6月10日/農政問題委員会企画部会(部会長 松崎昭雄氏)
Introduction
2000年度から今年度末までの措置として講じられている「中山間地域等直接支払制度」の期限切れを前に、政府では同制度の検証を行っている。そこで農政問題委員会企画部会では、農林水産省農村振興局の宮本敏久計画部長・永杉伸彦地域振興課長ほかを招き、検証の状況について説明をきき、中山間地域等直接支払制度の今後のあり方をめぐり意見交換した。
1961年に制定された農業基本法を1999年に食料・農業・農村基本法に衣替えし、新しい時代の農業政策の柱として農村振興が位置付けられた。その一環として2000年に中山間地域等直接支払制度が設けられた。
「中山間地域等」とは、山間地およびその周辺の地域、その他の地勢等の地理的条件が悪く、農業生産条件が不利な地域(林野率50%以上等)や地域振興立法(特定農山村法、離島振興法等)の対象地域等をいう。これら地域は耕地面積の41.8%、総農家数の43.4%を占めているが、農業産出額では37.4%に過ぎない。農業生産条件の不利性、高齢化の進行、担い手の不足、農産物価格の低迷等から耕作放棄地が増大し、多面的機能の低下という問題に直面している。
本制度は、中山間地域等において、農業生産活動の維持を図りつつ、耕作放棄地の発生を防止し、多面的機能を確保する観点から、農業生産条件の不利を補正するための施策として導入された。対象農用地において、集落協定または個別協定を締結し、この協定に基づいて5年間以上継続して農業生産活動を行う農業者等に対し、平地地域と対象農用地との生産条件の格差(コスト差)の8割を支給(直接支払)する。具体的な金額は、急傾斜地の田においては10a当たり21,000円、緩傾斜地では同8,000円等と設定されている。協定違反をし、途中で耕作放棄をすると交付金は全て返還する必要がある(現段階で、そのような実例なし)。
交付金は2分の1以上を集落の共同取組活動に当てるよう指導している。国費で年間約270億円、自治体分を合わせると年間約550億円が投入されている。
本制度はわが国農政上初の試みであり、広く国民の理解を得るとともに、WTO農業協定上の「緑」の政策(貿易や生産に対する影響がない政策)として実施することとしている。また、実施期間は2000年度からの5年間であり、中立的な第三者機関による実施状況の点検等を踏まえて本年度に制度全体を見直すこととなっている。
財政制度等審議会では制度の廃止を含む抜本的見直しを求めているが、地域に施策は定着しており、地域からは大変な反発がおきている。
本制度の実施により、2003年度までに66万2千ha(対象用地の85%)の農用地において協定が締結され、耕作放棄地の発生が防止されている。残り15%の用地では高齢化の進行、田畑の混在といった地域事情で協定ができない。
全市町村と集落協定代表者を対象とする調査を見ると、協定締結が耕作放棄地発生防止に役立つと考えている者がほとんどである。
本制度により、協定に基づいて5年間で415haの既耕作放棄地を復旧し、新たな作物の導入や観光農園による都市農村交流の展開等が行われている。また農地の法面点検や周辺林地の下草刈りといった活動も行われている。生産性・収益性の向上を目指しての農作業の受委託も盛んになり、農作業の受委託面積は3万9千haから5万5千haへと増加した。機械・施設の共同購入・利用も推進されている。
担い手の定着等を目指して、認定農業者、農業生産法人等との連携やこれら担い手の育成も行われている。集落協定を契機に、集落の活性化や将来について話し合われるようになった自治体が66%ある(締結前から活発に行われている19%を除く)。国土保全の取り組みも進んでいる。