新産業・新事業委員会(委員長 大賀典雄氏)/2月23日

ニュービジネスの成功はチャレンジ精神から


新産業・新事業委員会では、現在、代表的な起業家の経験を通じて、わが国におけるニュービジネスの創出・育成に関わる問題点を整理している。
今回は、創業以来、記録的な短時日で株式店頭公開を果たしたソフトバンク社の孫正義社長を招き、同社の歴史、独創的な経営戦略ならびにニュービジネスの創出・育成に向けての見解を聞いた。以下は孫社長の講演の要旨である。


孫 正義 社長

  1. ソフトバンクの基本戦略と歩み
  2. ソフトバンクは、パソコン業界のインフラプロバイダー、すなわち海外・国内のソフトメーカー、ハードメーカーが活躍しやすい舞台を作る役割を果たすことを目指している。インフラは特定のヒット商品より長いサイクルを持つ。そのためインフラプロバイダーは、(1)普遍的な成長繁栄、(2)健全な利益性、(3)安定性を望むことができる。マイクロソフトが世界的企業になったのは、OSというインフラに着目したからである。ソフトバンクは、パソコン業界のインフラを押さえることを目指している。
    アメリカ留学中の19歳の時に、自分で開発したフル・キーボードのポケコンの特許を売り1億ドルの資金を調達し、1981年、24歳で創業した。82年にはパソコンソフト流通でシェア1位となり、出版事業に進出した。83年には全国に営業所を設置し、85年にはパソコンがビジネスの現場に導入され始めたため、ビジネスソフトの販売が本格化してきた。87年にデータネット事業に進出、88年にソフトバンクアメリカを設立した。90年には、未だ無名に近かったノベルに出資し、ネットワーク事業に進出した。同年、社名を日本ソフトバンクからソフトバンクに変更し、5年以内に売上げ1000億円を目標とするCATCH1000計画をスタートさせた。93年に本社を日本橋浜町に移転、パソコン販売事業に進出した。94年には株式店頭公開を果たし、メディアバンク設立、日本シスコシステムズに出資、Ziff-Davis社展示会部門およびPTL社出版部門を買収した。今年になりパソナソフトバンクに出資、米国インターフェース・グループの展示会部門を買収した。ソフトバンクは展示会部門を、楽市楽座として位置づけて重視している。

  3. 情報革命とパソコン
  4. ソフトバンクでは、日次決算を採用し、商品別・エリア別の経常利益を、ノートパソコンを通じて場所を問わず、刻々と変化する様子までも把握することができる。
    パソコンの国内出荷台数は年々伸びており、94年度は93年度の35%増である。いまやパソコンは文房具と同程度のコストで導入できる。例えば、15万円のパソコンを5年でリース契約すれば月額3000円程度である。新聞は月額4300円、コピーを 600枚とれば3000円である。オフィスへのパソコン導入に要するコストはその程度であるにもかかわらず、稟議書なしでパソコンを買える会社が日本にあるだろうか。
    行政機関のパソコン普及率をみても、アメリカでは 2.6人に1台であるのに対し、日本では24人に1台である。日本の1部上場企業のパソコン装備率は約25%(4人に1台)であるが、販売・仕入れ・展示を主とし開発業務を行わないソフトバンクは 280%(1人に2.8台)である。パソコンは、織田信長の時代における鉄砲のようなものである。パソコンに対する認識を変える必要がある。
    業界標準OSの変遷を見ると、パソコンを単体で使う時代からLANの時代を経て、現在はインターネットワーキングの時代に入った。これからは、インターネットワーキング関連のビジネスが伸びるだろう。
    マルチメディアとは、テレビ・電話・パソコンという異なるメディアをデジタルを媒介として融合したものである。マルチメディア関連のニュービジネスとしては、娯楽分野が先行することになろう。
    マルチメディアをめぐる日米の違いは、時間的な遅れ以外は無いと考えている。日本は国が狭いとか、キーボード文化ではないといった考え方は正しくない。国土の狭い日本でも、電話やテレビ、自動車が普及していることを考えれば、パソコンも普及するはずである。認識が遅れていることが原因で普及していないのである。

  5. 提言
  6. 日本は変わらなければならない。頭の切替えが必要である。現在は、農業革命、産業革命に次ぐデジタル情報革命の時代である。これにより、人類だけが自らの脳の1000倍以上ものスピードで情報を処理できるようになった。この革命の功労者はビル・ゲイツであるが、彼はキリストの次に人類に貢献したスーパースターである。
    日本は、ビル・ゲイツが生まれ得ないほど遅れている社会であることを素直に認めた上で、改革していく必要がある。
    例えば、これからの人材育成ではパソコン文盲率をゼロにすることが必要である。そのためには、大学入試センター試験にコンピュータサイエンスの問題をわずか3問でも入れれば、日本中の家庭・塾・学校に、たちまちパソコンが導入され、子供たちがコンピュータの勉強を始める。
    また、ストックオプション制度の解禁や超累進課税の廃止をすれば、事業意欲・起業家精神を喚起することになろう。国としては、通信料金体系の見直しや、自らパソコンを利用する等、デジタル情報革命に対応した政策を打ち出していく必要があろう。
    いずれにせよ、チャレンジ精神が衰えれば企業の活性化は成されない。私自身もチャレンジ精神を大事にしていきたい。


ソフトバンク株式会社

設立:
1981年9月3日
資本金:
54億3100万円
事業内容:
  1. パソコン用ソフトウェア、パソコン本体、周辺機器の流通卸・商品企画
  2. ソフトウェア・ハードウェア・コンピュータ言語に関する雑誌・書籍出版
  3. ネットワーク・システムインテグレーションに関する事業
  4. 通信用アダプターの製造・販売、通信ネットワークサービス
売上高:
641億円(94年3月期)
社員数:
711人

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