なびげーたー

交通基盤整備と阪神大震災

産業基盤部長 山内 尚満


各種社会資本を充実させるには今後10年が極めて重要である。着実な整備を図るとともに、大震災の教訓を踏まえ多重的な交通ネットワークを構築すべきだ。

  1. 今後10年間は高齢化社会などの社会構造の変化に備え、各種の社会資本を充実させる大事な時期である。輸送委員会(委員長:濱中日本通運社長)では、21世紀に向け、貴重な財源を有効に活用し、円滑で効率的な輸送を実現する観点から、ここ1年、企画部会(部会長:普勝全日本空輸社長)を中心に、交通基盤整備のあり方について検討を重ねてきた。その成果をとりまとめたものが、「円滑で効率的な輸送の実現に向けて―交通基盤整備のあり方―」と題する報告書であるが、とりまとめの最終局面で兵庫県南部地震が発生した。

  2. 今回の大震災によって、交通インフラの重要性を痛感した。特に物流については平時の際、その重要性は忘れられがちだが、今回のように一旦大災害が発生し、食料などの供給ルートが途絶えると瞬時に住民の明日の生活すら保証されない事態を招くことになる。電力などのライフラインの復旧状況に比べ、道路や鉄道といった交通インフラの復旧は、関係者の努力にもかかわらず、必ずしも順調に進んではおらず、被災地住民のみならず、国民のモビリティにも深刻な影響を与えている。

  3. また今回の大震災では、港湾が潰滅的な被害を受けた。港湾は、近年国の予算が抑制されているなど、国民にもあまり注目されていない分野であるが、大きな被害を受けた神戸港は、わが国全体の3分の1に当たる国際コンテナを取り扱っていたことから、代替的に近隣の大阪南港や遠くの横浜港などに振り替えようとしても、容量的に間に合わない事態に直面している。

  4. さらに問題なのは、神戸周辺で荷役される貨物の40%を担う、民間所有の専用岸壁が大きな被害を受けたことである。復興事業費を盛り込んだ本年度の第2次補正予算では、民間専用岸壁が開銀融資の対象となったが、公共岸壁や自治体の埠頭公社所有の岸壁のように国の一般財源を投入するかたちにはなっておらず、民間専用岸壁に対して追加的な国の支援が求められる。

  5. いずれにしても大震災を教訓として、今後交通インフラの整備を進める際には、災害時に代替ルートが確保されるよう、多重的ネットワークを構築するという視点が必要である。今回の報告書は、特に大災害発生を前提に検討を行ってとりまとめたものではないが、今後財政が逼迫していくなかで、国と自治体が共同で戦略的な基盤整備計画を策定し、災害時にも十分機能する交通ネットワーク整備のために貴重な財源を重点的に投入すべきことは当然であろう。
    また、縦割りの整備体制を見直し、モード横断的に総合調整が図れる体制を構築することも中期的には重要な課題である。


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