中南米委員会(座長 高垣 佑氏)/2月2日

中南米諸国の発展のため米州開発銀行の新たな役割を推進

イグレシアス米州開発銀行(IDB)総裁との懇談会を開催
中南米委員会では中南米諸国の地域統合への動きを踏まえつつ、わが国と同地域の関係強化に向けた活動を進めているが、米州開発銀行(IDB)のイグレシアス総裁がIDB域外国会議のため来日したのを機会に、同総裁を当委員会に招き、最近の中南米経済情勢と展望、IDBの今後の取り組みにつき説明を聞いた。
IDBは中南米地域の開発途上国の経済的・社会的開発の促進を目的として、1959年に設立された国際開発金融機関である。なお、昨年9月にも経団連経済協力政策対話ミッションがIDBを訪問し、イグレシアス総裁ほか幹部と意見交換をしている。

I. イグレシアス総裁説明要旨

  1. IDBの新たな役割
  2. IDBは94年4月にグアダラハラで開催された理事会において、増資、新たな業務内容、ならびに経営形態の変更を決定した。8回目の今回の増資で、資本金は600億ドルから1000億ドルとなった。
    新たな業務内容としては、社会的側面での活動強化と民間部門との連携がある。前者については、健康、衛生、教育、上下水道等に加え、国家改革、司法、収税、地域統合等への支援が新しい方向として打ち出された。民間部門との連携については、国家保証がなくても民間プロジェクトに融資する制度を創設した。但し、この融資はプロジェクトの総額の25%までで、IDBの融資総額の5%以内という制限がある。
    経営形態に関しては、増資に際して資本構成を変え、米州と域外国の割合が各50%の比率となった。特に、日本の出資比率は1%から5%に増えた。また、IDBは日本から常勤役員を受け入れるほか、今年の下半期に日本に代表事務所を開設することになった。
    IDBはその能力を活かし中南米諸国のインフラ・社会投資、経済改革、地域統合、民間部門との連携に協力しており、域外諸国との橋渡しの役割も果していきたい。

  3. 中南米経済の展望
  4. 1980年代に中南米諸国は対外債務危機から「失われた10年」と呼ばれる時代を経験した。しかし、この危機は民主化などさまざまな政治的反応を引き起こした。
    その第1は新しい政治的指導者の到来であり、彼らが中南米諸国の経済改革を積極的に推進している。マクロ経済の安定、市場開放、財政赤字の克服等を中心に経済改革に取り組んだ結果、中南米諸国の財政赤字は平均でGDPの1%程度となった。
    第2は中南米域外も含む対外開放で、関税や非関税障壁も大幅に減り、中南米諸国の関税は平均で15%以下になった。また、メルコスール等の中南米域内での経済統合も進んでいる。
    第3は国家改革であり、小さな政府を目指し、中南米諸国では2,000社に及ぶ公社の民営化が行われた。
    このような努力の結果、94年の中南米諸国の経済成長率は平均で3.7%、インフレ率はメキシコ、アルゼンチンで一桁台にまで下がり、輸出入も増加し、中南米は良いサイクルに入った。

  5. メキシコの通貨危機
  6. メキシコはこの数年間、財政赤字の削減、市場開放を含む抜本的な経済改革を進めてきた。一方、ペソが実力以上に高くなり、経常赤字が危険なレベルになるまで拡大していた。94年はチアパスでの蜂起、大統領候補の暗殺、大統領選挙など政治的事件が続いたため為替の調整が遅れた。政府は高利の短期債券を発行し、財政的に脆い状況になっていた。このような中で為替調整を行ったため通貨危機が起きた。
    国際金融界は積極的に対応し、IMFのスタンバイ・クレジットの拡大、米政府は200億ドルの為替安定基金への貢献を決めており、危機は乗り越えられそうである。
    今回の危機は、為替調整に遅れをとったことが主要な原因で、政治的問題が原因ではない。メキシコとIMFの関係も、メキシコが財政赤字の削減やインフレの抑制に合意したことで、良い方向へ向かっている。また、メキシコ経済のファンダメンタルは良く、NAFTAがそれを支えており、今回の調整が進めば問題は解決される。

  7. 中南米経済の展望
  8. 中南米諸国は経済の近代化、拡大に取り組んでおり、これが発展の原動力となっている。また、対外開放も良い影響を及ぼしており、2005年に米州の市場統合を実現することが理想である。米国も中南米の価値を再発見しており、重要なパートナーと見ている。メキシコの通貨危機に対するクリントン政権の素早い対応は、このような見方の現れである。中南米諸国は、発展を軌道に乗せるためにも、財政の健全化、輸出の拡大、国内貯蓄率の向上等に多大な努力を行う必要がある。

II. 質疑応答

問:中南米の市場統合の動きが保護主義とならぬようIDBに対応してもらいたい。
答:保護主義の危険はあるが、現在の統合の枠組みは域外に開放されたものである。最近、EUとメルコスール(南米共同市場)との間で自由貿易地域を作る話も進んでいる。

問:公営企業の民営化の状況は。
答:IDBとして正式な評価は行っていないが、印象としては順調に進んでいる。特に、チリ、アルゼンチンで進んでいる。

問:NAFTAにより、米国に対して競争力の劣るメキシコの経常赤字が拡大するという問題があるのではないか。
答:EUにおいても、ドイツとポルトガルのような競争力に差のある国がある。メキシコの貿易量の70%は米国とのものである。事実上統合されるより、法的枠組みの下で統合が進む方が良い。現在、メキシコと米国の貿易量はほぼ均衡している。メキシコ企業が米国のサポーティング企業として、日本と東南アジアのような関係ができれば望ましい。メキシコ企業の近代化も進んでおり、NAFTAは全体としてはプラスである。


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