経団連意見/2月8日

社会が変わる、会社も変わろう、男女の働き方を変えていこう


女性の社会進出に関する部会(坂本春生部会長)では標題のレポートを、経営者・人事部長・男女社員へのアンケート調査結果(94年9月実施)とともに公表した。本レポートでは成熟期を迎えた日本社会の活力源として、男女を問わず意欲ある人々がはつらつと働ける環境作りが必要として、意識・制度等の障害を指摘し、その除去の方策を提案している。
各企業における指針やチェックリストとしての活用を期待し、レポートの概要を紹介する。


坂本 春生 部会長

  1. 基本的な考え方
  2. いま、日本社会は成熟期を迎え、質的な充実にその活力を見いださざるを得ない時代にある。効率性から創造性、画一性から多様性、レベルアップからブレークスルーへ、依存から自立へと価値基準を変化させねばならない。この価値基準の変化に際し重視すべき視点は、男女差、学歴、年齢等より「個性」を尊重することであり、同時に自立した「個」の確立である。
    会社も多様化する市場や若い労働力の不足への対応をふまえ、多様な人材活用のための取組みが望まれる。そのひとつとして、意欲と能力ある女性の活躍の促進が重要である。女性が本当に働きやすくなるには、従来の男性の働き方も変わっていかなくてはならない。会社全体のシステム変革が求められる今が、男女の働き方を変えるチャンスである。

  3. 男女がはつらつと働くうえで存在する障害
  4. 主要な障害は以下の6点である。
    1. 「男性は仕事、女性は家庭」という画一的な性別へのこだわりの意識と制度
    2. 社員の同質性と暗黙の了解を前提とした会社での指示やコミュニケーション
    3. ライフステージに応じた働き方や働き手の多様性を考慮しない会社中心の風土
    4. 育児・介護を十分にバックアップしえない社会の仕組みや「保育に欠ける児童を行政が措置する」福祉概念に立つ保育所
    5. 育児・介護休暇などの会社の制度があっても活用できない状況
    6. 労働基準法の女性保護規定、税制や社会保障等といった制度や慣習の硬直性

  5. 男女がはつらつと働くための12の提案
  6. 〔会社への提案〕


    1.性別へのこだわりからの脱却
    社員が広範に持つ性別へのこだわりの意識を払拭し、さらにこれを前提とした制度・慣行を変え、意識改革を促進すべきである。募集・採用、配置・昇進、昇給等に際し、広く均等な機会を与えるべきである。

    2.労働時間の自由裁量化
    フレックスタイム制などによる労働時間の自由裁量化を業種、企業の実情に応じて進め、社員が個人生活や地域貢献活動に使える時間の選択肢を増やすことが求められる。またボランティア休暇、長期休暇制度等の導入・定着は育児休業や育児短縮勤務などの取得への抵抗感を小さくする。

    3.育児・介護と職場の両立条件の整備
    育児休業、育児期の時間短縮勤務をさらに普及させるとともに、利用しやすい環境作りに努める必要がある。さらに、育児休業時の代替社員制度、業務情報の提供などの育児支援策の導入を提案する。介護についても早急な条件整備が必要である。

    4.社員の意欲と能力を向上させる制度
    男女を問わず、能力と経験に応じ多様な仕事にチャレンジできる条件整備が望まれる。キャリアアップを促進する専門職・専任職等の職種コース制度や能力開発と結び付けたローテーション、明示的かつ透明な指示とコミュニケーションを行う組織風土の確立、結婚・出産時の退職慣行の是正、結婚後の旧姓使用等の検討が必要である。

    5.多様なライフスタイルに配慮した制度
    地域限定勤務など社員の多様化しつつあるライフスタイルに配慮した制度の導入や社員、派遣社員、パートタイマーなど複数の就業形態の人々がひとつの会社・職場で働く雇用形態の柔軟化が求められる。一度は家庭に入った人を対象とする再雇用制度の導入や情報提供を進めるべきである。

    〔働く人への提案〕


    6.性別にこだわらない仕事の仕方
    上司・同僚・部下に接する際に、性別ではなく個人差を評価し尊重することを基本とすべきである。

    7.自己の行動への責任意識
    組織のなかの働く個人としての責任を認識し、業務にチャレンジする姿勢が正当な評価、自己実現に通じる。働く場や働き方の選択にも、自己の個性やライフスタイルと、求められる能力や責任との関係を考え主体的な判断をくだす意識が重要である。

    8.家庭や地域での役割の見直し
    会社だけでなく、家庭、地域さらに社会に関わる生活者であることを意識し、家庭生活や地域での活動に際しても、従来の画一的な男女の役割分担の考え方を変えていく必要がある。

    〔政府への提案〕


    9.保育サービスの多様化と充実
    延長保育・乳児保育等の選択的な保育サービスの促進のため、受益者負担原則を導入した「保育の自由化」を施設設置基準などの緩和とともに進めるべきである。また、生活者の需要に見合った利便性の高い民間無認可保育所の認可幅の拡大、保育施設・手段の多様化などを図るべきである。

    10.再就職希望者に対する支援
    育児等による退職者への職業訓練の機会拡充、大学等での再教育機会の提供、公的な情報提供の促進を図るべきである。

    11.女性の働く意欲をそぐ制度の見直し
    労基法上の時間外労働や深夜業の女性保護規定は、現状の「原則禁止・特定の業務と対象者のみ規制解除」から「原則自由・限定規制」に切り換え、健康面で必要な業務のみを規制すべきである。家庭を1人の給与所得者が支えることを前提とする税制等も、女性がライフスタイルに応じて働き続けることを前提に見直す必要がある。

    〔その他の提案〕


    12.家事サービス支援業の発展の促進
    安価で良質なサービスを提供する「家事サービス支援業」が健全に発展するような社会的な理解と支持が望まれる。


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