5月31日/社会貢献担当者懇談会(座長 長谷川公彦氏)

環境、福祉、人権の統合的な視点から社会貢献活動を考える


Introduction
企業活動のあらゆる局面において、「人権の尊重」という視点が重要となっている。そこで、当懇談会では、人権に対する企業や従業員の意識を高めるために、社会貢献活動はどのような役割を果たせるか、検討を始めることとした。その一環として、環境、福祉、人権の統合的な取り組みを提唱している環境省の炭谷茂事務次官を招き、懇談した。また、花王の嶋田実名子社会・文化グループ部長より、人権への配慮という観点から制作したバリアフリー学習ビデオについて、紹介かたがた報告した。

I.炭谷事務次官説明要旨

1.かかわった仕事には一生つきあう

私の役人生活は35年になるが、私なりに一貫したライフスタイルを守ってきた。役所は2年で仕事が変わる。私は担当が変わるたびに、新しい仕事の背景にある学問的、歴史的背景を学んだ上で、それに取り組むようにしてきた。また、かかわった仕事には、一生つきあうこととしている。厚生省で主に福祉行政を担当してきたため、現在では200近いライフワークを抱えている。その成果は、著作や論文の形で年間数本出すよう自らに課し、実現してきた。
1997年から3年半、厚生省の社会・援護局長を務めた。この時、孤独死や児童虐待、家庭内暴力、自殺、ホームレスなど、社会からの排除や孤立が大きな社会問題として注目された。どのように対処してよいかわからず悩んでいたところ、たまたま訪れた英国で、ソーシャル・インクルージョン(社会的包括)という概念を知った。2000年1月のことであった。英国ではソーシャル・インクルージョンがこれからの社会政策の中心となるもので、失業者や薬物中毒者など問題を抱えた人々を社会の一員として教育し、協働していくものである。たとえば、CAN(Community Action Network)という有名なNGOは、公のカネや制度に頼ることなく、住民参加で英国第2のスラム街を再生させた実績を持つ。
日本型CANを目指して、2003年から大阪市の釜ヶ崎で、地元商店街、NPO、簡易宿泊所経営者などと一緒に活動を始めた。いま苦労しているのは、仕事と住む所の確保である。農業や森林、環境、リサイクルなどの分野で就労の機会を提供するため、林野庁など関係機関の協力も得て活動している。

2.環境と福祉の関係

(1) 歴史の中から

厚生省に入省した1969年当時、公害問題は社会福祉協議会(社協)が扱っており、福祉の考え方が中心だった。1971年に環境庁が発足し、環境と福祉の間に距離ができた。その距離は、地球環境問題がクローズアップされるにつれますます広がった。
ところが、2002年のヨハネスブルグ・サミットでは、途上国における環境破壊と貧困の悪循環が最大のテーマとなった。環境と福祉とは非常に近いものである。

(2) 環境と福祉の今日的関係

環境が福祉問題に与える影響や効果の中に、興味深いデータがある。文部省の委嘱を受けて「青少年教育活動研究会」が1998年に実施した「子どもの体験活動等に関するアンケート調査」では、自然体験が豊かな子どもほど、道徳観・正義感が身につくという傾向が表れている。逆にいうと、自然との触れ合い不足が、子どもの成長に悪影響を与えているということになる。閉じこもりの青少年を支援しているNPOで環境教育を実践したところ、わずか半年で改善効果が見られた。
さらに、福祉が環境問題によい影響をもたらす事例もある。英国では、高齢者や障害者が公園の美化活動に携るコミュニティ・ガーデンという環境活動が盛んである。
このように環境と福祉は互いに作用しあっているが、近年、環境と福祉は領域として融合される傾向にある。たとえば、企業の社会的責任(CSR)は環境、社会、経済の一体的取り組みであり、環境福祉産業や環境福祉都市なども生まれている。

(3) 環境福祉概念の有用性

環境と福祉を一つの概念でとらえることにより、両分野の課題を的確に把握できる。また、政治、行政、産業、社会の新しい活動領域を創造することができる。北欧は環境にも福祉にも熱心に取り組んでいるが、その根本には人間の幸せの向上に努めようという姿勢がある。日本でも環境福祉という概念を広げることにより、人間の幸せが向上することを願っている。

II.嶋田部長説明要旨

花王は次世代の育成推進を主なテーマに、社会・文化活動を行っている。重点分野のひとつが「バリアフリー社会の推進」である。花王は視覚障害の方のためにシャンプーの容器に刻みをつけるなど、この分野では地道な活動を行ってきた企業風土がある。
バリアフリーに関する教育ビデオも1995年以来、5本制作している。最新作の『みんなで使えるかな?』(23分)は、小学校低学年から活用できる福祉理解の教材として、本年4月に完成させた。共用品推進機構と共同制作し、希望する学校に寄贈している。
制作にあたっては、これまでビデオを利用された先生の意見をきいた。低学年の子どもが理解しやすいように人形劇とし、台詞や場面を何回も繰り返すなど工夫した。先生方にはシナリオのチェックや、試作ビデオを使ってのパイロット授業などで協力いただき、授業で役立つようにした。東京都の人権施策推進課には、人権の視点からも内容をチェックしてもらった。
人形劇には、社員13名がボランティアとして8日間、土日を割いて参加した。その情熱を全社員に共有してほしいと思い、制作の過程をイントラネットで逐次報告したところ、大きな反響があった。
社会貢献のホームページへのアクセス件数も2倍に増えた。今年4月に社員のボランティア組織を立ち上げたところ、社員の1割の参加があった。社員が社会に関心を持つことが、良い商品を生み出していくことにつながっていくであろう。

《担当:社会本部》

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