今般のペソの暴落は、ペソの過大評価を長年放置し、経常収支の赤字が従来のレートを維持できない水準まで拡大したことが原因である。漸進的に為替レートの変更を行いたかったが、市場はそれを許さず、ペソは完全フロート制に移行した。
メキシコは遅きに失した為替調整に突然見舞われた結果、非常に不安定な状況に置かれている。政府は新たな経済計画を策定し、ペソの切下げを競争力の強化に繋げたいと考えている。
メキシコは財政収支の健全化、民営化、貿易自由化、規制緩和、債務削減等の面で実績をあげてきたが、これらの政策は今後も維持される。また、ペソの下落は輸出指向型成長のチャンスであり、そのためにはインフレ率をペソの切下げ率よりも低く抑える必要がある。今後の為替相場は対ドル4.5ペソ程度(30〜35%の切下げ率)、インフレは20%を見込んでいる。
労働組合、民間企業、政府はそれぞれ犠牲を払い、賃金、商品価格、公共料金の上昇を抑制し、インフレ対策に共同で取り組むことに合意している。また、政府は財政支出の削減により均衡予算を堅持し、民営化プログラムを一層推進する方針である。ペソの切下げにより、94年度の280億ドル程度の経常収支の赤字が140億ドル程度に半減する見込みである。
今回の為替の変動は、外貨建ての債務を有し、輸出を行っていない中小企業に大きな影響を及ぼすが、政府、開発銀行、商業銀行等が共同で企業のリストラを支援することが重要である。
金融市場での信任を取り戻すため、米国が中心となり総額180億ドルの通貨安定基金が設立される予定である。先進主要国の中央銀行、商業銀行および国際決済銀行(BIS)が特別支援パッケージを策定中である。メキシコ政府も60億ドルの外貨準備を金融市場での信任回復に向けて活用する予定である。
今回のペソの切下げによりメキシコの輸出競争力は強まり、メキシコに投資をすればより安価に生産を行うことが可能になる。メキシコで低コストで生産された製品は、NAFTA市場、他の中南米諸国に輸出することができる。
民営化には政府が保有する資産を売却する伝統的な方法と、新規投資によるインフラ整備の2つの方法がある。民営化の対象分野としては道路、港湾、コンテナターミナル、空港、発電等がある。
発電については、新規発電所への投資と既存の発電所の買い取りを通じて、外国企業は民営化に参加することが可能である。
また、石油化学においても民営化を積極的に進めたい。憲法の規定により石油精製事業は国営のままであるが、リース等のような方法で民間が参加することも考えうる。政府はこのような民営化にともなう収入を活用し、インフラ整備を進めていきたい。
均衡予算の中で、社会的プログラムについてはこれまでの水準を維持する方針である。メキシコは依然多くの貧困層を抱えており、政治的安定を図るためにも社会的プログラムを継続する必要がある。
チアパスでの蜂起については、政府はあくまで話し合いで解決する方針である。蜂起をした側の主張は傾聴に値するが、蜂起という手段については容認できない。
先の大統領選挙では、国連等の監視の下で公明正大な選挙が行われ、セディジョ大統領が選出された。政府は野党とも緊密に意見交換をし、現政権の掲げる政策への協力を得るように努力したい。