日本メキシコ経済委員会(委員長 久米 豊氏)/1月11日

メキシコの通貨・金融危機の克服に向け、緊急経済対策を推進


メキシコでは昨年末のペソ相場の暴落、ペソの完全フロート制への移行に端を発した通貨・金融危機が再燃している。この危機に対し、メキシコ政府は1月3日に緊急経済対策を発表し、日米欧の通貨当局は国際決裁銀行(BIS)を通じた信用供与の方針を打ち出している。このような状況の中、わが国の関係者の理解と支援を得るため、セディジョ大統領の指示で、グリア外務大臣が急遽訪日した。同大臣からは、メキシコの通貨・金融危機の現状と展望および緊急経済対策の内容について説明を聞いた。経団連側からは、為替レートの安定のみならず、資本収支および政治的安定の実現を要望した。

I. グリア外務大臣説明要旨

グリア外務大臣
  1. ペソ暴落の原因とメキシコの対応

    今般のペソの暴落は、ペソの過大評価を長年放置し、経常収支の赤字が従来のレートを維持できない水準まで拡大したことが原因である。漸進的に為替レートの変更を行いたかったが、市場はそれを許さず、ペソは完全フロート制に移行した。
    メキシコは遅きに失した為替調整に突然見舞われた結果、非常に不安定な状況に置かれている。政府は新たな経済計画を策定し、ペソの切下げを競争力の強化に繋げたいと考えている。

  2. 緊急経済対策

    メキシコは財政収支の健全化、民営化、貿易自由化、規制緩和、債務削減等の面で実績をあげてきたが、これらの政策は今後も維持される。また、ペソの下落は輸出指向型成長のチャンスであり、そのためにはインフレ率をペソの切下げ率よりも低く抑える必要がある。今後の為替相場は対ドル4.5ペソ程度(30〜35%の切下げ率)、インフレは20%を見込んでいる。
    労働組合、民間企業、政府はそれぞれ犠牲を払い、賃金、商品価格、公共料金の上昇を抑制し、インフレ対策に共同で取り組むことに合意している。また、政府は財政支出の削減により均衡予算を堅持し、民営化プログラムを一層推進する方針である。ペソの切下げにより、94年度の280億ドル程度の経常収支の赤字が140億ドル程度に半減する見込みである。
    今回の為替の変動は、外貨建ての債務を有し、輸出を行っていない中小企業に大きな影響を及ぼすが、政府、開発銀行、商業銀行等が共同で企業のリストラを支援することが重要である。

  3. 国際的な金融支援

    金融市場での信任を取り戻すため、米国が中心となり総額180億ドルの通貨安定基金が設立される予定である。先進主要国の中央銀行、商業銀行および国際決済銀行(BIS)が特別支援パッケージを策定中である。メキシコ政府も60億ドルの外貨準備を金融市場での信任回復に向けて活用する予定である。
    今回のペソの切下げによりメキシコの輸出競争力は強まり、メキシコに投資をすればより安価に生産を行うことが可能になる。メキシコで低コストで生産された製品は、NAFTA市場、他の中南米諸国に輸出することができる。

  4. 民営化の推進

    民営化には政府が保有する資産を売却する伝統的な方法と、新規投資によるインフラ整備の2つの方法がある。民営化の対象分野としては道路、港湾、コンテナターミナル、空港、発電等がある。
    発電については、新規発電所への投資と既存の発電所の買い取りを通じて、外国企業は民営化に参加することが可能である。
    また、石油化学においても民営化を積極的に進めたい。憲法の規定により石油精製事業は国営のままであるが、リース等のような方法で民間が参加することも考えうる。政府はこのような民営化にともなう収入を活用し、インフラ整備を進めていきたい。

  5. 社会的プログラムの維持

    均衡予算の中で、社会的プログラムについてはこれまでの水準を維持する方針である。メキシコは依然多くの貧困層を抱えており、政治的安定を図るためにも社会的プログラムを継続する必要がある。
    チアパスでの蜂起については、政府はあくまで話し合いで解決する方針である。蜂起をした側の主張は傾聴に値するが、蜂起という手段については容認できない。
    先の大統領選挙では、国連等の監視の下で公明正大な選挙が行われ、セディジョ大統領が選出された。政府は野党とも緊密に意見交換をし、現政権の掲げる政策への協力を得るように努力したい。

II. 質疑応答

経団連側:
ペソはいつ安定するか

グリア外相:
通貨安定基金の設立により、数週間以内に投機筋の動きは鎮静化し、対ドル・レートは4.5ペソ程度で収束するであろう。

経団連側:
危機の克服には構造問題の解決が必要ではないか。

グリア外相:
今般の金融危機の原因は、為替レートが経済力に相応しい水準に設定されてこなかったことにある。
構造問題の解決に向けても、均衡予算の維持、民営化、規制緩和、貿易の自由化、債務削減、法整備、汚職追放に積極的に取り組む方針である。


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