経済協力委員会(委員長 米倉 功氏)/1月24日

台頭する非営利セクター


経済協力委員会では、「非営利セクター国際比較研究プロジェクト」の成果発表のため来日したレスター・サラモン ジョンズ・ホプキンス大学政策研究所長を招き、研究の成果について説明を受けるとともに、わが国の非営利セクターの現状について討論した。
サラモン教授は「冷戦後の世界において、先進国、途上国を問わず、全世界的な現象として、市民・民間レベルの連帯革命が生じている」などと述べた。

I. サラモン教授説明要旨

  1. 4つの危機と2つの革命的変化

    冷戦後の世界において、先進国、途上国を問わず全世界的な現象として、ボランティア団体、民間の非営利組織等が目ざましいペースで成長、増加している。
    非営利セクターの台頭は、4つの危機と2つの革命的変化が原因で起きている。
    第1は福祉国家の危機、第2が地球環境の危機、第3が途上国における開発の危機、そして第4が社会主義の危機である。
    これらにコミュニケーション技術の発達と識字率の上昇という革命的な変化が加わり、いわば、市民・民間レベルの「連帯革命」が生じている。

  2. 非営利セクターの特徴

    世界的な連帯革命が生じ、非営利セクターが台頭してきているにもかかわらず、非営利セクターについての情報やデータは欠如しており、全体像が正確に把握されていないのが現状である。
    そこで1990年に開始されたジョンズ・ホプキンス大学非営利セクター国際比較研究プロジェクトは、アメリカ、イギリス、日本等の先進国とブラジル、ガーナ、エジプト、インド、タイ、ハンガリーの12カ国を対象として、共通の枠組みと手法を用いて対象国の民間非営利セクターを実証的に分析する試みを行った。
    ここで言う非営利セクターとは、

    1. 公的に設立されていること
    2. 政府とは別組織であること
    3. 営利を追求しないこと
    4. 自主管理組織であること
    5. ある程度自発的な意志によるものであること
    と定義されている。
    研究の成果として、非営利セクターについて以下の5つの特徴が明らかにされた。
    第1に非営利セクターは対象各国において単なる社会的、道徳的な力であるだけでなく、重要な経済勢力であり、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ハンガリー、日本の7カ国において1180万人を雇用しており、全雇用のうち20分の1、サービスセクターの中で8分の1の雇用を提供している。
    第2に非営利セクターは程度の差はあるものの世界の相当数の国において重要な役割を果たしている。
    第3の特徴は、非営利セクターが多様な活動を展開している点である。非営利セクターは、教育、保健医療、社会サービス、文化活動から、環境、コミュニティー開発、国際活動まで幅広く活動している。
    第4は非営利セクターの最大の資金調達手段が、消費者へ提供するサービスや商品に対する会費や代金といった事業収入であることである。民間からの寄付は全体の10%と、意外と少ない(グラフ参照)。なお、日本の場合、民間からの寄付は1%と著しく少ない。
    第5の特徴は、非営利セクターは成長している一方で、次の5つの課題を抱えていることである。
    1. 広範な支持と理解を得るために、大衆、政府、マスコミ等に対し 非営利セクターの活動についてより積極的に情報提供を行うこと
    2. 非営利セクターの正統性が認められるように法整備を推進すること
    3. 政府との適切なパートナーシップを醸成し、活動にあたっての協力関係を強化すること
    4. フィランスロピーの基礎を確立すること
      これは民間慈善資金援助の基盤となるだけでなく、 非営利セクターの政府に対する独立性を高めることにも繋がる。
    5. 非営利団体自らが透明性を高め、倫理的行動をとるための責任体制を確立すること
    である。

非営利セクターの収入源の7カ国平均
非営利セクターの収入源の7カ国平均のグラフ

*個人や企業、財団による寄付
資料:ジョンズ・ホプキンス大学 非営利セクター国際比較プロジェクト

II. 質疑応答

経団連側:
サービスの対価として利益を上げる非営利組織と、営利組織とはどう区別されるのか。

サラモン教授:
非営利組織は利益を上げてはいけないということではなく、利益を配分してはいけない。ゆえに公共の目的のために利益を上げることはできる。
米国法においては、非営利団体は関連事業収入と非関連事業収入のいずれも営むことができる。ただし、非関連事業の場合、それが公共目的であってもその事業が営利事業と競合するので課税される。

経団連側:
非営利セクターが政府からの独立性を保つことは重要であるが、公的資金をもらいながら政府に対する独立性をどのようにして保っているのか。

サラモン教授:
米国では非営利団体の理事会が、組織運営や外部からの介入にあたって、独立性を持った機能を果たしている。
また、資金源の多様性も重要である。慈善の基盤を醸成し、複数の資金源を持てば公的資金への依存度も低くなり、政府からの介入を防ぐことができる。
日本の場合、法人格や免税措置取得の際の主務官庁が非営利団体の独立性を損う障害となっている。この分野における規制緩和も必要である。


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