会長挨拶

95年の3つの課題

豊田 章一郎

豊田 章一郎


  1. 94年の総括
  2. 94年は、自社連立政権誕生、円レート100円割れ、米中間選挙での共和党の歴史的勝利など、内外の政治経済に大きな出来事があった。企業にとっては、厳しい経営環境の年であった。
    しかし、同時に政治改革関連法の成立、行政改革委員会の発足、APECによるボゴール宣言の採択、各国によるWTO協定批准など、将来に向けた明るい動きが見られた年でもあった。
    この間、経団連は、円高是正、規制緩和、日米関係の積極的打開など、当面の緊急課題について政府等に積極的に働きかけるとともに、新産業、新技術が育つための環境整備、金融・資本市場の空洞化対策、地方分権の推進、対日直接投資と輸入拡大など、中長期的課題に対しても、検討、提言してきた。
    また、政治と企業との関わりについて委員会を新設、見解をとりまとめた。
    さらに国際関係では、東アジアの経済界トップの参加を得て、アジア隣人会議を開催したほか、EUミッションや経済協力対話ミッション、社会貢献調査ミッションなどの調査団を海外に派遣、実態調査と交流活発化に努めた。
    私も、中間選挙直後のアメリカを訪問、有力経済団体ビジネス・ラウンドテーブルのスノー会長などをはじめ、財務長官に就任するルービン氏などの政府・議会の有力者と懇談した。
    また、11月末にはフランスを訪問し、欧州経団連会長であるペリゴー仏経団連会長と意見交換してきた。
    93年以来、経団連活動のあり方が問われてきた。94年は、それに対してまだまだ十分とはいえないが、いろいろな取り組みを「行動」で示すことができたと思う。95年は、活力と創造性に富んだ日本経済の実現に向け、より積極的な活動を展開していきたい。

  3. 空洞化の克服
  4. 95年の大きな課題は「空洞化」への対応である。日本は今、いろいろな「空洞化」の危機に直面している。
    そのひとつは、「製造業の空洞化」である。今のような行き過ぎた円高が続けば、製造業が必要以上に海外への移転を余儀なくされることになる。一方で、規制により保護された競争力の弱い産業だけが国内に残ることになると、日本の産業、経済は、全体として立ち行かなくなるおそれがある。
    空洞化には、この他、「金融の空洞化」「技術の空洞化」「情報の空洞化」など、いろいろな意味で日本経済の活力喪失につながりかねない問題がある。
    日本は、これから欧米も経験したことのない速さで、高齢化社会に突入する。豊かで活力ある経済社会をつくり、世界の平和と繁栄に貢献するために、政治・行政・経済の3大改革が不可欠である。それが「空洞化」の危機を乗り越えることにつながる。

  5. 規制緩和への取り組み
  6. 経団連は、95年を日本経済の変革に向けた実行と前進の年にするために、様々な課題に果敢に取り組みたい。
    特に、私が重点的に成果を挙げたい第1の課題は、「規制緩和」である。
    先日、モンデール大使に、アメリカにおける規制緩和の経験を伺った。アメリカでも規制緩和の推進は苦難の道だったが、それを実現することが経済の活性化に不可欠と考え、努力したそうである。その結果、航空輸送分野では料金が3割以上も低下し、飛行機を利用する旅行者の数が2倍に増加、しかも安全性は向上したとのことである。また、電気通信分野の規制緩和がもたらす経済効果は、年間60億ドルと推計されているそうである。
    経団連の試算では、規制緩和により95年から2000年までの間に、日本の実質GDPが177兆円、雇用も74万人増えるとの結果が出ている。
    経団連は、規制緩和の実現なくして、日本経済は活力を取り戻せないという危機感を持って、規制緩和に取り組む。

  7. 人材育成への提言
  8. 第2の課題は、「創造性に富む人材の育成」「人づくり」である。
    日本経済が活力を取り戻すには、新しい産業・市場を生み出さねばならない。経団連では新産業・新事業委員会を新設し、ベンチャービジネスを数多く輩出するための環境整備につき検討しているが、この問題をつきつめると「人材」が大きなテーマとなる。
    そこで、経団連では、新たに教育問題を重点的に取り組む場を設け、大学・大学院にとどまらず、初等・中等段階まで含めた教育制度のあり方について検討し、政府に注文するだけでなく、人づくりについて企業が自ら何をなすべきか、具体的に提言していきたい。

  9. 建設的な対外関係の構築
  10. 第3の課題は、「建設的な対外関係の構築」である。
    日米関係は対立面ばかりが強調されているが、実際の日米間には、様々な協調・協力が進み、切っても切れない関係にある。この関係を発展させるため、経済界同士の対話を深めることが重要であり、ヨーロッパにも呼びかけて、日米欧の交流促進を図りたい。
    また、わが国にとって米欧と同様に重要なのは、アジア太平洋地域との交流である。95年は終戦50周年にあたるが、日本の戦後復興にアメリカが大きな役割を果たしたように、今後、アジア太平洋地域がオープンでバランスのとれた発展を遂げていくために、日本の果たす役割は非常に大きい。
    経団連では、2月と4月にASAEN諸国を訪問する予定であり、各国政府首脳や経済界トップと今後の協力関係につき、率直に意見を交換したい。
    最後に、規制緩和など経済社会システムの改革に、村山首相が強いリーダーシップを発揮していただきたい。
    経団連も痛みを乗り越えて、規制緩和のメリットが国民の目に見えるような活動を展開する所存である。


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