評議員会議長挨拶

円高是正のためにあらゆる手段を尽くせ

齋藤 裕

齋藤 裕


わが国経済社会を取り巻く環境は依然厳しく、経団連として取り組むべき課題は内外に山積している。いくつかの問題につき、所見を申し述べたい。

  1. 景気回復の鈍い理由
  2. 最近ようやく製造業の生産数量が回復するなど、景気は緩やかながら回復しつつあると言われている。現在の状況が、従来型の単なる景気循環の立ち上がりの局面にあるのであれば、景気の回復感はもっとはっきり出てきてもよい。しかし手放しで喜べないのは、生産が回復しても、企業収益の改善は依然思わしくないためである。
    その最大の原因は、実力を離れた急激な円高の進行による、内外価格差の異常な拡大にあると考える。これが価格破壊をもたらし、企業収益に大きな影響を与えているという構造的な問題がある。
    このような中で、企業は自らの存立をかけてリストラに取り組み、戦後最大の規模で雇用調整を行なっている。今後、雇用問題は経済に大きな影響を与えよう。

  3. 空洞化への懸念
  4. 企業は一方で、競争力を維持するため、低コストの生産を求めて海外展開を促進し、いわゆる産業の空洞化現象が生じている。既に大手家電・自動車メーカーにおいて、国内生産が伸び悩み、あるいは減産している現象が見られる。
    現在、タイ・マレーシア・シンガポール・インドネシアの4カ国には5,000社に及ぶ日本企業が進出しており、シンガポールでは求人難すら起きているとも聞く。円高が是正されない限り、さらに中国・ベトナム・ミャンマーへの展開も予想される。
    加えて、規制緩和の不徹底や、そのためのコスト高などから、金融・サービス分野の空洞化も進行している。このような空洞化が、国内の雇用の減少や、民間設備投資の低迷につながることは間違いない。
    内需拡大のため、95年から2004年の10年間で630兆円の公共投資が計画されているが、これも年率に換算すると4.2%程度の伸びに止まり、それだけで景気の本格的な回復は期待できない。

  5. 円高の是正
  6. 今、何より必要なのは、これ以上の円高の進行を止め、その是正を図ることである。円相場は今日、やや小康を得ているとはいえ、政府の見通しでは、95年度も94年度同様1,200億ドルの経常黒字が続くと予想されている。規制緩和や内需拡大策の効果が出るまでにはかなりの時間を要するという問題がある。
    経団連では、かねてより円相場のあるべき水準は110〜120円と主張しており、関係国の政策協調など、是正策を訴えてきたが、政府は円相場のあるべき水準については全く言及していない。また、日銀の介入も当座の痛み止めにすぎず、円高の是正策にはなり得ていない。
    景気の回復を皆が実感できるようにするためにも、豊田会長をはじめ執行部には、円高是正のためあらゆる政策手段を動員すべきことを関係方面にさらに強力に働きかけていただきたい。

  7. 税制改革
  8. 景気の回復と活力ある経済を実現するためには、世界的にみて高い企業の税負担を何としても軽減しなければならない。
    12月15日に95年度の与党税制改正大綱が決定された。この中で研究開発やリストラへの取り組みについて配慮がなされた点は評価できるが、いくつかの重要な問題が先送りされた。
    例えば、地価税の廃止は見送られたが、このような不動産保有課税は、とりわけ景気回復の足を引っ張りかねない。現在、商業地の公示価格は、名目GNPとの関係において、バブル以前の水準に戻っている。しかも地価はなお低落傾向にある。これによる金融機関の含み損の増大は、円高とともに景気回復を阻害している。
    また、法人税の引き下げも先送りされたが、これも日本経済を再活性化させる上で、ぜひとも実現しなければならない。

  9. 行財政改革と規制緩和
  10. 日本は、経済構造の大変革の時期を迎えている。これをなし遂げなければ、21世紀の日本経済が安定的に発展していくことはできない。その要となるのが行財政改革と規制緩和である。
    しかしながら、最近の特殊法人の見直しひとつをとっても、各省が抵抗を続けており、行革は容易ではない。12月19日、行政改革委員会が飯田委員長の下で正式に発足したが、内閣は進退をかけるくらいの強い決意で、行革に取り組むべきである。
    経団連としても、行政改革委員会を全面的に支援し、政治・行政に行革・規制緩和の断行を一層強力に働きかける必要がある。

  11. 政治の責務
  12. 景気対策・税制改革・行財政改革の実現のため、政治に課せられた責務は大きい。政治のリーダーシップなしには、実現が困難なものばかりである。既に新進党が発足し、政界再編も進みつつあるが、各党の具体的な政策はいまだ明確に出てきていない。経団連は、政策本位の政治の実現のため、引き続き政治改革の推進を働きかけていく必要がある。また各党に対し、経済政策についての経済界の主張をどしどし提言してもらいたい。

  13. 経団連の責務
  14. 戦後50年を目前に、わが国は本格的な国際化・高齢化時代を迎えつつある。その中で経団連には、政・官のカウンターパートとして、以上のような課題について具体的方策を提示し、実行を働きかけていく役割があり、その責務は非常に大きい。


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