6月10日/輸送委員会(共同委員長 岡部正彦氏、井坂 榮氏)

わが国経済の再生を支える港湾政策


Introduction
昨年7月から港湾のシングルウィンドウシステムが稼動したものの、利用者の立場からは、改善すべき点が残されている。また、スーパー中枢港湾の育成や各種セキュリティ施策への対応、静脈物流のあり方なども検討していく必要がある。そこで、国土交通省の鬼頭平三港湾局長を招き、わが国経済の再生を支える港湾政策につき説明をきくとともに意見交換を行った。

I.鬼頭局長説明要旨

1.スーパー中枢港湾プロジェクトをはじめとするわが国のコンテナ港湾政策

コンテナ取扱量の世界ランキングでは、日本の港の相対的地位が低落する一方で、上海や深センなどの中国港の躍進が著しい。特に上海では、総延長35kmの橋梁建設や50箇所に及ぶ大深水バースの整備を中心とした洋山新港プロジェクトを進めており、一層の発展を狙っている。また、釜山では、近隣地域のトランシップ(積替)貨物を取り込むことで、コンテナ取扱総量を増やしている。一方、船舶の大型化も進んでおり、8,000個以上のコンテナを積める船舶が出現し始めているため、水深の確保やクレーンのアームリーチの延長など、港湾受入側の対応も求められている。
こうした状況を受け、わが国港湾のフィーダーポート化と、それに伴う物流コストの増加が懸念されている。当局としては、スーパー中枢港湾プロジェクトを着実に進め、スケールメリットを生かすことにより、港湾コストの低減とリードタイムの短縮を図り、アジア諸港を凌ぐコスト・サービス水準の実現を図っていきたい。

2.物流ネットワークを支える港湾の情報化

輸出入・港湾諸手続のワンストップサービスについては、昨年7月よりシングルウィンドウシステムが供用開始されたものの、利用率はまだ低調であり、手続の更なる簡素化が必要と認識している。今年度中にFAL条約批准に向けた作業を終了し、申請書類の削減と標準化を図っていきたい。
また、民間同士の手続を含めた「港湾物流情報プラットフォーム」の構築を検討しており、とりわけ、ターミナルゲートにおけるトレーラーの混雑が問題であることから、陸運事業者、海貨業者、ターミナルオペレーター間で情報の共有が図られるよう早急に対応していきたい。

3.港湾の保安対策

改正SOLAS条約(海上人命安全条約)の採択を受け、国内関連法が4月に成立したことから、フェンスやゲートなどの保安設備の整備や港湾施設保安計画の作成・承認など、港湾の保安対策が強化される。また、国際港湾においては、国の関係出先機関や港湾管理者、および民間の関係者から構成される「港湾保安委員会」を設置し、水際対策を強化していく。ただし、こうした保安対策は、物流の効率化に十分配慮しつつ行っていくこととしたい。

4.地域経済再生への取り組み

港湾は地域経済を支えてきた産業基盤であるものの、30年〜40年経過した民間施設の老朽化が散見されるようになった。民間企業にとっても、施設の維持管理を単独で負担することは困難となってきていることから、そうした民間施設を無償譲渡により公共施設に転用し、既存公共施設との一体的・効率的な維持・運用を図ることで、既存ストックの有効活用を促進していきたい。
また、地域経済への波及効果が大きい多目的国際ターミナルプロジェクトなどは、早晩に効果が出るように重点的に取り組んでいく。

5.静脈物流システムの構築

リサイクル貨物は、運賃負担力が無く、「急がない貨物」であることから、環境に優しく低コスト輸送が可能な海上輸送が適している。また、リサイクルコンビナートの立地に必要な用地のストックという点でも、港湾のポテンシャルは高い。こうした観点から、港湾におけるリサイクルの拠点化と海上静脈物流ネットワークの形成を図るため、国は、「リサイクルポートプロジェクト」を推進している。現在、全国で18港が、「リサイクルポート」に指定され、広域的な静脈物流の拠点となる港湾として、ハード・ソフト両面から支援が行われている。

6.港湾の大規模地震対策

東南海・南海地震などの切迫性が高いとされている大規模地震に備えるため、被災者の避難や緊急物資の輸送という点を踏まえ、耐震岸壁の整備を進めているが、未だ目標の5割にも達していない。そうした取り組みを加速させるとともに、応急復旧後の地域経済の落ち込みを防ぐという観点から、岸壁だけではなく、背後の物流施設まで耐震強化していく。
津波対策としては、港湾地域に物流施設や工場などが多く立地されてきている現状を踏まえ、地域経済への被害を最小化するために、港湾の背後地だけを守るというのではなく、港湾自体も守っていくという考えから、抜本的な見直しを図っていく。

7.観光・地域振興への取り組み

現在、政府は「観光立国」の実現へ向け、鋭意取り組んでいるが、港湾もそれ自体が観光の場として、その魅力を向上させていくことが必要である。さらに、ネットワーク型の観光振興を図っていくことも重要であり、海からのアクセス強化や、内陸の観光スポットとの円滑な連携など、交通拠点としての機能の向上も求められている。そうした取り組みが、外国人観光客の増加や地域再生にも繋がっていく。
また、わが国のクルーズ人口は約20万人であり、全世界の約2%に過ぎない。クルーズ人口の増加により、観光振興や地域再生が図られるとの観点から、ベニスやマイアミを例として、それぞれの景色にあった美しい港の整備が必要となっている。

II.意見交換要旨

日本経団連側
スーパー中枢港湾プロジェクトにより、国内貨物の海外トランジットを防ぎ、スーパー中枢港湾への集荷を期待できるのか。
鬼頭局長:
内航海運をはじめとした国内輸送手段との接続が重要と考えており、担当行政局と連携して取り組んでいきたい。

日本経団連:
スーパー中枢港湾の選定にあたっては、中国に対するゲートウェイとの観点から、博多港、北九州港の位置付けをどう認識しているのか。
鬼頭局長:
現状では両港とも選定基準に達していないが、今後の状況によっては、基準を充足してくる可能性はある。
《担当:産業本部》

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