国際産業協力委員会(委員長 伊藤 正氏)/2月10日

わが国の経済外交課題


国際産業協力委員会では、外務省の原口幸市経済局長を招き、経済外交における重要課題につき、(1)多国間貿易交渉、(2)地域的枠組み、(3)2国間交渉、の各視点から説明を聞き、懇談した。
原口局長は、「わが国は他国から尊敬される国柄を背景とした外交を指向すべきである」と述べ、国内における規制緩和の重要性を強調した。

原口局長説明要旨

  1. 経済外交の重要性
  2. 一国の国際的な影響力は、政治力、経済力、軍事力、情報発信力など多様な要素から成る。戦後わが国の国力の源泉は経済力に依存しており、外交の中でも経済外交が大きな比重を占めている。
    冷戦の終焉によって、同一陣営内の団結力が弱まり、軍事力に比して経済や科学技術の重要度が高まった。

  3. 多国間貿易交渉(GATT/WTO)
    1. 冷戦の終焉により、政治的には民主主義の要求が強まり、経済的には市場メカニズムに委ねることが賢明だと考えられるようになった。ボーダーレス化が進む世界経済の中で多角的貿易体制の堅持と強化は、冷戦後のわが国経済外交の主要課題である。
    2. ウルグアイ・ラウンド(UR)の成果を受けて、今後の多角的貿易体制の中心となる世界貿易機関(WTO)が本年1月1日に正式に発足した。
      URは、過去7回の交渉と比して、(1)参加国・地域が120を越えた「地理的拡大」、(2)関税引下げのみならず、サービス貿易、知的所有権、貿易関連投資措置についての交渉も行った「対象範囲の拡大」という2点において画期的なものであった。
    3. WTO下の紛争処理手続きは、これまでのGATT方式の反省に立ち、(1)パネル報告の期限短縮、(2)理事会におけるネガティブ・コンセンサス方式(全員が反対した場合を除いて採択)の採用、など大幅な改善がなされた。
      今後、通商における紛争処理問題において、恣意的、利己的な圧力を減じることが期待できる。
    4. ポストURの視点として、(1)WTOを積極的に活用し、効果的なシステムとして定着させる、(2)貿易と環境、貿易と競争政策、貿易と労働、貿易と投資などの新しい分野のルールを構築する、という2点が挙げられる。

  4. 地域的枠組み
    1. 多国間交渉には、(1)合意に時間がかかる、(2)合意内容が最大公約数になってしまう、といった欠点がある。それを補うために、NAFTAやEUなどの地域主義を採る国々がある。
      地域主義は必ずしも多国間交渉に逆行するわけではなく、プラスにもマイナスにもなり得る。域内資源の効率的配分による経済力の向上は、域外との貿易活性化につながる可能性がある。他方、域内貿易の優遇措置により、効率的な域外貿易を阻害することになればマイナスである。
    2. 発展段階、文化、歴史、言語、宗教などで多様性に富むアジア太平洋地域において、「ダイナミックな経済発展に対する関心」という前向きな動機から、1989年にAPECが提案された。APECはGATT第24条に基づく伝統的な地域主義ではない。「開かれた地域主義」を指向しており、貿易・投資の自由化、域内投資のための手続きや規則の透明性を目指すものである。
    3. 昨年11月のボゴール宣言では、2020年までの貿易・投資自由化の実現を決めたが、具体化は今後に委ねられる。
      例えば、自由化の成果を域外国に均霑する際に相互主義と無条件MFN供与のどちらを採るかという問題、中国をいかにAPECに組み込むかという問題などがある。
    4. 本年11月、わが国は大阪におけるAPEC閣僚会議・非公式首脳会議で議長国を務める。域内自由化の行動指針づくりにおけるイニシアチブは、わが国にとって本年最大の経済外交課題である。わが国は、(1)自由貿易推進のモメンタムの維持、(2)コンセンサス重視の進行、(3)WTOシステムとの整合性の確保、を基本に据えたイニシアチブの発揮を目指す。

  5. 二国間経済交渉(日米経済問題)
    1. 日米が二国間交渉を行う主たる理由は、(1)日米は、政治・安全保障、国際協力、経済関係において密接であり、特に重要な二国間関係である、(2)慢性的な経常収支不均衡に米国が危機感を募らせている、(3)アメリカでは、日本の貿易慣行が不公正だという認識が定着し、円滑な日米関係の維持に厳しい事態となっている、という3点である。
    2. 一昨年のクリントン・宮沢会談で日米包括経済協議の開始が合意され、以来15カ月を経た昨年10月に、カンター・河野会談で、電気通信と医療機器の政府調達分野、保険分野についてようやく合意を得た。また、板ガラス、金融サービスの交渉でも成果があった。
    3. 包括協議の障害となったのは、米側が「日本は特異な制度・慣行の下で経済的に成功したため、自発的にそれを修正するはずがない」との認識の下に、手続きの改善ではなく予め結果を決めておく必要があるとし、「客観的基準」に固執するという特異な立場を採ったことである。
      ただし、この問題に関しては昨年決着しているため、今後も包括協議の枠組みで交渉を続けることに問題はない。
    4. 今後、包括協議の中心は、セクター別から規制緩和に移る。規制にはデリケートな側面があり、その緩和には国民の自己責任原則の確立を伴わねばならない。また、競争政策の強化が必要となる。
      規制を抜本的に見直さないと、経済が沈下する恐れがある。主要経済国であるわが国が過剰な規制を維持されることは許されない。日本は、他国から尊敬される国柄を背景とした外交を目指すべきであり、そのための基盤作りに規制緩和は不可欠である。「規制緩和5カ年計画」に対して内外から注目が集まっており、わが国の経済外交上の重要課題となっている。

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