新産業・新事業委員会企画部会(部会長 古見 多香郎氏)/1月25日

起業・新規事業進出の条件


新産業・新事業委員会企画部会では、日本LSIカードの大木社長、ネミック・ラムダの斑目会長、三井物産デジタルの土屋社長を招き、起業家、コーポレートベンチャリングの直面している問題点とその解決策等について、説明を聞き、懇談した。
ベンチャービジネスの創出育成には独創的な製品開発や投資家の育成が、コーポレートベンチャリングを行うにはベンチャーマインドを喚起・維持する動機づけが必要との意見が出た。

  1. 日本LSIカード大木社長講演要旨

    起業に際し特に重要なのは、独創的な商品作りをすることである。当社の開発したLSIカードは、フロッピーディスクと同じ役割をする外部記憶装置で、少々手荒く扱っても壊れることがないという特徴をもつ世界初の無接点方式ICカードである。現在、工作機械等の産業用機械やJRの車輌運転システム等に採用されている。
    海外のベンチャービジネスの研究開発を見るたびに、日本人は夜なべ仕事は得意だが、独創的な発想についてはあまり得意ではないと感じる。これからは、独創的な発想の芽を摘むことのないよう、社会一般に新しい評価基準を作る必要がある。
    大企業には、中小企業への資金援助等、肩を貸すことを検討してほしい。

  2. ネミック・ラムダ斑目会長講演要旨

    当社では、多くの大企業とは異なり、新入社員や中途採用社員に対して早いうちに失敗をする機会を与えている。失敗を通じて責任の重さを実感させた上で、責任の持てる能力の育成を図っている。
    ベンチャービジネスの育成のためには、ベンチャーキャピタリスト、すなわち、店頭公開直前の企業に投資して少しでもキャピタルゲインを得ようとするのではなく、初期段階のいくつかの企業に分散投資をして利益を得ることを考える、インキュベータキャピタルの育成が必要である。そのためには、資本市場全体を見直し、リスクもあるが、キャピタルゲイン等の見返りが早期かつ多額に得られる、自己責任原則に基づく資本市場をつくることが必要である。
    創造性・独創性については、日本人に資質がないのではなく、講義を聞いて答えを暗記する方式の学校教育に問題がある。これからは、先生に対して質問ができるような雰囲気作りが重要である。

  3. 三井物産デジタル土屋社長講演要旨

    企業内ベンチャーは、サラリーマンをしていた者への動機づけや、ベンチャーマインドの維持が難しいという特徴がある。当社は88年に開発会社として設立され、親会社は、新規事業分野への進出という意味に加え、製品開発という本社にない機能を期待した。私としては事業欲もあったが、それ以上に、中途採用、実力主義、年俸制という人事制度の実験をしてみたいという欲求がベンチャーマインドの喚起・維持につながった。設立当初、親会社から5人が来たが、人事ローテーションの一環として捉えていた人が多く、骨を埋めるというほどの意思統一はできていなかった。次期社長は、独自に採用した人材から選ぶつもりである。
    91〜92年には、小規模ながら無借金経営の優良会社になった。その原因として、

    1. 設立時期が良かったため、技術者の数だけ仕事があった
    2. 親会社からの100%業務委託で利益が確保できた
    3. 親会社の不干渉により思い切った開発投資ができた
    といったことが挙げられる。しかし、初期的な成功後、企業目標が不明になった。本社は親会社にできないことを分社化したという認識であり、私はベンチャー企業としての意識を持っていたため、会社としての位置づけが不明確になったのである。94年にはこれまでの方針を変え、開発会社から流通会社への転換を図った。製品開発部門の縮小と製造メーカーとの戦略的提携をし、付加価値の高いパソコン訪問販売のネットワークビジネスと、付加価値の低い通信販売・激安販売への分化をした。
    現状の問題点として、
    1. 方針変換に対する親会社の理解が不十分
    2. 企業ゴールが曖昧である。 具体的には、「上場」か「規模拡大」か「高収益化」の何が目標か不明である
    3. 流通企業としてインサイダー化するのに時間がかかる
    などが挙げられる。

  4. 懇談概要

    経団連側:
    土屋氏は、いずれは本社に戻るつもりなのか。

    土屋社長:
    本社はそのつもりだが、私個人としては骨を埋めるつもりでやっている。

    経団連側:
    産業の空洞化や雇用問題への決め手となるようなニュービジネスは、本当に生まれるのか。

    大木社長:
    日本は技術で生きていくべきであり、技術者の数が減少していることが問題である。その原因として、
    1. 理系志望の学生が減少している
    2. 昔の電電公社法等によって、技術者の研究対象や実験を制限したため、 通信技術の技術者が育っていない
    3. 欧米では、ベンチャー企業がいろいろなアイデアを出しているが、 日本ではまだそういう状況になっていない
    といったことが挙げられる。技術者の裾野を広げるような投資をしていくべきである。

    斑目会長:
    日本の基幹産業を支える基盤はしっかりしている。これからは、異業種交流、文化・年齢・地位を越えた交流をすることが、経済社会全体を活性化させていくひとつの方法になるのではないか。


講演者所属企業の概要

〔1.本社所在地、2.資本金、3.創立、4.事業内容〕

日本LSIカード(株)
  1. 大阪市
  2. 4500万円
  3. 1984年11月12日
  4. LSIカード及びそのドライブユニット、それら関連製品のテクノロジーソース

ネミック・ラムダ(株)
  1. 東京都品川区
  2. 28億7300万円
  3. 1970年2月9日
  4. スイッチング電源装置、その周辺機器および部品の開発製造販売

三井物産デジタル(株)
  1. 東京都千代田区
  2. 2億円
  3. 1988年8月
  4. レーザープリンターの開発およびスポーツ・レジャー関連のコンピュータ応用製品の開発・販売、 DOS/Vパソコンおよびパソコン関連製品の輸入販売


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