員が会社を変え、企業と地球環境との関係を変えていく。今、一番必要なのは、社員に変化するチャンスを与えることだろう。
アースウォッチには、2週間前後の海外プロジェクトのほか、日光の鹿、河口湖のチョウ、清里のヤマネなど日本国内のプロジェクトもある。国内プロジェクトは、2泊3日程度の短期間のものが多く、企業人でも参加しやすい。

*アースウォッチ・ジャパンのホームページ http://www.earthwatch.jp/

《担当:社会本部》

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