創造的な人材の育成に関する懇談会(座長 末松謙一氏)/2月6日

創造力に溢れ個性豊かな人材の育成に向けて


創造的な人材の育成が、経団連会長新年メッセージにおいて、活動の柱のひとつとして取り上げられたことを受け、創造的な人材の育成に関する懇談会が発足、第1回会合を開催した。
当日は、前東京大学総長で理化学研究所の有馬理事長より話を聞くとともに、今後、懇談会の進め方について意見交換し、(1)これからの日本、あるいはこれからの世界にとって役立つ人材を育成するために、(2)高等教育に限らず、初等・中等教育、さらには家庭教育、企業内教育を含めて幅広く検討し、(3)企業とのかかわりを中心に提言し、実行に移すこととなった。

  1. 豊田会長挨拶
  2. 新年メッセージを受けて創造的な人材の育成に関する懇談会を設けた。日本を良い国にしていくための全ての根幹となるのが、教育である。政治を良くするためにも、行政が時代を先取りしていくためにも、人材の育成は不可欠である。経済界としても、日本の国の将来を考え、この問題に真剣に取り組んでいきたい。

  3. 活動を進めるにあたっての基本的考え方
    末松座長
  4. 経済・社会システムの大きな変革期を迎えた我が国では、創造力に溢れ、個性豊かな人材の育成が求められており、経済界あるいは企業としても、自ら改革できることを通じて、次代を担う人材の育成、教育の改革に積極的に取り組んでいくことが必要であると考えている。
    そこで、この懇談会では、創造性に富む人材を巡って、幅広く検討を行い、提言を取りまとめていきたい。その際、企業にとって必要な人材という、直線的な観点からのみこの問題を議論するのではなく、初等・中等教育も含めた学校教育のあり方、さらには、家庭や社会教育までも視野に入れていく。また、メンバーとして各層の有識者にも加わっていただき、専門家あるいは経済界の外の立場から意見をいただくことにしている。
    そして、提言については、企業とのかかわりを中心に取りまとめ、その実現を推進していくこととしたい。

  5. 指導者の養成と基盤的人材の養成
    理化学研究所 有馬理事長
  6. 1.戦後教育のねらいと成功

    戦後教育は、基盤的・足腰的な人材の育成を重視し、成功を収めてきた。わが国の進学率は、戦後、大幅な伸びを示し、現在、高校でほとんど100%、4年制大学で30%程度にまで達し、中堅的人材が多数育ってきた。わが国が欧米からの技術の導入に成功したのは、こうした人材が技術の移植で大活躍をしたからである。
    わが国の戦後教育は、一般的には成功してきたが、その一方、独創的・頭脳的な指導者の育成のためには十分なものではなかった。中堅的な人材に求められた資質は、素直さと協調性であり、独創性はむしろ抑制されてきたのである。

    2.戦前の高等教育と戦後の大学の問題点

    戦前は、高等学校から総合大学に進学するという道と、高等専門学校を卒業し、就職するという道があった。前者の場合、理科の学生も、高等学校で哲学や歴史を学んだ上で、大学で専門的な教育を受けた。これが、いわゆる、ユニバーシティー型である。一方、高等専門学校で徹底的に専門教育を仕込むという後者のパターンが、ポリテクニーク型と言える。
    戦後は、こうした2つの類型の学校が合併され大学が誕生したが、その結果、大学の位置づけがあいまいになってしまった。最近、大学設置基準の大綱化が進んでいるが、これは、各大学の位置づけを整理することを目的としたものである。
    しかし、その結果、ほとんどの大学が、教養部を縮小する方向に動いている。これは、今後、ポリテクニーク型の教育が増えていくということであり、ますます中堅的な人材が育っていくおそれがある。

    3.指導者の養成と日本の大学院の問題点

    今後求められる人材は、専門教育をしっかり受けた人であるという意見がある一方、変革の時代においては、一般教育をきちんと修めた人が必要との指摘もある。これらは、ある意味で矛盾する要求であるが、それを満たしていくためは、まず、高等学校だけでなく、大学においても一般教育を教える必要がある。そして、専門教育については、学部の後半に加えて、大学院で対応しなければならないと考えている。
    しかし、大学院は、こうした要請に応えるには十分とは言えない。例えば、わが国の場合、経済や法律の分野で博士号を取得する人は、年間200人程度であるのに対して、アメリカでは約5,000人、イギリスでは約9,000人となっている。工学博士についても、わが国が2,000人程度であるのに対して、アメリカ約6,000人、イギリスが約4,500人となっている。わが国の大学院をもっと充実させていくべきである。
    ただし、数を増やすだけでは、オーバードクターが増えるだけである。大学側も社会に役立つ人を育てる必要があるが、企業の側も、日本の博士の採用に努めていただきたい。

    4.日本の教育全般の問題点と対策

    日本の教育の全般を考えた場合、問題となるのは、第1に、極端な平等思想である。学校では、いかにしてできの悪い生徒の成績を向上させるかに重点が置かれているが、できない子はできない子なりに、できる子はできる子なりの教育を行うべきである。飛び級制度、公立の6年制高校の導入などを考えて欲しい。
    第2の問題は、極端なブランド志向である。良い大学に入学できれば、良い企業に入れ、一生安穏として暮らすという人生のパスポートをもらえると誤解している親がおり、受験戦争があまりにも過熱している。大学も入試の改革を進めているが、産業界としても採用にあたって、多様な経歴を考慮していただきたい。


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