ライフサイエンス委員会(委員長 森 英雄氏)/2月21日
がんは解明から克服へ
ライフサイエンス委員会では、杉村・国立がんセンター名誉総長(東邦大学長)を招き、「がんの諸問題」というテーマで、国の政策、研究の進捗状況、さらには身近な疑問点について説明を伺うとともに懇談した。
杉村名誉総長からは、(1)がんは原則的に治る、(2)がんは原則的にかからないですむ、(3)がん発生のメカニズムがわかってきた等の説明があった。以下はその概要である。
1.がんは原則的に治る病気
- 日本では、高齢化が進み、がんで死亡する人が年々増え、現在約23万人である。日米両国ではがん患者の50〜55%が治るようになった。両国で多少の差はあるが、外科療法が8割、放射線療法が1割、化学・免疫療法が1割の寄与である。
「原則的に」というのは、治りにくいがん(膵臓がん、胆嚢がん、ある種の胃がん等)があるからである。それも、やがては治るようになるが、しばらくは苦戦が続く。
なお、1カ所のがんが治っても他の部分に違うがんができることがある(再発でなく、多重がんといわれる)。
2.がんは原則的にかからないで済む病気
- がんにかかるか、かからないかは、環境要因が大きい。予防は可能になってきた(かからないためには、塩辛いもの、脂肪分の多いもの、酒・たばこは控える)。
3.解明されてきたがん発生のメカニズム
- 人間は数10兆個の細胞からなるが、このうち数分の1の細胞は、地震を起こす活断層のようなもので、いつがん細胞になってもおかしくない。細胞のDNAには10万個の遺伝子がある。そのうち 100個くらいが、がん発生に関係がある。さらに、そのうち10個くらいが変化すると、その細胞はがん細胞になる。
最近10年で、がん発生のメカニズムがかなりわかってきたので、それを診断、治療、新薬開発、予防に活かすべき時がきたと思う。それが昨年から始まった「がん克服新10か年戦略」である。
4.主な質問に対する回答
- がんは遺伝子変化の組合せが患者ごとに異なっているので、1つの薬で治療することは難しい。
しかし、現状では、がんの種類に応じたオーダーメイドの医薬品開発はできていない。個人的には、そうすべきであると思っている。
- がんに関する情報は、2〜3年後にインターネットを通じて入手可能になる。
- 高齢化社会においては、がんの発生を後送りすることが重要な予防法である。
- がんの告知は、日本では患者の様子をみながら丁寧に行っているが、医療保険の点数はゼロである。
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