訪インド投資環境調査ミッション(団長 歌田勝弘氏)1/26〜2/5

巨象が動いた

三好 正也
経団連事務総長
訪インド投資環境調査ミッション副団長


インド巨象が長い眠りから目を覚まし、ゆっくり歩き出した。アメリカ、ドイツ、イギリスがしきりに手招きする。そちらの方に後ずさりしながら、巨象の目は東を向いている。巨象を起こしたのは、シンガポール、韓国、台湾、香港のNIESやASEAN諸国の経済発展であり、もはや眠ってばかりいられないと象に悟らせたのは、仮想ライバル中国の年率ふた桁経済成長であろうか。インド象はすぐにも後ずさりを止めて東へ歩を進める構えを見せつつある。
経団連が今回、初めてインドにミッションを派遣することを決めたのは、巨象の確かな足音を感じたからに他ならない。

インドの経済改革や市場の魅力については、これまでも色々話を聞いてはいたが、実際、訪問してみると正に百聞は一見にしかずとの感を持った。インドは日本の9倍の広がりを有し、風俗、宗教、生活様式もまことに多様のものがある。
今回、マドラスやバンガロールを先に訪問した後、経済の中心ボンベイ、政治の中心デリーを訪れるコースをたどったのは、多様性に富んだ巨象の体の多くの部分に触れてみたいと考えたからである。
埃ひとつ許さない管理の徹底したコンピュータ機器工場や2,500tプレスが轟音を響かせる近代工場を一歩出ると、物乞いの子供に取り囲まれる。また、インドでは、大小あわせ、百を越す言葉が話されており、デリーから来たガイドは、マドラスの言葉がわからないと苦笑していた。ちなみにルピー札の裏には、英語の他、14の公用語で「ルピー」と書かれている。
多様なインドと同質的な日本、両者には大きな差が認められるのだが、それでいて不思議と親近感を覚えた。平均的日本人の宗教観、生活感がヒンズーの思想に深く共通するところがあるとみたが、どうだろうか。聞けば、仏教はヒンズーの一宗派であり、インドでは異教としては扱われていない。家族を大切にし、人間関係を重視し、流血を好まず平和を愛するというヒンズーの教えはわれわれもすんなり理解できる。
概して、インド人は非常に親日的で、明治の日本が西欧列強の植民地にならず、独立独歩の近代国家と成りえたことに尊敬の念を抱いていると聞いた。この点、太平洋戦争を含め日本と複雑なかかわりを持った東アジア、東南アジア諸国とは大きく異なろう。
巨象インドの歩みを止めることはもう難しいという見方が定着しつつある。ラオ政権の規制緩和、経済改革路線は、たとえ政権が変わっても後戻りはしないだろうとの説明を各地で受けた。
インドには、良質で比較的安価な労働力が豊富に存在し、自由化が創りだす競争が刺激となり、経営者はビジネス・チャンス到来とばかり、本気になっている。インドの輸出競争力は今後、着実に高まろう。また、経済成長に支えられ購買力の旺盛な中産階級が急増しており、国内市場のポテンシャルに目をつけたビジネスが今後、ますます有望となろう。
長期的に見て、インドは、日本にとって、経済面のみならず、政治的にもますます重要なパートナーとなるだろう。国連や第3世界でのその発言力は、冷戦後の国際秩序を論ずる場合、無視しえない。将来、アジアの集団安全保障の仕組みを考える上で、インドの政治的安定と健全な経済発展は、重要なファクターとなるにちがいない。
今回の訪印はしっかりとした手ごたえのある旅となった。歌田団長の卓越したリーダーシップ、団員、現地参加者ご一同の真摯かつ積極的な参画があったお蔭と事務局を代表して感謝申し上げたい。今回の経団連ミッションが日印関係のさらなる強化に結びつくことを祈念するものである。


タージマハールにてミッション団員の方々と
(2月4日、立っているメンバーの右から5人目が歌田団長。1人おいて筆者)


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