5月17日/情報通信委員会(委員長 吉野浩行氏)

より競争的な市場を目指す英国の情報通信政策

−ティムズ英国閣外大臣と懇談


Introduction
英国では昨年、EUの新指令に対応した新通信法が制定されるとともに、情報通信分野の5つの機関を統合した新しい独立規制機関「OFCOM(Office of Communications)」が新設された。このたび、英国貿易産業省において情報通信政策を担当しているスティーブン・ティムズ閣外大臣が来日した機会に、同大臣より、英国の情報通信政策についてきいた。

I.ティムズ閣外大臣説明要旨

1.英国の情報通信市場の現状

英国は海外からの直接投資を歓迎しており、英国内の直接投資に占めるその割合はは17%に達している。英国内の携帯電話事業者5社のうち、3社は外国企業である。
この背景には、規制が少なく、税制や行政手続の面で企業に有利な環境を提供してきた英国政府の取り組みがある。また、政府は英国企業を海外企業と競争させることにより、国際競争力が強化されると考えている。
現在、情報通信に関して、英国はeビジネスで世界の最先端の国となることを目標としている。それにより、英国の市場はより開放的かつ競争的になり、変化に適応できる企業が成功できる環境になる。
英国における改革の特徴は、主要な企業の所有権を公的部門から民間部門に移してきたことである。これによって、市場の圧力から守られていた企業に市場の規律と新たな企業文化が導入された。たとえば、ブリティッシュ・テレコムは、民営化により効率的な企業になり、英国経済全体に利益をもたらした。
また、最近の移動体通信事業者間の激しい競争により、英国の人口過疎地においても急速にサービスの範囲が拡大し、高いレベルのイノベーションが実現した。市場への新規参入によって、補助金を出したり、市場を歪めたりするのではなく、競争によって、通信革命のメリットを社会のあらゆる部分に拡大することができたと考えている。

2.英国の規制の枠組み

鉄道、水道、エネルギー、通信分野では、民営化後も独占事業体が存在し、それらの中には政治的、社会的に力を持っている企業がある。このような企業の中には、競争の導入を歓迎せず、既存事業者が新規参入者を妨害することを防ぐ手段の導入について反対している企業もある。
競争によって経済全体が利益を受けることは明白である。重要なことは、競争の促進を保証し、適切で実効的な規制を実施することであり、投資に対する正しいインセンティブを確保することである。
消費者の利益になる実効ある規制を行うためには、規制機関が独立し、政治的影響力から自由であることが重要である。
また、通信市場のように、場合によっては非対称規制が必要になることもある。市場支配的事業者に対しては適切な規制を課し、新規参入者には最低限の規制を課すか、全く規制を課さないことが求められる。そのためには、競争問題を理解し、適切に対応できる専門的な能力を持った規制機関が必要になる。

3.OFCOMの設立

メディアの融合によって、通信分野に対する英国の規制アプローチは劇的に変化している。昨年の夏に新通信法が成立し、規制機関としてOFCOM(Office of Communications)が設立された。OFCOMは通信と放送における5つの規制機関を統合したものであり、情報通信の規制について明確、継続的、かつ技術中立的なアプローチを実施するために設立された。これによって、われわれは、今後10年間の課題に対して効果的に対応し、情報通信分野全体の競争環境を維持できると考えている。
これまでにOFCOMが実行した仕事として、情報通信分野の戦略的評価がある。この評価によって情報通信分野における規制のアプローチを詳細に把握することができるようになり、政策実施のための明確な基盤が提供されることになる。
自由化が正しいかどうかという議論があるが、情報通信分野の持つ潜在力を実現するためは、継続的に改革を実行し、自由化を進めていかなければならない。自由化に背中を向けることは、経済全体の成長に対する期待を減少させることを意味する。
競争力を高めるためには、最前線に立たなければならない。変化する企業には世界中の市場で競争する機会がある。変化を望まない企業を政府が保護することには合理性がないであろう。

4.日本と英国の比較

日本におけるブロードバンドの普及や移動体通信の3Gネットワークは賞賛に値する。しかし、音声通信分野については、英国が日本よりも優れていると思う。
日本の相互接続料金は英国の2倍も高い。相互接続料金はコストを反映すべきであるが、NTT東日本の方がNTT西日本よりも低コストであるにもかかわらず、NTT東西が同じ相互接続料金を設定することが求められている。その結果、競争が有効に機能しなくなり、料金が必要以上に高くなっている。
現在、英国の推進していることが正しいかどうかは結果によって証明されるであろうが、私は正しい方向に動いていると確信している。日本と英国が互いの経験から学び、パートナーとして繁栄できることを望んでいる。

II.意見交換要旨

日本経団連側:
日本においては規制機関が行政から独立していないが、英国の規制機関の独立性とはどのような内容か。

ティムズ大臣:
英国では、規制機関の長は政府に任命されるが、一旦任命されれば公開の任務規定に従わねばならず、議会に対してのみ責任を負う。また、規制を実施する際には、その理由を明確に説明しなければならない。これによって、規制に対する政治介入の危険性がなくなると考えられる。
《担当:産業本部》

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