政策フォーラム(共催 米国ジャパン・ソサエティ)/1月16〜17日

アジア太平洋における日米関係の将来像
− 第5回 マッケクロン・フォーラム


米国ジャパン・ソサエティ(日米協会)* ならびに経団連、海外事業活動関連協議会(CBCC)は、米国ジャパン・ソサエティ前理事長であるマッケクロン氏を記念する「第5回マッケクロン・フォーラム」を開催した。
フォーラムでは、日・米・アジア・豪の学者、ジャーナリスト、政策担当者等* が、日米関係がアジア太平洋地域の要因からいかなる影響を受けるか、I. 歴史的背景、II. ナショナルインタレスト(国家利益)、III. 将来のシナリオ、の3つの観点から議論を行なった。

I. アジア太平洋における日米関係史

1.基調スピーチ要旨
冷戦後のアメリカのアジア太平洋政策は、1920年代の相互依存に立脚した世界平和を志向するウィルソン大統領の政策と共通点が多い。例えば、20年代には、列強の海軍力削減を基本とするアジア太平洋の集団安全保障が試みられた。また、アメリカの商品、資本、技術が中国や日本に流れ込み、アジア文化の「米国化」が起きている。ところが、その後、世界大恐慌を経て、30年代に入り日本が自国の経済力と不釣り合いな規模の軍備増強を行い、アジア太平洋を巡る日米関係が悪化した。
歴史上の教訓から、日米の対話を促進し、現在の相互依存関係に対する認識を深めることが必要との結論が得られる。

2.歴史的背景を踏まえた議論の要旨
今日のアジア太平洋地域の様相は10年前と大きく異なる。台中貿易の開始や中ロ関係の修復などにみられるアジアの政治的緊張が緩和に向かい、また、東南アジアは飛躍的な経済発展を遂げた。なお、中国は開放政策により目ざましい経済発展を遂げたものの、政治面では依然不透明さを残している。
新しい時代を迎えるにあたり以下の疑問が提示できる。
  1. 民主主義は普遍的なシステムか。
  2. 冷戦後の文化の衝突は避け難いか、また、非西洋的・非キリスト教的な文化は、どのような形に収斂するのか。
  3. 自由貿易・市場開放によるさらなる物質主義は社会に何をもたらすのか。
  4. 多国間の国際秩序の権力構造はどうなるのか。
日米関係は将来も影響力を持つ2国間関係であり、日本の役割が問われている。

II. ナショナルインタレスト(国家利益)

1.基調スピーチ要旨
ナショナルインタレストの定義は難しい。例えば、「武力を行使してまで守るもの」と定義すれば、日本にナショナルインタレストは存在しないことになる。また、ナショナルインタレストは、国民の利益と必ずしも一致しない。アジア太平洋における日米のナショナルインタレストは矛盾するものではない。日米企業間のアジア市場における競争は激化しているものの、国益の衝突につながるものではない。むしろ、現地の経済成長を促すことで全ての国に利益をもたらす。
アメリカは日本に比べアジアでの民主主義の確立に熱意を持っているが、中国の人権問題を最恵国待遇供与の問題とリンクしない限り日米の足並みが乱れることはない。
日米2国間交渉の不調によって両国のアジア太平洋地域における協力の機会が失われている。順調な日米関係こそが、アジアにおける日本のナショナルインタレストを守る方法である。

2.現在のナショナルインタレストをめぐる議論の要旨
  1. ナショナルインタレストの定義についてコンセンサスを得ることは難しい。
  2. 今日まで米軍のアジア駐留は受け入れられてきており、実際に決定的な影響力を持つ。
  3. ナショナルインタレストを巡る健全な議論を活性化するために、政治家がオープンな議論を続ける必要があり、メディアに対する責任も問われる。

III. 将来のシナリオ

1.基調シナリオの描いた3つの将来
1) リニア・シナリオ(現状の延長からの推論):
アジア太平洋地域および日米関係の経済、政治および安全保障が、直線的なトレンドで推移すると想定する。日本は経済面でアジアに対し重要な役割を果たす一方、中国も経済大国として台頭する。日本市場への参入が少しずつ容易になる。APECの重要性が高まる。アメリカとアジア各国との政治的な緊張は続くものの、アメリカの安全保障上の役割が軽減することはない。
2) 緊張シナリオ:
アジア太平洋地域において、とりわけ日米関係において緊張が高まる。アメリカが、日本を経済面でも国防面でもフリーライダーと見なし、対日批判を高める。一方、日本は国家主義に傾く。アジアから駐留米軍が撤退し、地域紛争が多発する。また、アジアで軍拡競争が始まる。
3) 調和シナリオ:
日米およびアジア各国の順調な経済成長、日本の規制緩和などにより、日米がより調和的な関係の構築に成功する。また、中国の改革が安定的に進む。

2.将来のシナリオに関する議論要旨
現在、ロシアは混乱しているが、将来的にアジア太平洋地域の重要国となる。また、中国が経済的、政治的に力をつけ、影響力を持つ。北朝鮮問題、「3つの中国」問題などは依然不透明である。多国間組織の役割が重要となり、できるかぎりオープンで参加容易なものにすべきである。国家間の多様な問題は将来的にも発生するため、各国ともその中で対応する術を身につけていく必要がある。そのために各レベルで対話の機会を増やすことが重要である。


ジャパン・ソサエティ
ニューヨークを拠点に日米相互理解の促進を目的とする非営利団体。従来より、さまざまな事業で経団連および海外事業活動関連協議会(CBCC)と協力関係にある。

今回のフォーラムの主な出席者(敬称略)
アーミテージ、アラガッパ、入江昭、エズラ・ボーゲル、グライスティーン、桜井よし子、椎名素夫、田中明彦、ドライスデール など


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